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無道の歩むべき将来1-7

 若い者達を下がらせたクラウスは、口元に整えた髭をひと撫でして笑みを見せた。


 久しぶりに扱う魔術に年甲斐もなくワクワクとして、スーツの内ポケットにいつももちあるいている魔術媒体に触れた。


 クラウスの魔術は他の物が扱う魔術より異質で、魔術師らしくない神秘に、クラウスもここ最近は使うのを控えていた。だが、いま久しぶりにその幻想まじゅつを現世に拡げようとする。子供の頃に見たあの現実離れした光景を思い返しながら、そっと微笑んだ。


「幻想世界に揺れながら生きる住人たちよ。狭く息苦しい儂らの世界に僅かばかりの夢を与えておくれ。ただ、その僅かの分量は、そちらにお任せしよう――幻想聖域の(フュルテン・ド・)妖精譚フェアーランド


 クラウスは魔術媒体を引き抜いた。


 それは、小さな銀貨だ。


 炎に照らされる銀貨には小さな羽の生えた人が掘られている。


「さあ、悪戯ショー時間はじまりだ」


 銀貨が発光した。まるで閉じ込められた何かが外に溢れるように、いくつもの小さな光球がクラウスの周囲を飛び回る。どんどん数を増やし、部屋や通路を自由気ままに飛び回っている。


 幹久はこの幻想的な光景に目を奪われ、半開きになった口で「凄く、綺麗だ」と無意識に呟いた。幹久だけでなく、この場の誰も、二人の統括者も久しぶりに見た発光体の美しさに心を奪われている。


「これが、魔術だと? クク……少女趣味のファンタジーじゃあないか」


 消耗の激しい聖羅は、気怠そうに、赤茶色の髪の隙間からその発光体を眼で追った。力なく嘲笑った聖羅も次の光景には息を呑んだ。


 発光体が姿を変えた。正確には発光が落ち着くとそれは羽の生えた小さな少女たち。くすくすと笑い、四枚羽をゆっくりと羽ばたかせるそれは、妖精だった。悪魔でも異形でもない、人が作りあげた架空の存在。


「クラウスぅ、大変そうだね。私達の幻想、お披露目しましょうか?」

「ああ、頼むよ。このおいぼれの大切な仲間たちを守る為に」

「ええ、いいでしょう。いいでしょう。最近、構ってくれなくて拗ねてたところなの。この鬱憤を晴らすにはうってつけの相手ね」


 妖精たちの眼は一斉に異形へと向けられた。


 ところどころが炭化して崩れてはいるが、まだまだ捕食の意を諦めていない異形は、顔中を動き回る口を大きく開けていた。


 妖精たちは優雅に空を泳ぎながら異形を取り囲んだ。


 人間には理解できない言語で互いに囁き合い、両手を異形へと伸ばす。


 幹久は顔中からサッと熱の色が引いた。


 津ケ原幹久は言語を魔術媒体としている。それは言語の隔たりをなくし、相手を知って世界を識る魔術理論を有しており、きっと妖精たちの言葉を理解したに違いない。


 ブチブチと異形の腕や首があらぬ方向へと折れ曲がり、捩じられ、引き千切られる。不可視なる力によって壊されていく異形は泣き叫ぶ。幾重の声で笑う妖精たち。その異質な光景には流石の聖羅も眉根を寄せる。


 また妖精たちは微笑みながら囁きあう。


 ブクブクと異形の腹が膨らんでいく。血管が浮き出て、内部で内出血を引き起こすくらいに膨らみ、破裂した。


 瑞々しい臓器や肉片が部屋中に飛び散り、悪臭が充満し始める前に、妖精たちは窓を開けて息を吹く。悪臭は小さな春の香りに乗って何処かへと運ばれていった。


 残された肉片は妖精たちが群がって美味しそうに食べ始め、そのショッキングな光景に幹久と香織は意識を失った。


 純粋なアレッタが意識を失っていて良かったと思う柊と聖羅。


 ヨゼフィーネは一つ溜息をついて倒れた二人の額に手を置いた。


「この惨たらしい記憶がトラウマにならないように、記憶を書き換えます。対価はクラウス殿、払っていただけますね?」

「まあ、致し方ないのぅ」


 無限等価交換の魔術は対価さえ支払えれば、なんでもありか、と聖羅は弱々しい皮肉を言って、一人先にその場から去った。


 一方的に不死に近い異形を惨殺した妖精たちは童話に出てくる彼女たちと同じ微笑みを浮かべながら銀貨の中へと帰っていった。


 地面や壁には肉のひと塊、血の一滴さえ残さず綺麗にされていた。


「あの、一つお聞きしますが、クラウス殿の魔術理論とは一体……」


 ヨゼフィーネが彼の魔術の全体を目撃して、その疑問を素直にぶつけた。


 柊もあの発光体が宙を自由に飛び回るところまでしか見たことが無い。


「世に存在しないものこそが、世界真理を外側から見えるかもしれない、という魔術理論だよ。妖精とはね、人が生み出した空想の存在だ。そんな世界からはみ出した彼女達と触れ合っていれば、真理に至れるかもしれないだろう?」

「あれは魔術で生成したんですか? 聞いたことはありませんよ、生きた魔術なんて。是非とも後学の為に少しだけご教授願いませんか」

「ふっふっふ、気になるようだね。だが、残念だよ。あれは秘匿にしておかねば世界の外側足りえない」

「だから、普段は魔術を使わないのですね」

「その通りだよ、ヨゼフィーネ殿。彼女達をお披露目するとそこの二人のようにショックを受ける可能性があるからのう。悪戯好きの妖精たちを危険視する信仰会する理由もわかるのだが、なにぶん生き証人は存在しないのだよ。だから得体のしれない神秘を警戒されているというわけだね」


 シェルシェール・ラ・メゾンの噂は真実であった。


 後日、稲神聖羅は一人で三統括者からこっぴどく叱られ、しばらくの間は不貞腐れて書物に没頭した。

こんばんは、上月です



はっぴぃ ばぁすでぃ とぅ みぃ

ということで誕生日に投稿です!


次回の投稿は22日の21時を予定しております

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