歪みの対処任務1-6
暗黒宇宙を凝縮したような正四角形体の防御力に一石を投じたのは柊だった。
何をしようが無駄だと、花を鳴らして彼等の抵抗を嘲っていた魔法使いの表情を凝固させた。
「魔法の理屈を識るには随分と時間が掛かりそうだね。でもね、キミを倒すんじゃなく、閉じて終わらせるのであれば、苦は無いよ」
柊の五色の結晶体が宙に放られ、それらが成人男性ほどの大きさにまで質量を広げた。暗黒正四角形体を中心に据え、五つの等間隔に赤、黒、白、緑、黄の結晶体が配置される。五色の光が線となって他の結晶体を結び五芒星を成した。封印、という言葉がしっくりくる様。
「う、動けないだと!? この結晶体が、この魔術が、動きを、いや……時間を、凝固させているのか?」
明らかな動揺が正四角形体から感じられた。
「魔術や魔法では時間干渉は出来ないよ。僕はただ、閉じているだけ。そうだね。分かりやすく言えば、隔離かな」
「か、隔離だと‼」
この魔術をアレッタは初めて見た。
あの強大な力を持つ魔法使いを、いとも簡単にその身動きを殺してしまった。彼の焦る様子からして成す術がないのだろう。
「でもね、これは相手の活動を奪うだけで、現状の打開策には至っていないんだよね」
大層な神秘を見せて、これ以上の効果は無い、と照れくさそうに暴露する柊。
「しばらく時間を稼げるか、柊春成」
「彼の態度が演技で無ければね」
「フォークス。あれを使え」
「えぇっ! アレを使うんですか? 使っちゃっていいんですか?」
なにやら執行会側には秘策があるらしい。
狼狽えるフォークスにカレッジは大きく頷いて見せた。
「わっかりました! 神罰が下った時は、先輩の事を恨みますからねっ」
首元から大きな金属製のプレートを取り出した。ローブの内側に紐から提げていたのだろう。薄い板にしか見えない品ではあるが、柊が眉を潜めて苦笑いした。
「まさか、あんなものを持ち出すなんてね。アレッタ、下がろう」
「あれは、何ですか?」
「神様の激怒、かな」
アレッタの手を握って正四角形体から距離を空ける。
眩い光がプレートから放射された。
色覚を失う程の白い光は柊の身体が遮った。「これ以上は見てはいけないよ」と耳元で告げ、そのままアレッタの身体を地面に押し倒した。覆い被さる彼の体温に鼓動が早くなる。
場違いな感情の浮かれは、すぐさま消し飛んだ。
木々が力任せに引き千切られる悲鳴を聞いた。草花の小さな命が摘み取られる絶叫を聞いた。ありとあらゆる存在を渾身の力で薙ぎ払う轟音がこの場一帯を吹き抜けていった。
柊が自分に覆い被さったり理由は直ぐに見て理解できた。
「こんな……こと」
「まさか、あんなものを携帯しているなんてね。正気じゃないよ。でも、流石の魔法使いといえども、アレをまともに受けて無事ではいられなかったようだね」
柊の視線を追って、彼の見ている暗黒正四角形体へと目を向けた。
亀裂が幾重にも引かれ、パラパラと崩れていく絶対の防御。
暗闇の向こうから青年が姿を現したが、力なく立ち尽くしていた。髪で表情が隠れているも、戦意は感じられない。
「よくやった。フォークス」
「神様の加護が無ければ、私も木っ端微塵でしたね。こんな危険な代物を持たせる先輩の外道っぷりには脱帽っすよ!」
「外道は稲神の道だ。俺達が歩むは神道だ」
「神道って日本の宗教じゃなかったですか?」
「意味は異なる」
魔法使いは小さく息を吸って吐く。
「お、まえ……人の身で、そんな……」
ボソボソと独り言のように言葉をつっかえながら呟く青年は、そのまま前のめりに倒れた。這う姿は先程までの高慢に見下していた人物と同一であるとは思えない。
魔法を凌駕したあの神秘が気になるアレッタは、視線で柊に聞いてみた。
「気になるよね?」
「はい。凄く」
「僕が説明するより、もっと詳しい彼等に聞いた方が実りになるよ」
この現象を引き起こさせた執行会の二人は魔法使いを見下ろしていた。フォークスが魔法使いの腹を蹴って仰向けにさせ、カレッジがその胸倉を掴むが、意識が朦朧としている彼の首は力なく垂れる。
「縛っておけ。意識が戻り次第、尋問する」
「了解です!」
瞬く間に魔法使いは芋虫のようにぐるぐる巻きにされてしまった。
「あの、フォークスさん。先程の光は何ですか?」
「さっすが魔術師さんですね。いいですよ。今回はお仲間ですし、教えてあげても良いですよね、先輩」
「ああ、まあ、いいだろう」
フォークスの代わりにカレッジがそのプレートについて説明を始めた。
こんばんは、上月です
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