十三話 情報
こんな長いバトル書いたことあったかな…
…終わった、ようだ。
反上は巨大な氷に押しつぶされる直前、その姿を消した。世界そのものの意思とやらに転移させられたのだろう。
それと同時に灰色の靄も無くなった。あるのは氷の破片だけだ。
「…まずいな。」
今の大きな音は確実に誰かに聞かれただろう。
付近の通行人はもちろん、店の中まで聞こえていれば絶対に誰かが確認に来る。
「早く離れましょう、誰か来たら面倒だし。」
いつの間にか氷の足場から降りてきていた雹華さんに頷き、糸を使って降りてくる皆藤を待つ。
『なかなか良い戦いやったな!』
「「「!」」」
反上でも俺たち3人でもない声に驚く。
どうやら路地裏の奥からのようだ。
「新手か? それともさっきのヤツの仲間か?」
奥に移動しながら問う。
少なくとも無関係な一般人では無いだろう。あの戦いを見て平然としすぎている。
『ああ、心配せんでも戦う気は無いで。』
互いに殺し合う宿命がある能力持ちとは思えない台詞だ。共闘してるこっちが言えることじゃないかもしれないが。
「…私は帰るわ。」
ここで先輩からまさかの帰宅宣言。表情を見るに興味の一欠片もないらしい。本当に帰る気のようだ。
「ソイツ、本当に攻撃してこないからそこは安心しても良いけど…
胡散臭い話をしてくるから、あんまり耳を傾けない事をお勧めするわ。」
『相変わらずお厳しいなぁ。ほな、またな。』
「…私は二度と会いたくないけどね。さよなら。
2人も早めに出て行ってね、いつ人が来てもおかしくないから。」
「は、はい。わかりました…」
「ではまたいつか、雹華さん。
それと、今までごめんなさい。あんなことを言って…」
あれだけ毛嫌いしていた皆藤が、先輩に謝るなんて…
さっきの戦いの中で何か心境の変化でもあったのだろうか。俺は驚いていたが、先輩は少し微笑んで返した。
「気にしてないから、そっちも気にしないで。良ければまたよろしく。」
そう言って先輩は路地裏から出て行った。
『ホンマ驚いたなぁ、あんさんらどうやってあの雹華はんを丸め込んだんや?
ワイは全く信用されんで、利用もされなかったいうんに。』
「どうやってって…そんな特別なことはしてないよな?」
「…一番の功労者のアンタがそう言うなら、そうなんじゃない?」
功労者って。
…否定は出来ないか。
「普通に頼んだだけなんだけどなぁ…」
『そうなんか? なんか変な能力持ってへんの? 人の心を操るみたいな。』
「んなこと出来るか。俺は能力なんて持ってないっつーの。アンタが物の影に隠れないと話も出来ない臆病者だとかって思われたんじゃないのか?」
『やかましいわ、ワイとて必死なんや。
それにしても、能力持ちやあらへんのにこの戦いに首ツッコんどるんか…そりゃあんさん相当なアホかアホのお人よしかなんかやで。』
「どっちにしてもアホかよ! んで、お前は何者だ? そのドラム缶に隠れてるみたいだけど。」
声はこのドラム缶から聞こえる。
裏に潜んでいるのか、中に入っているのかは分からないが漫画だったら吹き出しのせいでドラム缶が喋っているようにしか見えない感じになるだろう。
『おっと、失敬。まだ名乗っとらんかったな。
ワイはこの戦い…“能力戦争”における情報屋や。』
「能力戦争?」
『この能力持ち同士の戦いのことや。誰かがそう呼び始めたんをワイも使ってるっちゅー訳や。
ま、名前があった方が何かと便利やろ? 安直すぎるーとかって苦情は受付とらんで。もっとええ名前があればそっち使うけどな。』
確かに安直だとは思ったけど良い名前なんて思いつかないので応募はしないでおこう。
「…情報屋って言ってたよね。それなら、私達に情報をくれるって事?」
『せやな。アンタらに情報をくれてやるわ。』
「対価は?」
こういう情報屋は金銭や物品などを客に求めがちだ。
というか、むしろ無償でする意味が無い。報酬が無ければ全く自分の為になっていないし、無償でも良いみたいな聖人みたいな人物にも見えない。
『対価は情報や。尤も、もう貰っとるからあとはこっちの支払いだけなんやけど。』
「貰ってる…さっきの戦いか?」
『勘がええな。
そう、貰った情報っちゅうんはそこの…皆藤っちゅーたか? その子の能力の情報と、さっきの男の敗北、そして、皆藤はんと雹華はんが協力関係を結んだ、の3つや。
それに応じて3つの情報をくれたるわ。ただ、ワイが知っとる範囲でしかないけどな。』
「…それをして、お前になんのメリットがあるんだ?」
こちらにとって都合が良すぎる。一見うまい話には裏があるのが常だ。
こういう時こそ、警戒を怠る訳にはいかない。
『能力戦争の進行が早なるやろ? それは充分なメリットや。
こうやって立ち回ることで、ワイは戦わずして能力持ち同士で戦いあって数を減らせる。能力持ちは貰った情報で他の能力持ちを潰せる。誰も損しないやろ?』
「その結果、犠牲者が出るとしてもか?」
『ああ。実を言うとワイ戦いに向いとる能力やないし、死にとうないしなぁ。
それに、この戦いで死んでも結局戻ってくるやないか。』
…一応、コイツなりのメリットは理解できる。
両手放しで信用しても良いと言う訳でもないが、ひとまずは信じられる情報をくれるということだ。
「じゃあ、俺から良いか?」
『ええで。なんや?』
今から行う3つの質問は今後を分ける重大な分岐点となるかもしれない。
しかし、だからこそ俺は訊かざるを得なかった。
たとえそれが、戦局に関わらないものだとしても。
「氷倉、零華って奴は今生きてるのか?」
今の俺が戦う理由は、そこにある。
脱落していたなら出来るだけ早く戦いを終わらせるように動くし、生きていれば絶対に探し出す。
九分九厘分かっている答えが分かっている問いだ。もっと他の事を聞くべきかもしれない。
そんな疑問を押してでも、訊きたかった。
『氷倉零華…知らんなぁ。もしかして、雹華はんの家族か?』
「そうだ、雹華さんの妹だ。
しばらく前から学校にも来てないらしいんだ、本当に知らないのか?」
あえて伝聞情報のように伝えることで彼女とのつながりを察しないようにする。細かいかもしれないがやっておいて損は無いだろう。
『ああ、分からんなぁ…
言っとくけど、ワイとて何でも知っとる訳やない。持っとる情報が人より多いだけなんや。
全部の戦いを見たわけやないし、能力持ちを全員把握しとる訳でもない。そこは堪忍しといてや。
とはいえ、そうやなぁ…提供された情報があらへんゆうことは、ワイも知らん能力持ちにやられた可能性はあるなぁ。もしくはワイが察知する前に速攻でやられたとか。』
…駄目か。
とは言え、もし何事も無かったのなら学校に来ないのは不自然だ。何かあって学校に顔を出せなくなったか……他の能力持ちに敗れてしまったのだろう。
それならば。
それならば、戦いを終わらせるという方向で動いて行くしかない。
さしあたっては、この情報屋から他の能力持ちの情報を得て。
「じゃあ次、この町の能力持ちはどれくらいいる?」
『ワイが知っとる範囲で言うと……十数人近くっちゅーとこやな。』
「結構少ないな…」
『何人か脱落者もおるし、そもそも能力持ち自体稀有なものやしな。
尤も、今ワイが把握しとる能力持ちも何人かは潰し合っていなくなっとる可能性もあるけどな。』
「アンタの情報精度、結構心配ね。」
『常に新しい情報が自動更新されていくみたいな便利な能力でも持ってたらええんやけどな。所詮ワイがたった一人で集めとるだけさかい。限界もあるわ。』
「まあ参考程度にとどめておく。」
『…一応、これで二つやな。
もう一つ、何かあるかいな?』
「…皆藤、なんかある? 聞いて良いぞ。」
「えぇ…そう言ったって…
…んー、じゃあ、情報屋が知ってる中で一番危険そうなヤツは?」
『性格か? 能力か? それとも頭か?』
「…全部聞きたいけど、とりあえず能力で。」
『能力か…即死系は結構条件キッツイしなぁ…
けど一番はアレやな。聞いたらひっくり返るで。』
「ひっくり返る? そんな滅茶苦茶な能力なの?」
『能力はようわからんが、それ以上のことがあるんや。』
「…妙にもったいぶるな。早く言ってくれ。」
『正直ワイも半信半疑なんやけど…あるお客さんがこんな話したんや。』
少しだけ長めに息を吸う音がした。どっかのバトルアニメみたいに散々引き延ばしてくれる。
『2つの能力を持った、能力持ちがおるって…』