表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/186

アダム・ノスト・イヴリゲンの陰1-4

 倉庫内の見張りは一向に動きを見せず、忠実に周囲警戒を敷いている。


 このままでは潜入なんてできるはずもなく、むしろ時間が長引けば此方の存在がバレる可能性もある。一人でも持ち場を離れてくれれば、残る四人を奇襲で沈黙させられる。五人を同時に襲えるだけの植物もないのでアレッタもお手上げだ。


 柊はその辺に転がっていた破片を拾い、彼らの背後へ向けて高く放り投げた。


「なんだ!?」

「お前、見て来い」


 魔術師一人がその場から離れた。残る五人も音のした方に意識が向いていた。


「私と統括者殿で五人をなんとかしよう。アレッタ君は持ち場を離れた一人を頼めるかい?」


 エイヴィーの指示にアレッタは柊と頷きあう。


 アレッタは物陰に隠れて移動しながらはぐれた一人と距離を縮めていく。視界の端ではエイヴィーと柊が自分と離れた魔術師の距離を測っていて、アレッタと魔術師の距離がだいぶ近づいたのを見計らって二人も行動を開始した。


 まず初めにアレッタが魔術式で男の後頭部に空気の塊をたたき込んだ。魔術師は大きな音を立ててその場に倒れたが、この音こそがアレッタなりの考えであった。


 視界から消えた仲間の方角から大きな転倒音がして身体を大きくビクつかせたその瞬間に付け込んで、柊とエイヴィーは魔術式を形成する原子である魔力に質量を与えただけのボールを手から放出してアレッタと同じように彼らの頭部へぶつけた。もちろん複数人の男が扉の近くで転倒すれば地下へと潜った彼らに気付かれてしまう。倒れゆく彼らが地面とぶつかる寸前に空気に緩衝材の意味を持たせた魔術式を彼らの足下に敷き、倒れた身体はフワフワと不可視なるクッションに沈んだ。


「ナイスコンビネーションといった感じかな」


 エイヴィーは親指を立てて応えた。


 アレッタとも合流して扉を開ける作業だが、三人のひ弱な筋力でどうにかできるしろものでもない。そこでアレッタは倉庫入り口まで小走りで駆けていき、シャッター脇に生えている雑草を抜いて戻ってきた。


「彼らに手伝ってもらいましょう」


 アレッタは詠唱を小声で済ませると、手に持った雑草がみるみる生長して伸び、太くなり、意思をもったように蠢きながら扉の取っ手に絡みつく。あとは雑草がふんばってその重量のある鉄の板をちょっとずつ、なおかつゆっくりと持ち上げ、三人はその隙間に潜り込んだ。等間隔に蝋燭が灯されていて、薄暗いが足下くらいはしっかりと照らされていた。


 足音を立てずに階段を降りる。


 アレッタは緊張で心臓が徐々に鼓動を早くしていき呼吸に乱れが生じ始めていた。


「アレッタ君。一度、落ち着きたまえ。声を出さずに深呼吸をして、さんはい」


 言われたとおりに深呼吸をすると、わずかに舞っていた埃を吸ってしまい、おもいっきり咳き込んでしまった。おもわず口に手を当てたが時はすでに遅かった。下の方から扉が開く音がして、複数人の駆足音が登ってくる。


「ご、ごめんなさい。わ、私のせいで」

「いいや。謝るのは私の方だね。落ち着かせるためとはいえ、こんな人の手がほとんど入っていない場所で深呼吸させた私の判断ミスだよ」

「反省会は後にして、二人は僕の後ろに! こうなった力尽くで押し通ろう」


 柊はポケットから結晶体を取り出し前方に投げ出し、詠唱を口早に唱えると、結晶体は赤く染まって炎を生み出した。


 火力をどんどんと増し、二つ目の結晶を足下に落とすと、床に跳ねた結晶がそのまま大きくなり壁として炎との間に展開された。


「な、なんだ!? 魔術式か!」


 事情を知らない魔術師達はどんどんと火力を増して生穂のオイを魔術式と見間違い、空気中の水分を集め膨張させた水の魔術式で対抗しようとするが、その炎の異変に全員が顔を真っ青にした。


「人だ! ち、違う! あれは異形だッ!」


 炎は姿を変え、人の形を成した。


 燃えさかる人ではあるがそこに首はない。手には自分の頭部であろうモノを持ち、ソレを持ち上げて見せた。炎の頭部の目の部分がまるで開眼したかのようにぽっかりと穴が空く。


 視線が合った者達から順に発火して全身を橙色の炎に包まれていった。悶えながら階段を転がり落ちる者。水澗術式で消化を試みる者。ただ逃げ出す者に分かれた。頭から水を被っても身に絡みつく炎は消えない。


 その地獄絵図を半透明な結晶壁の向かい側から呆然と眺めていたアレッタは、柊を見上げた。何を言いたいのか分かったが、その訴えの視線に応えることができない柊はただ敵意ある者達が焼け死んでいく瞬間をジッと黙って見守り続けた。


 下方から後続の足音がいくつも此方に向かってきていたが、同じように首なしの炎が燃やし尽くしていく。


「行こう」


 柊は一言つぶやいた。


 相手の感情の変化に機敏なアレッタでも、今の彼の言葉からは感情を読み取ることはできなかった。

こんばんは、上月です



次回の桐光は29日の21時を予定しております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ