第2章 ポチとしての仕事 1話
「今日はね、患者さんのおじいさんとね。話をしたの。何てことはないの。仕事を何していたとか。お孫さんの話とかね。いつも、治療で苦しそうだったけど。調子よくて。ニコニコ笑っててさ。」
今日も帰宅は、20時を過ぎていた。
いつもの仕事から帰ってきた直後のおねーさんは、眉間にしわを寄せているか。溜息をついているかのどちからであることが多い。
でも今日は違う。
「ポチもたくさん飲めよー。」
そう言いながらおねーさんは、ビールを飲んでいる。
でも今日は、本当にうれしかったのだと思う。この話は3度目だ。
ニコニコしているおねーさんは、好きだ。
いつもそうしていればいいのに。
そんなおねーさんを見ながらにこやかに僕もビールを飲む。
気がつくとおねーさんは、机に突っ伏して寝ていた。
おねーさんに飼ってもらってからもう1週間がたとうとしていた。
でも、こんな酔っぱらうおねーさんは、初めてだ。
どうしたものかと思うが、少しでも布団で休んだ方がいいと思い。
ベッドまでおねーさんを運ぶ。
『おねーさん。大丈夫?』
「だいじょーぶ。だいじょうぶ。」
そうは、言っているが僕に運ばれていたことも。
今、ベッドに横に置かれた事も分かってないと思う。
「ふふふ。ふふ。」
にやけながらごろついておりベッドから落ちそうだ。
僕は、落ちないようにベッドの脇に座っておねーさんの寝顔を見ていた。
この1週間。おねーさんは、僕の事を「ポチ」と呼んでいる。
ペットとして飼うんだからと。名前をつけてくれた。
多分。考えるのが面倒だったんだろう。犬と言えば、ポチ。
そう短絡的な発想だったと思う。
おねーさんは、僕がなぜペットとして暮らしているのか。本名はなんなのか。聞かなかった。
一つ聞かれた事と言えば。年齢くらいだ。
「ねえ。年いくつ?」
『21。』
「そっか。良かった。成人してて。」
それだけ。
おねーさんは、ねっからの世話焼きのようで。
僕がここに飼われることになってからは、コンビニの食事をやめた。
ごはんを手作りしてくれる。
おねーさんの作るごはんは、温かみがあって。家庭料理と呼ばれるような、和食ものが多かった。
本当に居心地のよい家だ。
「ん。……。んんーーー。」
僕は、いつの間にか寝ていたらしい。おねーさんのうめき声で目が覚めた。
『おねーさん。大丈夫?』
「頭、痛い。ロキソニン。」
僕は、キッチンへ行き。水と薬をおねーさんに渡した。
『飲みすぎでしょ』
「いいの。たまには。今日は、休みだしね。っていうか、ロキソニン以外もある。」
『二日酔いとロキソニン飲むなら、胃薬も。』
「気が利くねー。よしよし。」
そう言って頭をなでられる。おねーさんは、本当に僕の事を犬のように扱う。
気が付くとおねーさんは、また眠っていた。