見るべきでないもの1-5
その未来はアレッタに衝撃を与えるものだった。
親友の聖羅を初め、幹久や香織までもが殺された。この二人を殺したのは稲神聖羅。二人に抱かれる赤子は両親の死んだことさえ分からずにすやすやと眠っている。
「わ、私が幹久と香織を手にかける……だと」
不確定な未来であってもこのショッキングな光景に聖羅も動揺を隠せず、半ば放心状態に近い状態で、しかし、手鏡に映る未来から目を背けずにいた。この先が気になる。自分は親友二人を殺して、どうなるのか。
アレッタも自分が視た未来より近い将来だと思った。
最初に視た未来では聖羅は、確かに自分を含めた魔術師に殺されたのだから。
つまり、アレッタは三人の近しい人物を失うこととなる。
「聖羅……。どうすればいいの! こんな未来、あんまりです!」
アレッタの悲痛な声に我を取り戻し、しっかりとその赤茶色の瞳に活力をたぎらせて言った。
「未来なんてものは、自分自身で変えるものだ。それに、こいつが本当の未来を視でているとも限らんだろう。そもそも、私にあの二人を殺す動機が見当たらない。というより、ここに映っている、私に似た誰かは、誰だ!」
「そ、そうです! 聖羅はいつも邪悪で、何考えているか分からなくて、人を馬鹿にしたような笑みを見せますが、ここに映っている聖羅は、人の情がありません」
「貶してるのか? オイ」
「いいえ、事実です。ですが、そうですね。聖羅には確かに殺す動機がありません」
「そうだ。それに、だ。仮に私が過ちに道を踏み外そうとしたら、お前がしっかりと引っ張ってくれればいいだけの話だ」
聖羅はアレッタを見つめて微笑んだ。
この笑みをみてアレッタは安心できた。こんな人間味ある表情ができる聖羅が、あんな表情で人を殺せるはずがない。これは何かの間違いだ。この手鏡を作ったのが、シェルシェール・ラ・メゾン創立者であるアダム・ノスト・イヴリゲン。彼の存在は所属する魔術師だれもがその存在を周知しているが、実際に会ったといわれているのは統括者の三名のみ。そもそも設立されて数百年が経過しているのだから、高齢という次元ではない。そんな彼について三人に聞いても、会ったには会ったが、用紙や会話の内容が曖昧な記憶でしか残っていないという。そんな神秘な人が作り上げた物なのだから、きっと何かしらのからくりがあってもおかしくはない。
「アレッタ。この手鏡、少しの間、私に預けてくれないか」
「え、はい。それは構いませんが、何をするつもりですか」
「詳しく調べる。調べ物はお前より私の方が得意だからな。何か分かれば直ぐに知らせる。だが、今夜のこととコレについては」
「他言無用、ですね」
「クク、利口だな。さて、これ以上入浴していても逆上せるだけだ。私は出るが、お前はどうする?」
「こんな時間に、こんな場所に置いていかないでください」
二人のやりとりを黙ってみていた幽霊が、ジーと視線で訴える。
「視線がうるさいぞ。まだ、何か用か?」
「何か用か? じゃないわよ。呼び出したのはそっちでしょう。それに応えて出てきてあげたのに、ずっと二人だけの世界を展開して、私を放置ってどういうことでしょうね!」
「ああ、もう帰っていいぞ。用は済んだ。私らも帰る」
「幽霊さん。おやすみなさい」
そそくさと浴場から出て行った二人に幽霊はボソッと告げた。
「せいぜい、頑張りなさいな。世界そのものであるアダム・ノスト・イヴリゲンに何処まで抗えるのかしらね」
幽霊は来たときと同じように湯の中へと沈んでいった。
脱衣所にいる二人には幽霊の最後の一言は聞こえなかった。
「明日から、ちょっとこいつを調べに一週間ほど外出する。アレッタ、お前の方でも一応調べておけ。くれぐれも気付かれるなよ。香織はああ見えて、人の機微な変化には聡い奴だ。あとはお前の大好きな柊だな。恋は盲目、隙は晒すな」
「べ、別にその柊先生とは……えぇと、あの、その」
「焦れったいぞ! 好きなら好き、嫌いなら嫌いだ。普通なんてものはないんだよ」
「割り切れてますね。聖羅は」
「割り切れないのが気持ち悪い。目標を定めたら一途になれ。余計な影響は雑音と同じだ。自分の道とやり方だけを信じて歩けばいいんだよ。前も言っただろ」
「そうですね」
聖羅に部屋まで送ってもらい、そこで分かれた。
どんどんと薄暗い廊下の奥へと行ってしまう聖羅の背中を見ていると、本当にこのままどこかへ行ってしまうのではないか、という不安と焦りが生まれ、引き留めたい思いでいっぱいになる。
「大丈夫ですよね、聖羅」
アレッタは部屋の中に入り、窓辺の椅子に腰掛けた。
星が綺麗だった。
夜空をうめつくす小さな光。
その中で一筋の光が空をよぎった。
「流れ星、ですね。えぇと、お願い事を」
その願いはとても平凡で、永遠に続けばいいと思える日常。
未来は自分たちで作る物だ。
こんばんは、上月です
次回の投稿は19日の21時を予定しております!




