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アダム・ノスト・イヴリゲンの陰1-6

 良い話を遮ったエイヴィーは感情の読めない眼でポプを見た。


「その選択は許されない。では問うよ、ポプ。キミの意見に賛同しない者、いや、組織とぶつかる気かい?」

「だからこそこの期に、シェルシェール・ラ・メゾン統括者を相手に説得をしている。後ろ盾があればこそ、信仰会は手を出せない」

「それではまるで、敵が信仰会だと言っているようなものだね」

「違うぞ。今ここに居るのが魔術組織であって、今後は信仰会にも理解を得られるよう」

「できると本気で思っているのかな? その選択が導く結末をよく考えたのかな? 本当に自分の頭で考え、悩み、至ったのかい?」


 柊もアレッタもエイヴィーの言い方に疑問を抱いた。


「エイヴィーさん、どういう意味ですか?」


 恐る恐るアレッタが聞くと、エイヴィーはアレッタを一瞥し、睨むようにポプへと視線を戻した。


「ポプ。私の顔に見覚えは無いかな? ああ、無いだろうね。あの時は私もまだ幼かったからね。なにせ私がまだ四歳くらいの頃だからね。組織間の垣根がない自由恋愛? ふふ、素晴らしい理想だと私は思うよ。じゃあ、どうして、ポプ。あなたは私の両親を殺した?」


 周囲にざわめきが広がる。


 ポプは目を凝らしてエイヴィーを見回すと、かなたの記憶にいた少女の面影と重なった。


「思い出したかい? でも、おかしいんだ。ポプはあのとき、私が殺したはずなんだから。怒りで選択する手段を熟考することなく感情任せに、私の魔術で確かに殺したはずだ。じゃあ、ポプ。キミは誰だい?」


 エイヴィーは一歩前に出る。


 柊もポプに警戒を向けて魔力を体内に巡らせている。アレッタは両手に雑草を抱いて緊張していた。それは無意識にポプという男に不穏な気配を感じ取ったから。この大男の厚い表情の下には別の顔が潜んでいるような、化け物が巣くっているような恐怖を全身で感じていた。


「エイヴィー・モーリアス。無名の家系ではあったが、なるほど、これは面白い種から咲いた希少な花のようだ」


 ポプの身体が幾重にもブレ、柊も含めた全ての者の視界が混濁した。目の前の塊から放出される格やレベルとは次元の異なる圧力が叩き付けられ、自身を矮小でちっぽけな存在だと認識させられる高慢な波。


 柊はその人物を見て息をのんだ。


「あ、あ、あなたは」


 女性と男性の姿が重なって見える人物。


 やがてその影同士が混じり合って統一され、一人の女性が色白の頬をカラクリ人形のようにつり上げた。


「アダム・ノスト・イヴリゲン」


 一同に電撃が走る。


 この場に居る誰もがその名をよく知っていた。


 知ってはいるが実際に見るのは初めてだ。柊は過去に出会ったことがあるが、彼女の部屋を退室した瞬間に顔を忘れ、性別はどっちだったか、どのような体型をしていて、どのような声をしていたかを思い出せなくなった。


 いま、目の前のアダムを見てようやく忘却させられた記憶が蘇った。


「なぜ、貴女がこのような場所に?」

「夢を見せるため。一つの希望に群がる人の可能性を試す。退屈な私の夢に小石を一つ投じた場合、どのような波紋を生むのかを見たかった。ただ、それだけ。それ以外に意味は無い。価値も無い」

「この人が、アダムさん」

「アレッタ・フォルトバイン。運命に縛られ、永遠に苦しむ人生を歩む者。稲神聖羅の対となる将来の希望」

「何を言っているのですか?」


 アレッタの疑問には答えない。


 アダムは寝起きの夢と現が混濁したような眼でアレッタを、その彼女の背後にある何かを見ていた。彼女の発言から、まるでアレッタの将来を予言しているかのようだ。


「小石を投じられないのであれば、もう構いません。私にとってただの茶番。どうでもいいこと。退屈しのぎは他でやればいいだけのことだから。それと」


 アダムは一度眠そうに目を閉じて、小さなあくびをしながら瞼をこすって柊を見た。


「柊春成。這い寄る死は避けられない。足掻くことも無意味。私の視た可能性の夢で、お前は、銀色の大輪を咲かせた愛弟子と殺し合う」

「なんだって!? アダム、それはどういう意味だ!」


 柊の問いにもちろんアダムは答えない。


「すべては世界が望むままに」


 ポプを中心に集まった魔術師や信仰会は敵意をアダムに向け、魔術と加護を存分にぶつけた。


「無駄な小さな行為は可愛らしい。過去の私もそうだった。死に物狂いで否定しようとも、真実はたった一つ。世界は無意識に貴様等を排除する」


 アダムが彼らに右手を掲げてみせると魔術も加護も掌に収束していき、瞬きの間も与えずにその存在が消失した。


「なにをしたのですか、アダム」

「ただ、消しただけ。それだけのこと。彼らがいなくなっても世界は困らない。魔術師、執行会、調律者、魔法使い。全ては世界アダムの夢が視るままに」


 柊が詠唱を終えて結晶体を放ろうとしたとき。


「全ては夢。無意識が見せる茶番の時間。忘れよ」


 世界が白く染まった。


 何も無い。何も聞こえない。何も考えられない。


 ただ身体の重みさえ忘れて、自分が何者で、存在の意味も喪失したところで世界は暗転し、アダムの世界改変によって不都合だけが矛盾無く切り取られた。

こんばんは、上月です



次回の投稿は9日の21時を予定しております

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