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戦う意思は誰が為か  作者: じりゅー
第一章 そして戦禍へ
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二話 誤解

「付いて来て。」


 件の放課後。校門に行くと早速移動を言い渡される。

 浮ついた気分も、もしかしてという気持ちも全く無いわけではないのだが、氷倉さんのピリピリした雰囲気も相まって怖くなってきた。本当に彼女に付いて行って良いのか…いや、付いて行かなかったらそれこそまずいことになりそうな気が…


「…あの、どこへ向かっているかを聞いても?」


 今まで行こうとも思わなかった細い路地を通り、見たことも無い場所に出る。

 帰巣本能が叫び続ける。不安が大きくなっていく。


「人気が無い場所だけど…城野君もその方が良いでしょう?」


 ……バッと振り返ってダッシュして良いですかね?

 っていうか俺もその方が良いってなんだ? なんの気遣いなんだ?


「この辺りなら大丈夫かな…」


 ビルの影に隠れた少し開けた場所。空き地と呼ぶには猫の額ほどしかないが彼女にはご満足頂ける場所らしい。


「そろそろ話について聞いても?」


 鏡を見れば半ば青ざめているだろう。血の気が薄くなっている自覚くらいはあった。

 しかし、薄暗いからか彼女は俺の顔色に気付かなかったらしい。


「…そうね。

 城野君。貴方も“能力持ち”だよね?」


「……?」


 ????

 え? なんすかそれ。新手の厨二ですか?


「とぼけなくてもバレバレだよ、だって…ほら。」


 氷倉さんがバッグを漁り、取り出したのは木のような物体だった。

 細かく言うなら木彫りの歪な五…六?角形の何か。

 木のようなもの、という表現をしたのはそれが光っていたから。いや、木のような柄をした発光物といったところだろう。明滅しているので蛍光塗料やその類のものではないことは分かるが…

 あ、氷倉さん発光物仕舞った。なんのアピールだったんだ?


「……とにかく、そろそろ能力の準備をした方が良いよ。

 じゃないと――」


「!?」


 氷倉が淡い水色の霧のような物をまとった。

 目を擦り、見直しても霧のような物ははっきりと残っている。少なくとも見間違いではないらしい。

 氷を連想させる寒色のオーラは見ているだけで凍えてしまいそうだ。いや、事実背筋は凍り付いている。

 あれはどう見ても常識の外にある現象だ。魔法のような不可解な力を思わせる。

 しかもそれを扱っているのはクラスに居た――それも、好いていた女子。まともな思考はおおよそ止まり、早く逃げろと本能が叫んでいた。


「………」


 氷倉はスッと右手を振り下ろし、その軌跡の根本を握るように手を軽く握る。


「な!?」


 何をする気かと思ったその時、彼女の手には荒い氷柱のような氷が握られていた。

 氷の槍の切っ先を俺に向け、俺に向かって投擲する。


 バキン!


 俺の後ろで地面に着いた氷は音を立てて割れていた。

 濡れた地面に溶けていく氷を見ると、それが幻覚でもなんでもなく本物なのだと否応なく認識させられる。


「っ!」


 とうとう振り返って走り出した。

 信じられなかった。もうここは夢の中なのではないかとすら思っていた。

 けどこの状況と彼女の力以外はリアルすぎる。躓きかけて捻った足が痛む。靴底越しに地面に叩きつけられた足の裏が少し痛い。


「逃がさない!」


 走りながら彼女を見ると、先程と同じ氷が両手に握られていた。

 いや、先程よりも長い。1メートルは越えていないが、それに近い長さだ。


「うおっ、とっ…」


 そんな大きな氷槍を次から次へと投げてくる。

 投げられた氷は当然さっきと同じように地面にぶつかり、砕ける。

 砕けた氷は滑り、転がり、地面に散らばって――――─


「しまっ…!」


 ───俺の足を掬い上げた。

 砕けた氷を踏んで滑り、転倒してしまったのだ。

 全力で走った甲斐あってか少し距離はあるが、このまま立ち上がって走り出してもさっきの二の舞を踏むだけだ。

 とは言え、他に方法はない。

 立ち上がって愚直に逃げるしか、抗う方法は――


「…!」


 立ち上がろうと手をついた場所からヒヤリとした感覚が伝わってきた。

 氷倉が投げた氷の破片だ。それもそこそこ大きい。

 これを彼女に投げれば、少しでも時間を………


「………」


 立ち上がり、振りかぶろうとして腕が止まった。


「……」


 手に持った氷を地面に投げ捨て、また走る。

 今、何故投げられなかった?

 どうして抵抗できなかった?

 …俺はどうして、今安心したんだ?

 氷倉さんの目的は分からないが、彼女は明らかに攻撃の意思を持っている。

 確実に危害を加えるつもりの相手に、命すら奪いかねない相手だというのに。

 やらなきゃ、やられるっていうのに―――

 ―――やらなきゃ?

 何を?

 氷倉さんを傷つける?

 氷倉さんを、殺す…?

 …………


「…何をしてるの!?

 貴方も能力を使って戦ったら!?」


「……」


 気が付いたら足が止まっていた。

 俺は、なんて恐ろしい事を考えていたんだ。

 血の気が引いて、寒気がして、走るどころではなかった。


「…降参。」


「え?」


 声が震えていて聞こえ辛かったらしい。

 俺は大きく深呼吸し、気持ちを整えてハッキリと言い直した。


「降参だ、俺は氷倉さんと戦えない。」


「降参って…本気で言ってるの!? それがどういうことか分かってるの!?

 貴方はまだ戦える、っていうか何もしてないじゃない!」


「戦うも戦わないも、それ以前に戦う理由が無い。

 氷倉さんはどうか分からないけど、俺は別に恨みがある訳でもないし…」


「……え?

 どういうこと? 戦う理由なんて一つしかないじゃない…」


「氷倉さんにはあるのか?

 もしかして、俺氷倉さんになにか悪い事をしてたのか? それは悪かった、今後しないようにするから理由を教えてほしい。」


「……本当に、戦う気は無いの?」


「無い。

 それに、能力だっけ? そんな力俺には無いし…」


「え? だって端末が反応して…」

「誰だ!?」


 氷倉さんの後ろから足音が聞こえ、僅かに見えた人影に問いかける。俺に倣って、と言う訳でもないだろうが彼女も振り向いた。俺と同じく足音が聞こえたのだろう。


「……! この感じ、まさか…」


 氷倉さんをもう一度見ると、彼女はさっきの発光体を持っていた。

 見てみると彼女が言った通り先程見られた光を発していない。ただの木片だ。


「やっぱり…って、言うことは…」


 氷倉さんはしばらく何かを考えているようだったが、やがて俺を見て気まずそうに。


「……ごめんなさい。」


 謝った。

 どうやら俺が謝るようなことは無かったらしい。

 安心した、好きな子からの悪印象は少ないほど良い。


「私、城野君が能力持ちだって誤解してたみたい。近くに別の能力持ちが居ただけだった。」


「そう、なのか?

 じゃあ、俺は氷倉さんと戦わなくて良いのか? 氷倉さんも、俺に何もしない?」


「もちろん。」


 良かった…本当に良かった。

 俺も、氷倉さんも傷つけあわずに済む、戦わずに済む。

 …誰も死ななくて済む。

 心の底から安堵した。


「大丈夫!?」


「あ、ああ…大丈夫。」


 足の力が抜けて膝をついてしまった。

 気遣う氷倉さんに答えて急いで立ち上がる。


「お詫びと言っては何だけど…教えられることは全部教える。うまく説明できるかどうかは、わからないけど。

 とりあえず場所を移動しない? こんなところで立ち話って言うのもなんだし。」


「それもそうか…」


 今俺たちが居るのは氷が散らばった細い路地。

 内緒話をするにはもってこいかもしれないが、長話には適切ではなさそうだ。ここは腰を落ち着けられる場所に移動した方が良いだろう。


「場所はどうする?」


「カフェ…とかのお店じゃ人に聞かれるかもしれないし危ないかな。

 じゃあ、ここは―――」


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