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戦う意思は誰が為か  作者: じりゅー
三章 三度目の朝、二度目の夜
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十六話 相談

 昼休みもリータは大人気で、取り囲まれている様を横目に食堂へ向かう準備をする。真司はまた人垣の一人になっているため俺一人でだ。


「確矢、ちょっと良い?」


「ん? どうした?」


 財布をポケットに入れて立ち上がると、皆藤に呼ばれた。

 表情はやや険しい。少なくともランチのお誘いではなさそうだ。


「ご飯食べた後で良いから、校舎裏に来てくれない?」


「分かった。」


 今の時間屋上は弁当を持ってきた生徒で溢れている。食べ終わっても駄弁りながら居座り続けるだろう。

 だから今人目を避けるには校舎裏が最適だ。そして今人目を避けると言うことは、恐らく…


「なんなら一緒に来るか? 食堂は弁当の持ち込み良かったはずだし。」


「…それも良いかも。私の友達もリータさんのところに行っちゃったし。

 ちょっと待ってて。」


 少し考えて了承の返事を出した後、一度自分の席に戻って弁当を持ってきた。

 小さめの弁当箱だ。見るといつも思うのだがそれで足りるのだろうか。女子って意外と省エネしてるんだな。


「オッケー、行こ。」


「はいよ。」


 皆藤が戻るとすぐに移動を始める。

 この学校の食堂は一階にある為、三階にある一年の教室からはやや遠い。

 移動する生徒たちに紛れて皆藤と離れないように気を付けながら歩くと、ほんの数分で着いた。いつも見るような顔ぶれだが、それなりの数はいる。


「食堂、結構人気なんだね。」


「ああ。安くて量がある上に美味いから、主に男子に人気だ。女子は運動部に入ってるのを除けばあんまりいないな。


「なんで運動部って分かるの?」


「皆して部活の話してるからな。今日のトレーニングはー、とか大会近いねー、とか。」


「なるほどね。」


 食券の自販機に並ぶと、皆藤も一緒に並んだ。

 今日は何にするか、考えながら皆藤と話していると順番が来た。


「…メニュー、揚げ物多いね。」


 皆藤は新しくない自販機のラインナップを一瞥してポツリと言った。

 唐揚げ定食、トンカツ定食、かつ丼、カツカレー…上にあるのはカロリーの暴力みたいなメニューばかりだ。そういうメニューが人気だから上にあるんだけどな。


「男子生徒に人気の理由の一つだ。サラダ定食とかもあるんだけど、たまにしか見ないな。」


「あ、ホントだ。」


 定食の最後の方、サイドメニューの手前の辺りにサラダ定食の文字がある。

 そのボタンはあまり押されていないようで、他と比べるとボタンの塗装のハゲ具合が少ない。


「今度頼んでみようかな…」


「一応肉は入ってるけどな、サラダがメインってだけで。」


 前に遠目から見ただけだったのであまり詳しいことは覚えていないが、ウインナーかなんかが入ってたような気がする。

 別のメニューじゃないか、と言われたら何も言えないけど。


「多少なら別にいいから。

 それで、確矢は何頼んだの?」


 と、自販機を観察している間に買っていたメニューを見せる。


「…親子丼? そんなのもあるんだ…」


「ここの親子丼は美味いんだ。他のも美味いんだけど、おすすめするとしたらこれだな。」


 ふわふわの卵と、薄すぎず濃すぎない程よい味のたれが絡んだジューシーな鶏肉を、白米と一緒に口に入れる。

 すると素晴らしいハーモニーが口の中で奏でられ、天にも昇るような気分に…

 ……オーバーだな。美味いのは確かだけど。

 あー、腹減ってきた。早く食べたい。


「これお願いします。」


「はい、いつものね。親子丼一丁!」


 食堂の調理師をしているおばちゃんが元気な返事をして半券を取る。

 ちぎられた半券が返され、同時に番号札も渡される。鍵とかに付けられる楕円みたいな形のタグに番号が手書きされている物だ。

 お客がつっかえているので札を受け取ってすぐに席の確保に向かう。


「ここで良いか。

 皆藤は先食ってるか?」


「ううん、確矢の料理が来るまで待つよ。」


 別に先に食べていても良いのだが、その辺はきっちりしているらしい。

 ここで会話が途切れたので、時間確認がてらスマホを取り出す。


「…ん?」


 点かない。

 電源ボタンを長押ししても画面は真っ暗のままだ。


「…あ。」


 昨日の記憶が甦り、全てを思い出した。

 真司の家で電池切れしてたんだった。しかも帰ってから充電してない。


「…どうしたの?」


「ケータイ電池切れだった…」


「えー、しっかりしてよ。連絡しなきゃならなくなったらどうするの?」


「悪い、流石に今日は帰ったら充電する…」


「携帯充電器も無いの? しょうがないなぁ…」


「お、皆藤持ってんの? サンキュー。」


「早とちりしないで、持ってないから貸せない。」


「なんだ、持ってないのか…」


 ガッカリしながらスマホをしまう。

 持ってるみたいな口振りしてたくせに、なんて八つ当たりも甚だしいか。


「……あ、そうだ。今日来た転校生のことなんだけど。」


「リータさんか?」


「うん。確矢ってもしかして、あの人と会ったことある?」


「いや、無いぞ。今朝が初対面。」


「だよね…じゃあ、なんで確矢に学校の案内を頼んだんだろう?」


「…本当になんでだろうな。」


 思考の片隅でずっと考えてはいたものの、さっぱり理由が分からなかった。

 しかも日直の仕事がある為待たせることを言っても尚頼み込んでくるくらいだ。ただならぬ理由があるとしか思えないが初対面の人間にどうしてそんなに必死になってるか分からない。


「普通に学校を案内してもらいたいなら、あの時リータさんの周りに集まってた誰かで良かったはずだ。

 それを、わざわざそこから抜け出してまで俺に頼み込んできた。」


「けど、当の確矢は心当たり無し。」


「その真意は本人のみぞ知る、と。あの時聞いておけばよかったかなぁ…」


「もしかしたら確矢がきれいさっぱり忘れてるだけで、昔どこかで会ってたとか?」


「そんな訳無いだろ。金髪で同い年の子なんて忘れられると思うか?」


「………」


「…おい、なんだその微妙な顔。もしかしてありえなくもないとか思ってるんじゃないだろうな。」


「どうかなー、確矢は鈍そうだしなー…あ、向こうにあるの親子丼じゃない? 取りに行ったら?」


「お前俺をそんな風に見てたのか?

 …行ってくる。」


 遠目に親子丼の器を確認したのでやや不機嫌気味に取りに行く。

 そんな不機嫌も腹が満たされると無くなるもの…というかそこまで引きずるものでもないので、どんぶりを空ける頃には既に気分がリセットされていた。


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