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戦う意思は誰が為か  作者: じりゅー
三章 三度目の朝、二度目の夜
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十七話 撃破の覚悟

「大体察してるかも知れないけど…あの転校生、能力持ちだよ。」


「そうかー…」


 人気の無いところ(校舎裏)に呼び出したこと、呼び出す時に感じた雰囲気。それを察するには充分だった。


「…やっぱり、戦うのか?」


「うん、戦うよ。

 ためらって長引かせちゃったら居なくなった時の傷が大きくなるから。

 クラスの皆も、多分、私達も。」


「そうだよな…」


 皆藤の意見は尤もだし、賛成したいところだが歯切れが悪くなってしまった。

 何年もかかるのか、一ヶ月で終わるのか。全く予測できないこの戦いが続く間、彼女とは会えなくなる。

 その辛さは共に過ごした時間の分だけ大きくなるだろう。


「…なんとか、仲間に出来ないか…?」


 それでも、そう思ってしまう。

 氷倉先輩と皆藤が手を組めた。彼女が何故か俺に話しかけてくれた。

 その事実が、皆藤に人を傷つけさせることへの忌避感が、そう思わせてしまうのだろう。


「あの人の素性は全く分からない。

 もしかしたら、今は猫を被ってるけど実はすごく悪い人なのかもしれない。いざって時に裏切られるかもしれない。

 一番恐ろしいのは…どんな能力か分からない事。

 情報屋の人も言ってたよね、即死系の能力は条件が厳しいって。でも、逆に言えば条件さえ満たせば簡単に殺せる。

 もし本当に即死系の能力だったら、味方のふりをしながらその条件を満たして、能力を使ってくるかもしれない。」


「それもそうか…」


 能力は直接聞けるようなものではない。

 そもそも、基本的に能力のことを知っているのは同じ能力持ちだけだ。俺が訊きに行ったとしても、俺の事を能力や戦いの事を知っているだけの一般人であると信じてくれる可能性は低い。

 仮に俺が一般人だと信じたと知っても能力はいつ目覚めるか分からないもの。俺もいずれ敵になるかもしれないのだ。そんな相手に教える訳が無いだろう。

 ましてや皆藤が尋ねるのは論外だ。正直に答えるどころか返り討ちに遭う危険もある。


「それに、組織っていうのは大きくなるほど動きづらくなるし、反乱分子が生まれてくるものだよ。仲間を増やし過ぎても良い事ばかりじゃない。」


「確かに、分かるんだけどさ…」


「……私とあの人が組めたってだけで奇跡みたいなものなんだよ?

 それが3人、4人ってなったらもっと難しくなってくるよ。実際彼女の仲間入りを雹華さんが認めてくれるとも限らないし…」


「んー……」


 考え込む。

 何とか、彼女を消さない方向に出来ないか。

 …もしくは、皆藤の意見を容認するか。


「…決め辛いか。

 じゃあ、もし私の意見に賛成なら4時半に3階の空き教室に来て。もちろんリータさんと一緒に。」


「どうやっ…あ。」


 疑問に思い、問う最中に思い至った。

 学校案内。

 確かに俺はリータさんにそれを頼まれていた。それにかこつけて連れて行くって事か。


「…分かった。」


「じゃあ、よろしくね。

 …言っておくけど、もし確矢とリータさんが来たら確実に消すから。私は迷わないよ。」


 振り向き、去っていく皆藤の声は少し震えていた。






 放課後。俺は日直の仕事を終えて教室に戻り、リータさんと合流した。


「それじゃあ、行くか。」


「ハイ! よろしくお願いしマス!」


「まずは一階から案内するから、一回降りよう。」


「? 三階にいるんデスし、上から紹介した方が良いのではないデスか?」


「いや、三階はどうせ教室だけだからさ。理科室とか保健室とか、使う教室が多いところから教えた方が良いかなって。」


「なるほど、分かりまシタ!」


「じゃあ降りよう。」


 …半分嘘だ。

 俺は結局、皆藤の意見を受け入れることにした。

 今は4時前。今からすぐ空き教室に行ったのでは時間が余ってしまう。

 案内のカモフラージュを利かせやすくするためにも、最初はしっかり学校案内をしておくべきだ。


「あ、そう言えばリータさん。」


「なんデスか?」


「…どうして、俺だったんだ?」


 授業が終わりしばらく経った廊下と階段には人気が無い。皆帰ったり部活に行ったりしているのだろう。

 だから訊いてみることにした。どうせ案内を始めるまで暇だし、話題が思いつかないし…


「……どうして、どうしてデスか…」


 …なんで悩んでるんですかね。言いづらい理由でもあるのか?


「あの時リータさんに話しかけてきた人の誰かでもよかったんじゃないかって思ってさ。

 案内したくないとか、リータさんと居るのが嫌って訳じゃないけど、なんで俺なのかって気になって…」


「…クラスの人には言わないでほしいのデスが。」


「ああ。」


「あの人達に頼んだら、たくさん話すじゃないデスか。」


「そうかもな。」


「…私にはそれが辛いんデス。

 ある程度分かると言っても、日本語は母国の言葉程使う言語じゃありまセン。

 沢山聞いてたら理解するのに疲れマスし、日本語で答えるのも正直キツいデス。

 それが放課後もずっと続くとなると…気が重くなりまシタ。

 だからあんまり喋らなそうなカクヤにお願いしたんデス。

 口説き文句? みたいなことを言ってた人もいまシタし…」


「なるほどな…」


 俺たち日本人は基本、英語を聞いたらそれを日本語に直して理解する。皆って訳じゃないだろうし、使いなれてる人なら外国語でもそのまま理解するかもしれないけど。

 リータはずっとその作業を行いながら会話しているのだろう。そう考えれば確かに大変だし話してるだけで疲れるのも気が重くなるのも理解できる。

 日本語によるマシンガントーク、質問攻めは彼女にとって拷問なのかもしれない。なら俺も控えた方が良いのかな…


「じゃあ、俺も…」

「あ、カクヤは遠慮なく喋っても良いデスよ? それで案内に支障が出たら元も子も無いデスし、カクヤはその方がちょうど良さそうデスから。」


「お、そうか。ならそうする。」


 …俺への態度なんか妙に柔らかいような。

 そろそろ勘違いしちゃっても良いかな。もしかしてだけど誘ってるんじゃないのってどぶどぶのろっくろくみたいな感じで。


「っと、着いたな。じゃあ案内始めるぞ。

 そこの突き当りが理科実験室で、その手前が…」


 やや浮かれた気分で案内を始める。その後の事は、とりあえず頭の隅に追いやって。

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