無道の歩むべき将来1-3
アレッタは男と対峙していた。
高価な壺や絵画が部屋中に飾られた古城の一室。
男の手には酒が注がれたグラス。味わうようにゆっくりと口元で傾けては、互いの間に置かれたテーブルの上に置いた。
一連の様子をジッと眺めていたアレッタは先に口を開いた。
「なんの御用でしょうか。貴方が私と話がしたい、なんて珍しい事もあるのですね」
棘のある言い方に男は鼻を鳴らして、欲望で濁った眼で値踏みするように眼を細めて笑った。
「フン、貴様がここまで成長するとは想定外だったよ。これも柊様の指導の賜物か、それとも、久世家が授けた邪悪な知恵の実りか」
「前者であればと願っております」
「どっちでもいい」
目の前の男――グランツ・フォルトバイン。
アレッタ・フォルトバインの父親。ただし、自分は望まれてこの世に生み出されたわけじゃない。これといって活躍が見られず、評価が下がっていく状況を打開しようと、邪道の久世家に知恵を借りて生まれたのがアレッタだ。魔術四家の中でも秀でた特徴も無い、ただ魔力の質と量が安定して高いというだけの家系。無名家系以上名門三家以下のという微妙な地位にしがみ付いている。
「俺としては不本意だ。実にな。だが、俺も一人の魔術師として家名に泥を塗るわけにはいかんのだ」
グランツ・フォルトバインの魔術師としての評価は年々下がっていく。このままでは名門の地位さえも奪われかねない。プライドと権威の妄信者である彼は、この状況に煮え滾るような想いなのだろう。
「お前の代わりとなる子供は母親と共に逃げだし、フォルトバインを継ぐ子がいない。だが、お前は俺の血が流れている。家督相続の権利は十分にあり、実力と評価も憎らしいが俺以上だ」
「フォルトバイン家の家督を私に相続したいと?」
「ああ」
「勝手な話ですね。幼い私に貴方は何と言って家を追放したか覚えていますか?」
「……ああ」
「謝罪を頂いていません。それに、致し方なくであれば私は辞退します。フォルトバインの姓も返上しましょうか?」
無意識のうちに感情的になっているアレッタ。
グランツは背に腹は代えられない。
そもそもこの男は、日本人が名門魔術家系に名を連ねているのを快くは思っていないのだ。唯一の日本家系を除いた名門フォルトバイン家を潰すわけにはいかない。このまま自分が当代を務めて失墜するよりも、代交代をしてしまったほうがグランツ自身の評価を下げずに済むという算段があった。
浅ましい考えをアレッタは見抜いていた。
この男を助けたいとは思わないが、多くの魔術師が心の拠り所としている名門四家を確かに潰すわけにはいかない。
アレッタは小さく溜息を吐いて、条件付きでの家督相続を了承した。
「条件があります。一つ、私が家督を継いだ後に貴方は私の方針に異を唱えない。一つ、私は屋敷には帰りません。最後に、これ以上に人としての道を踏み外さないでください」
小娘が大人に条件を付けるとは何様のつもりか、と一喝したそうな表情だが、大きく出れない立場に苛立ちとむず痒い気持ちだ。
「いいだろう。お前の条件を呑んでやる」
「ありがとうございます。グランツさん」
お父様とは呼ばないし、呼ばれたいとも思わないだろう。
異質な親子の対話は終わり、アレッタは彼の成金趣味の部屋を出た。
これでアレッタは正式にフォルトバイン家の魔術師になった。
これからは名門家系に恥じない働きで、お飾りの無道探求ではないことを証明しようと意気込む。
「柊先生に、まずは報告をしなければいけませんね」
「ん? 僕がどうしたの?」
「柊先生!? どうしてここに」
「ああ、うん。クラウス伯の部屋がこの近くで、今から自室に帰るところだよ。アレッタこそどうして?」
「あの人に会ってました」
柊はアレッタが今出てきた扉を見て納得がいった。
「ああ、グランツ殿ね。親子の会話はどうだった?」
「楽しいものではありませんよ。ただ、家督を正式に相続しました」
「フォルトバイン家当主になったんだね。おめでとう、と言っていいのかは分からないけど、よかったの?」
「はい。私がフォルトバイン家を変えます」
「そっか。うん。アレッタなら大丈夫だと、僕は信じているよ」
柊の隣を並んで歩く。
「そうだ。この後、時間あるかな?」
「はい」
「じゃあ、パーティーをしようか。当主になったんだから盛大に祝おう。幹久君、香織さん、聖羅さんを呼んで」
「はい!」
こんばんは、上月です
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