アダム・ノスト・イヴリゲンの陰1-5
階段を降ったところに一枚の扉がある。
鉄一枚を挟んだ向かい側は此方に警戒を向けているいくつもの視線を感じることができた。あれだけの騒ぎを起こしたのだから、扉を開けた瞬間に一斉攻撃を受ける可能性もある。
「柊先生……」
「大丈夫だよ。僕が先に入る。向こうが動いたら僕が防御に専念するから、攻撃は二人に任せるね」
小声で指示を出した柊は、アレッタの心の準備が整うのを待たずにノブへ手を伸ばした。
室内は広く、一面が鼠色の鉄で覆われていた。空調の音が静寂にうるさく羽を回している。
「お前は、いや、あなたはシェルシェール・ラ・メゾン統括、柊春成」
魔術師の一人が固唾を飲んで身体を硬直させた。
彼の一言で集った魔術師たちは半歩後ずさる。
柊という存在はそれだけの影響力がある。もちろん、その名は魔術世界だけで無く信仰会にも知れ渡っている。執行会や信仰会の何人かもたじろいだ。
「魔術師と信仰会。これは一体、何の集まりですか? 魔術師と信仰会が手を取り合う案件は、世界の歪みと魔法使いの二件のみのはずですよね。僕の耳にはそのどちらも入ってきてはいませんよ」
グルリと視線をここに集った者達へ向ける。
「それとも、あれかい? 魔術サイドでも信仰会サイドでもない。裏社会に新たな勢力を結成させようというのかな。ああ、その選択は斬新だね。でも、それはそのどちらも敵に回す。最優先で潰されるよ」
エイヴィーの憶測に一同はより一掃に顔を青く染めた。
「ダウト、だね。さてさて、これはどうしたものか。アレッタ君、私はどんな選択をするべきかな?」
「えっ、私に聞くんですか!? その、柊先生が言ったように……あれ、でも」
彼らは攻撃してこない。
どうするべきか悩んでいるような雰囲気が漂っている。だが、柊の背中からは気を抜いている様子は無い。むしろ、少々緊張しているような気配がした。
「おい、オメェ等。何の騒ぎだ? 大事な集会だろうが。クールにいこうや。なぁ」
彼らの背後の扉。
その扉がゆっくりと開くと、その中から一人の大男が現れた。この中の誰よりも身長が高くて筋肉質だ。魔術師なのか信仰会なのか。少なくても柊の頭にある所属魔術師の誰とも該当しない。となれば信仰会だ。彼の雰囲気から危険すべきだと本能が告げている。信仰会側であれば、執行会だと睨むべきだが、執行会法衣を身につけてはいない。アロハシャツに革ズボンというギャング的な服装。髪型も剃り込みが入っていて、誰が見ても敬虔な堅物聖職者なんてみえない。
「おお、これは大物のご来賓さまだ。統括者の柊春成、魔術名門のアレッタ・フォルトバインか。そちらのお姉ちゃんは知らねーが、かなり美人だねぇ。二人とも胸が真っ平らなのが悲しい欠点か」
大男は品定めするように二人をジロジロと頭からつま先までを眺めた。
「美人とは光栄だね。私もこの胸の平べったさには常々悩まされているんだ。そういえば、外にいたチンピラは貧乳が大好きだと言っていたけど、大きい男はやはり大きい胸がいいのかな。アレッタ君、残念だったね」
「ど、どうして私に振るんですか!」
二人のやりとりを怪訝な視線で見守る魔術師や信仰会。ただ、大男だけは値踏みが終わって柊へと向けられていた。
「そこの女は策士だねぇ。二人のやりとりに気を取られている間に、柊さんが一掃するという算段だったようだけどな」
「あなたも隙を見せてくれたら僕は、この場の全員に先制を打ち込むつもりだったんですけどね」
「そいつは残念でしたな」
「ええ、残念でした。では一つ、確認しますが、あなたはどこに所属しているんですか?」
「この身なりで魔術師に見えるかい?」
「見えないね。ついでに言えば信仰会にも見えない」
「まあ、そうだろう。柊君の言うとおりだよ。俺は頭の良い魔術師でもなければ、敬虔な信徒でもない。そんな俺の正体は」
勿体ぶるように溜めて、並びの良い歯を大きく見せて笑った。
「魔術師の母と信仰会の父を持つハイブリットおじさんなわけだよ」
「つまり、あなたは」
「失礼、失礼。名乗るのを忘れていた。俺はポプ・マルゲイン」
「ポプ、あなたは魔術師と信仰会が衝突するのを避けるために?」
「まあ、そうだな。父と母は親の反対を押し切って駆け落ちしたらしいからな。こんな駆け落ち恋愛なんて悲しい不自由をなくすための新しい組織が、この魔術師と信仰会を混合させた、魔術師、信仰会、飢えた狼、魔法使いに並ぶ新組織になるんだ」
柊はもちろん、アレッタもこの組織の解体に揺らいでいた。
「是非とも、柊君にも賛同して頂けたらと思うんだが、どうかな?」
「組織間のしがらみもない自由恋愛か。うん、僕は是非とも」
「止めておきなよ」
柊の言葉を遮ったのはエイヴィーだった。
こんばんは、上月です
次回の投稿は5月6日の21時を予定しております!




