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アダム・ノスト・イヴリゲンの影1-1

 アレッタは柊と二人きりで出かけていた。


 朝日が昇る前に古城を出て、柊の運転で人の手が入っていない獣道を下っている。一つ驚いたことがあった。それは柊が運転免許証を所持していたことだ。これから一日の片道を経たドライブだ。もちろんただのドライブではなく、受けた依頼の詳細を聞きに行くのだ。


「緊張してる?」

「い、いえ。ですが大丈夫です」

「うん。期待しているし、アレッタなら大丈夫だと確信しているよ」


 運転しながら柊が微笑んだ。


 今回の任務はAAランク。つまりは統括者三名の誰かでなければ受注できない危険の伴う内容。魔法使いや飢えた狼、成長してしまった歪みの処理等々である。


 柊が受けた任務に同行する理由は、AAランクに昇格した時のために経験を積んで、自分の限界を知って、死ぬ確率を引き下げる為だ。


「この間の歪みの件は想定外だった。クラウス伯や聖羅が来てくれなかったら危なかったね。でも、大丈夫。今回は絶対に」

「あの、柊先生。一つお願いがあります」

「ん? 何かな」

「この任務で私を厳しく評価してください。何が足りないのか、何がいけなかったのか、どうするべきだったのか。そういった意見を聞きたいんです。これは、私が将来、統括者になれた時、他の魔術師たちを守るための教訓として受け入れたいんです」

「アレッタ……。うん、わかった。将来の花のために栄養アドバイスを全力で注ごう」


 アレッタは窓に顔を向けて微笑んだ。


 車を走らせてもう四時間近くになる。あと二時間ほどで山を抜けられる。この長時間の運転で疲労を見せない柊だが、アレッタは少々心配になった。柊だけではない。他の魔術師達もこの長い道のりを運転しなければならないのだ。任務帰りにこの長時間の運転は危険すぎる。麓と古城の間に休憩地点があれば、そこで休息をしたり買い物ができたりすれば、余計な時間を使わせないで済むのではないか、と考えた。


 早くAAランクになりたかった。


 AAランクになったからといって直ぐに統括者になれるわけではないのは承知しているが、それでも早く統括者になって、自分なりのやり方で魔術市たちを守り、柊たちの仕事を減らして世界真理探究の時間を作ってもらいたかった。


「試験のことなんですけど、予定を早めることとかできたりしますか?」

「焦りは禁物だよ。じっくりと知識を吸収して、経験を積んで挑んだ方が良い。これまでの試験とは違って、危ないんだ。厳しいことを言ってしまうとね、今の稲神さんでも、命を落とす可能性があるんだ」

「そ、それって」

「AAランク昇格試験の内容はね。Sランクの創設者、アダム・ノスト・イヴリゲンが創造した自分自身との殺し合いなんだ」

「自分自身との殺し合い?」

「そう。容姿から全てのステータスがまったく自分と同じ相手に、知識と魔術や魔術式を使って勝つ。それが、AAランク昇格の条件なんだ」


 想像もしていなかった試験内容に生唾を飲んだ。


 寸分違わぬ偽物を作り出すアダムという魔術師は、本当に何者なのか。容姿も記憶に残らない、曰く世界と一つになった世界そのものたる存在。神か人か。魔術か真理か。その全てが曖昧で姿を見せない原初の魔術師。


「これは、アダムに対しての忠告だけど、彼……いや、彼女だったかな。アレと敵対しようなんて考えない方が良い。アレは人がどうにかできる相手ではない、ということだけが心の奥底に刻まれているんだ」

「わかりました。ですが、どうして記憶に残らないのでしょうか」

「これは僕の憶測なんだけどね。人間の脳の記憶容量では保存しきれないのか、人間が持つ動物的危機感が記憶することを拒絶しているのか。前者はクラウス伯が、後者は余瀬フィーネ殿が導き出した論なんだ。僕は両方だと思ってる」


 一泊の間を置いて柊は続ける。


「僕ら魔術師は世界真理を識る。世界と一つになっているアダムを識ることが世界真理を識ることに繋がっているんじゃないか、とも考えているんだ。つまり」

「つまり、アダムさんを認識できなければ世界真理に至れない、ということですか?」

「分からないけど、可能性はある。でも、そもそも噂だからね。世界と一つになったなんて」

「もし、仮にですけど。アダムを認識できる魔術師が現れたとしたら」

「世界真理を真の意味で解き明かせるかも知れないね。でもそれは、アレが世界だと仮定した場合の話だね。仮定の話を続けるけど、世界アダムに世界を知る為の神秘である魔術をぶつけたら」

「本当の意味で世界に触れる」

「そう。でも、中途半端な魔術では届かないね。本当に核に届くような魔術理論を有していないと」

「稲神家のような破壊することに特化したような理論ですか?」

「何も破壊することだけが世界を識る理論じゃないよ。でも、確かに世界を壊せれば、識り易いかもね。子供じみた理論だけど、全てを粉々にして中核を取り出す、とかね。あはは、ごめん。自分で言っておかしくって」

「ふふ、そうですね。でも、全てを壊したり解体してしんりを取り出す、なんて面白いです。きっと、そんな魔術理論を有した魔術師は良くも悪くも真っ直ぐな方でしょうね」


 車内は笑い話に変わり、二人は忍ぶことなく大笑いした。

こんばんは、上月です



次回の桐光は21日の21時を予定しております!

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