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戦う意思は誰が為か  作者: じりゅー
三章 三度目の朝、二度目の夜
19/25

十八話 そして三度目へ

 …とうとう、この時が来てしまった。

 一階、二階の案内が終わり、とうとう三階に辿り着いてしまった。

 時間は間に合うようにはしょったり早足で歩いたりして調整している。そうしなければ約束の時間はとうに過ぎ去っているだろう。


「ここはワタシ達一年生の教室デスよね!

 あっちからA組、B組、C組なんデスよね!」


「ああ。それと、反対側に使われてない教室もあるぞ。」


「使われてナイ…机とか椅子とかもあるんデスか?」


「ある。ちょっとした物置みたいになってるな。ちょっと見ていくか?」


「ハイ! ちょっと気になりマス!」


 物置と化した空き教室に対して何故そこまでテンションを上げられるのか。


「…」


 教室の前に来ると改めて躊躇してしまう。ここに入れば、本当に…


「…カクヤ?」


「あ、ああ! 今開ける。」


 時は来た。覚悟を決める以外に出来ることは無い。

 思い切って扉を開け、教室に入る。


「来たね。確矢、リータさん。」


 まず、皆藤の声が聞こえた。

 待っていたのだろう。椅子を一つ出してそこに腰掛けている。


「Ah…貴女は確か…っ!? あっ、あぁぁあぁ…!」


 次に、リータさんの苦悶の声が聞こえた。

 首をしきりに掻いている。まるで縄で締め付けられているかのように。

 …事実締められているのだろう。皆藤の能力で創られた、糸によって。


「な、何故…いつから…」


 聞くだけで苦しくなりそうな、絞り出すような声でリータさんは言った。


「教室に入った時から。私以外クラスに能力持ち居ないし、端末が反応したらわかる。」


「そんな…じゃあ、カクヤは…能力持ちじゃないのに…?」


「…俺は皆藤に協力してるんだ。だから教えてもらった。

 ゴメン、リータさん…だけど、絶対に早くこんな戦いは終わらせるから。だから…!」


「…そう言うことだから、今は死んで。」


 そう言うと、皆藤は糸を出している指を――――






「……」


 カーテンの隙間から射す光をぼんやりと見つめる。

 布団をめくり、ベッドから降りたら首に手をそえながら鏡を見た。

 …赤い。

 しかも、()()は掻いた跡まで残ってしまっている。隠すには包帯が要るか…言い訳ならかゆくなって掻いてしまったと言えば良いだろう。


「おはよう…」


「おはよ、リータちゃん。なんだか眠そうだね。もしかして眠れなかった?」


「うん、ちょっと。」


 …このデジャヴ感は決して気のせいじゃない。ワタシは確かに、この朝を()()経験した。

 何故なら、ワタシの()()は、覚醒した瞬間まで時間を戻すというものだから。

 ワタシは二度、カイトウアミに殺されかけているのだ。






 一度目は放課後、アミに校舎裏で呼び出されて首を絞められた。

 糸が本格的に締まる前に戻れたのはほぼ奇跡のようなものだ。その跡は二度目の時にカクヤに見られたけど、うまくごまかせた。

 二度目はカクヤに嵌められ、やはりアミに首を絞められた。

 一周目に見た様子ではアミとカクヤはよく話していた様子だったので、親しくなっておけば彼女の友人と親しい人間ということでとりあえず今日だけは生き延びれると思ったけど…その考えは甘かった。

 カクヤはアミの協力者だった。能力持ちではないというのにその存在を知っていたというのは完全に想定外だった。

 しかし、突破口はある。

 アミはこのクラスに自分しか能力持ちが居ないと言った。

 カクヤはアミに知らされるまでワタシが能力持ちだと気付かなかった。

 つまり―――アミがカクヤに教える隙を与えず、かつカクヤと仲良くなればいい。

 そうすれば少なくともカクヤがワタシを売るようなことはしなくなるだろう。程度によってはむしろこちらに協力してくれるかもしれない。

 あの時、空き教室でカクヤはとても辛そうな顔をしていた。本意ではないことは明白だ。

 きっと、アミも。

 一周目に首を絞められる直前、アミが謝っていたのが聞こえた。

 二周目もその表情は決して明るくなかった。

 つまり、アミは殺し慣れていない。参戦して日が浅いのだろう。

 しかし、ワタシの能力は時間を戻すだけ…攻撃することは出来ないし、すぐに能力持ちだとバレてしまうのならワタシに対して隙を見せることは無いはずだ。

 朝、早く学校に来て人混みにまぎれ、こっそり端末を奪うことも考えたけど…非現実的だ。

 それに、もう能力をみだりに使えない。少なくとも今日は。

 でもそれは回数制限ではなく、能力の制約…いや、特性によるものだ。

 ワタシの能力は時間を戻す。ただし、一つだけ時間が戻らないものがある。

 ワタシだ。

 だからこそ時間を戻す前の記憶を引き継げるのだけど、そこにこの能力の弱点がある。

 怪我をして時間を戻しても傷はそのまま。致命傷を負ったまま時間を戻しても決して回復はしないのだ。位置だけはその時居た場所に戻るけど。

 引き継ぐのは怪我だけではない。

 私は今日、7時に起床した。一度目は16時に、二度目は16時30分に時を戻した。

 つまり、私は7時から16時、更に7時から16時30分までずっと起きている。

 9時間+9時間30分。よって私は18時間30分起床しているということになる。

 仮に時を戻さなかったとすれば、目覚めたのが7時なら、現在の時間は25時30分。現時点でも夜中の1時30分までずっと起きていることになる。

 更に今日、帰ってきてすぐに寝るとしても17時くらいか。そうなると更に10時間…丸一日以上ずっと、一睡もせずに起きていることになる。

 ここで私の能力をおさらいする。

 私の能力は“覚醒した瞬間に時間を戻す”。つまり、一度でも眠ってしまえばそこがセーブポイントとなり、上書きできなくなってしまうのだ。

 カクヤへの好感度稼ぎ、アミへの牽制を行うなら、その途中で睡眠(セーブ)するのは危険。なんならセーブ中にカクヤにカミングアウトされ、碌に好感度も稼げずゲームオーバーと言う展開もあり得る。

 一睡もするわけにもいかない状況だ。だからワタシは朝食の時に一杯カフェインを摂ってここまで来た。


「入りなさい。」


 担任の先生の声が聞こえ、考え事を打ち切ってガラリと戸を開けた。

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