コロシテ……、コロシテ……、コロシテ……
「ねぇ、知ってる? この病院の怖い話」
「え~っ、23世紀の日本だよ?
幽霊なんて現象は存在しないって昔々に証明されたじゃん」
「でも先輩が言ってたんだよ。夜中に高校生くらいの男の子が立ってたって」
「新人ナースを怖がらせる為に言ってるんでしょ?」
「殺して、殺して、殺して、って壊れた機械みたいに言い続けるんだって」
「殺してって、ここ病院なんですけど。むしろ死にたくないって言う方がリアリティあるよ」
「止めてよ、何で怖い話をより怖くしようとするのよ」
「だいたいこの病院は安楽死制度指定病院だから、他の病院よりもこの世に未練を残した人って少ないんじゃないの?」
「でも安楽死を選んだからって、生きてる方が辛いってだけで未練はあるかも知れないじゃん」
「ん~、薬では抑え切れない痛みから逃げる為にとか、回復する見込みのない病気から逃げる為とか?」
「そうそう、病気が治らないから仕方なく死を選んだけど、それでも生きていたかったって人もいるかも知れないし。
安楽死を選んだからって生きたくなかったって訳じゃないと思うの」
「まぁ正当な理由のない安楽死は許可されないもんね。
あっ、おさらいしよう! 安楽死制度を受ける為の必要条件とは!?」
「不治の病、重度障害、75歳を過ぎた希望者、後は……」
「死後の臓器提供や臨床解剖、生体部品提供への同意署名。
この署名がないと安楽死制度を受ける事が出来ないからね。試験で書き忘れて点数落としちゃったから逆に覚えたよ」
「生体部品って言い方は嫌だけど、人工素材だと神経伝達速度で人間レベルを再現出来ないから仕方ないよね」
「でも機械に人間レベルを求める必要ってあるのかな? AIだって結局は人間の心を再現出来なくて暴走しちゃったじゃん。
人間に戦争を仕掛けて、やっとの思いで制圧した後に自律思考に制限を掛けて制御出来るようにしたのにさ。見た目人間そっくりで人間のやる事を真似させようって考え方が古いと思うんだけど」
「あれじゃない? 自分そっくりに作る事で、神様の真似をしたいんだよ。神様は自分の姿を元に人間を作ったって言うし」
「だから23世紀で神様も何もないって」
「でも人間の脳みそをこの病院のシステムコントロールに使うなんて、神様が聞いたら怒るんじゃない?」
「あ~、正に神をも恐れぬ所業かも知れないね。
一応記憶とか人格とかに関わる部分には処置が入るから大丈夫でしょ」
「本当に大丈夫かどうか、どうやって調べるんだろうね。なってみないと分からないのに」
「えっ、止めてよ。せっかく怖い話じゃなくなったと思ったのに!」
「あ~、やっぱり怖いんじゃん。幽霊がいないなんて言われても、怖いものは怖いんだよ」
「はぁ、怖い話してたら休憩時間過ぎてんじゃん。もっと楽しい話したかった!」
「うわっ、ホントだ。
見て見て、あのカメラこっち向いてる。もしかして先輩に見られてるかも!」
「いやモニター越しに見つめる先輩ナースとか幽霊以上に怖いでしょ!
でもとりあえず頭下げとこ。すみませんすみませんっ」
「すぐに帰りますんですみませんすみませんっ」
コロシテ、コロシテ、コロシテ……
いや何が怖いのか分からん! と仰る方へのネタバレ解説。
病院のシステムコントロールの為に安楽死制度を受けた高校生の男の子の脳が使われています。
生前の記憶や人格は削除されているという話ですが、脳のどこかに残っている男の子の魂がある人物を探しています。
病院の一部として生かされ続けている自分の苦痛を理解してくれる人物を。
監視カメラ、スピーカー、電光掲示板などを使い、自分の脳を破壊してくれる人物を探し、訴えかけます。
コロシテ……、コロシテ……、コロシテ……。
安楽死の向こう側に、生きる苦痛がある世界。
タイトルを変更致しました。




