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無道の歩むべき将来1-4

 シェルシェール・ラ・メゾンには決して立ち入ってはいけない場所が幾つかある。


 古城の地下迷宮。南棟四階の角部屋。深夜二時過ぎの大浴場、等々。


 統括者の三名でさえ、容易に足を踏み入れない。もちろん好奇心旺盛な所属魔術師たちでさえ怖いもの見たさを捨ててでも避ける。


 誰もが寝静まった刻限を狙って、喉を鳴らした笑いが木霊する。


「聖羅! びっくりするから、その笑い方を止めてください」

「クク、無理だね。楽しくて仕方がないんだからなァ」

「すっごくワクワクするね! 見つかったら、怒られちゃうかな」

「ね、ねぇ、やっぱりこんなこと良くないよ。今ならまだ間に合うし、引き返さない?」


 居住階層を避けて、書庫や物置部屋のある階層から南棟へ続く通路で四人分の足音。


 先頭から稲神聖羅、アレッタ・フォルトバイン、久世香織、津ケ原幹久。


「中々、面白い追加情報を得たんだ。魔術師としての探求欲以前に、人としての怖いもの見たさが勝らんのか?」

「僕の場合は無理やり香織ちゃんが……」

「なぁにぃ? 聞こえなーい」

「香織はその胸に見合ったデカイ度胸があって頼もしいよ。んで、お前はどうなんだ、アレッタ」

「私は、その、監視役です」

「監視役なら、もうすでに止めているだろ。お前も好奇心には勝てんか」

「謎を謎のままにしておくのは、なんだか落ち着きませんので、ちょっとくらいなら」

「いいぞ、その意気だ。七不思議ほど多くは無いが、本当に踏み入ることを禁じるに相応しい何かがあるか、是非とも見てみたいものだよ」


 つい先程まで柊を交えた五人で、アレッタのフォルトバイン家当主就任祝いをしていた。その際に酒を飲んでほわほわし始めた柊から聖羅が、立ち入り禁止エリアの詳細を聞き出した。この世の全てを本気で知り尽くそうとする聖羅と、面白い事が好きな香織の二人が視線を合わせた瞬間をアレッタは見逃さなかった。

 

 人が関わってはいけない領域の存在がエリア内に潜んでいるという。


 その幾つかある禁止エリアの中で最も危険とされるのが、古城の地下迷宮。南棟四階の角部屋。深夜二時過ぎの大浴場だ。


 それを面白がって、赤茶色の瞳を好奇心に染めると、次々と柊のグラスに酒を注ぎ、言葉巧みに飲ませて潰した。


 アレッタは止めようとしたが、聖羅とグルである香織に阻まれて助ける事が出来なかった。


 反対意思をみせた幹久とアレッタだが、勢いのある聖羅と香織相手に主張を貫くこともできず、渋々ついていく事となった。


 南棟の扉は古臭く、大きな錠前で施錠されているが、聖羅の魔術によって錠がスッパリと切断された。


「わー! 今日も聖羅の魔術は切れ味が鋭いね」

「器物破損しちゃって、怒られるよぉ」

「大丈夫だ。怒られるのは私とアレッタであって、お前達はただ付いて来ただけだにしておく」

「ちょっと待ってください。どうして、私も一緒に怒られなくてはならないのですか。聖羅が一人で怒られるべきでしょう?」

「お前は先程、自分は監視者とか抜かしていただろうが。監視者が悪事を止めず、一緒になって今もこうして私を見逃しているのだ。共に怒られるのは当然だろうよ」

「それなら、結託した香織さんだって」

「えっ、私っていつ聖羅と結託したっけ?」

「さあ、私は独断で進めていたつもりだが?」


 ふつふつと沸き立つ怒りを察知した幹久が「この二人の勢いに勝てるはずはないから、一回、落ち着こう。ね?」なんて宥められた。


 もうここまで来たのだから、せいぜい物珍しい噂話を楽しんで怒られてやろうと諦めた。禁止されているエリアに踏み入るのだから、何もないにこしたことは無いが、これで何も見れずに怒られたのであれば損な役回りだ。


「覚悟を決めたようだな。じゃあ、行くぞ。南棟四階の角部屋には異界へと通じる魔術陣が敷いてあるらしいからな。クク、異界とは異形の住む世界だ。なぜ、そんなものがこの組織にあるのかは柊も知らないらしい。噂ではシェルシェール・ラ・メゾン創設者――アダム・ノスト・イヴリゲンが敷いたと言われているらしいぞ」

「アダムって人って、確か唯一のSランクって言われている人だよね? 三統括より上じゃん」

「でも、世界真理を知って人間じゃなくなったってクラウス伯から聞いたことがあるよ」


 Sランクには超越の称号が与えられるが、彼もしくは彼女の姿を誰も見たことが無い。ただ、この古城の最上階にある部屋に籠っているらしいが、アダムは既に二百年以上も前に存在していた。今も確かに生きているのなら確かにそれは人ではない。不死者だ。閉じた時間を生きているのであれば、どんな気持ちで、何を考えながら生きているのか。死ぬ事を剥奪される苦しみに蝕まれているのであれば、どうにかして助けてあげたいと考えるが、今の自分では何もできない。


「世界を識ったら世界に溶ける、か。クク、面白いなァ。私たちは溶ける為に世界真理を探究している事になる。皆世界で一つになるか? 平和主義な最期じゃあないか」


 もし仮に世界真理に至った恩恵が世界との融合であれば、それは本当に、世界を識るべきなのだろうか。分からない。アレッタはあくまでもうわさ話に翻弄されつつも、聖羅の背中を眺めた。


 赤茶色の綺麗で真っ直ぐな髪が背中を緩やかに揺れている。


 いま、この中で最も世界真理に近いのは間違いなく稲神聖羅だ。


 彼女が将来、世界と溶けてしまったら、なんて考えを振り払う。


「安心しろ。私は上手くやれる。世界が私を溶かそうとするならば、私はその世界を切り刻んでやる。もちろん、お前達が溶かされそうになった時もだ」

「ええ、その時は頼りにしていますよ。聖羅」


 そんな話をしている内に四階の角部屋に辿り着いた。


 扉はこれといって術式による施錠は無く、小さな錠前が二つ付いているだけだ。聖羅は同じように魔術で錠前を退かして、埃や蜘蛛の巣が張った扉を蹴り開けた。

こんばんは、上月です



次回の投稿は15日の21時を予定しております

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