無道の歩むべき将来1-1
山間に建てられた苔や蔦が絡む古城。
生い茂る木々が古城の二割を覆い隠し、残りは魔術式によって不可視化させている。敵対する者の侵攻にも迎撃する術式が幾つも周囲には張り巡らされていて、常に数百から数千の魔術師が静かに世界真理探究の日々を過ごしている。
石造りの静かな個人部屋でアレッタは真剣に幾つもの書物を見比べて、ノートにペンを滑らせていた。
ドアの隙間から覗く四人分の視線さえも気付かずに、難しい顔をして小さく、可愛らしく唸っている。
「あいつは何の本を読んでいるんだ?」
「漫画とかだったら面白いよね」
「アレッタさんは漫画とか読まないでしょ」
「確かに読んでいるところを見たことが無いよ」
稲神聖羅、久世香織、津ケ原幹久、柊春成の日本人魔術師たち。
最大魔術組織シェルシェール・ラ・メゾンの統括者、名門魔術四家出の三名が少女の部屋を覗き見る姿は、通路を通り過ぎる魔術師達からは奇異に見えているに違いない。
ページを行き来させるアレッタは相当に頭を悩ませている。
努力の天才である彼女が頭を悩ませる種とは一体何なのか。
「よし。私は興味が沸いた。歪みの件からアイツはずっと隠れるように本を読み耽っているんだ。気にならないはずがないだろう?」
聖羅は一度決めると即行動に移す。
「おい、アレッタ。可愛い可愛い顔を固くして何を読んでいる」
ドアを勢いよく開け放った聖羅。アレッタは驚きに眼を見開いて「えっ、え?」と動揺している。サッと今読んでいた本を魔導書で隠すが、聖羅はズカズカと部屋に踏み入って力業で魔導書を退かす。
「経営者の心構だぁ? こっちは、指導者のテクニック。これは、企業法……? お前は、アレか。企業でもするのか?」
「い、いや、あの……これはですね」
聖羅の背後から彼女の持っている本を眺めた柊は合点がいった。
「なるほど。統括者になりたいんだね」
「……はい」
シェルシェール・ラ・メゾンの統括者は、言ってしまえば、全ての魔術師を取りまとめる代表だ。本組織だけでなく、世界中に存在する組織との連携や、連盟加入魔術師のランク付け。敵対組織や世界の歪みに対する対策案と方針などなど。
多忙に自分の時間さえも割けなくなる役目。
柊やクラウスはほとんどの業務をヨゼフィーネに丸投げしていたのだから、その間の彼女の業務量と言ったら一日二十四時間あっても足りなかったはずだ。
「アレッタなら、きっと素晴らしい統括者になってくれるよ。でも、本当に統括者を志すの? 分かっているとは思うけど、僕やクラウス殿が業務を投げ出したくなるほど大変なんだ。自分の時間も取れないし、魔術師本来の世界真理探究だって手が付けられない」
「それでも、私は目指したいんです。統括者になって魔術師達の将来を守りたい。魔術師の成長を促してあげられる存在になりたいんです」
アレッタが自分なりに考えて導き出した守り方。
ただし、統括者はなろうと思ってなれるわけではない。
魔術師としての才覚を見せ、世界真理の究明にもっとも近い者でなければならず、最低でもAAランクでなければならない。AランクからAAランクの壁は天才が努力しても昇れない境地にある。
名門魔術四家でも過去に数名程度しかAAランクを授かった者はいない。
彼女の意志は固く、定めるべき自分の道を懸命に探すアレッタは、フォルトバイン家の無道の探求を確かに歩んでいる。
無道とは探求に型がなく、その代によって歩むべき道が異なる。受け継がれるべき知識はなければ、理論も、在り方もない。よく言えば自由な発想や理論を持った子供が生まれる反面、一貫した名家としての誇りが無いと一部からは陰口を叩かれている。
稲神が歩む外道のような、常識外れな視点から物事を見る事もない。
津ケ原が歩む正道のような、誰からも模範とされる正当で賛同を得られる事も無い。
久世が歩む邪道のような、邪な手段を用いて超人を生み出す実験思想もない。
「えぇ!? アレッタって統括者になるの? すごーい!」
「まだなれると決まってはいないよ、香織ちゃん。でも、僕は応援してるよ。頑張ってね」
「まあ、お前が考えて導き出した道だ。しっかりと終着点を見据えて歩き続ければいいだろう。お前の将来だ、しっかりとその無い胸を張れよ」
「聖羅も同じくらいです」
「クク、言ってくれるなよ」
「聖羅が言い出したんです」
二人は笑い合う。
将来を担う若い魔術師達はどんな道を歩んでいくのか。
柊は彼等の仲がずっとこの先も続けばいいな、と願った。
こんばんは、上月です
次回の投稿は8日の21時を予定しております




