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歪みの対処任務1-3

 何が起きたのか。


 その原因を知る前に身体は暴風で吹き飛び、視界の悪い土煙の中を転がり、固い何かに背中をぶつけて灰の中の二酸化炭素をすべて吐き出して止まった。


 声を上げようとしても、土煙が喉を刺激して咳き込んでしまう。


「空気が重い……」


 アレッタは懸命に手で地面に散乱するものをどかしながら這い続けた。柊を求めて。彼の無事を祈って。手に鋭い痛みを感じた。割れたガラス片で手を切ったのかもしれない。それでもこの異常事態の中を彷徨い続ける。


「柊せ……」


 喉の奥にイガイガとした痛みと痒みを堪える。


「柊先生!」


 振り絞り出した声も囁く程度の声量だ。


 未だに土煙は晴れず、近くに誰がいるのかもわからない。


「ああ、アレッタかな?」


 すぐ傍で苦しそうな声がした。


 紛れもなく柊の声だが、呼吸が早く浅い危険な状態であることを察するも、魔術師の最大の奇跡である魔術は、音声による媒介を必要とする。この状態では上手く詠唱をする事敵わない。


 せめて彼の傍まで辿り着こうと声のした方へと進路を変更する。


「せん……だいじょ……です」

「僕は……じょうぶ。アレッタは?」


 彼の温かな手に触れた。


 しっかりと彼の手を握る。


 少し離れた場所から叱咤するような一声と共に強風が円を描く。


 土煙が風に纏って何処かへと運ばれていった。


「いったい、何が……あったんだろう」

「柊先生!」


 アレッタはヒステリックな叫び声を上げ、わなわなと柊の右肩に刺さる木材に驚愕した。柊もようやく自分に何が起きていたのか理解し、青ざめた顔で無理に笑って見せた。


「退くんだ」


 柊の様子を見たカレッジが速足で駆け寄ってきた。彼の法衣も土で汚れ、顔中が擦り傷だらけだ。フォークスは泣きそうな顔をしているが、怪我一つなく彼に追随している。


 アレッタが身を引くと、入れ替わりでカレッジが柊の肩に刺さる木材を力任せに引き抜いた。激痛に顔を歪ませ呻く柊に、アレッタは敵意の視線をカレッジへと盛大にぶつけた。


「治療をするだけだ」


 溢れ出てくる赤い血が地面に広がっていく。


「我が神よ。慈しみの奇跡を今ここに」


 錫杖の先端を傷口に触れさせると、先端に取り付けられた鉱石が発光し始め、血で濡れた傷口は目視では分かりにくいが、それ以上の出血は無く、柊の表情から苦悶が消えた。


「それが信仰者の奇跡か。魔術より治癒速度が速いんだね」

「神の加護が、魔術に劣ることは無い」

「さっすが、カレッジ先輩です! 素晴らしい神様の加護を見せつけ、最後にはどや顔で決め台詞! くぅ、痺れます!」


 泣きそうだったフォークスは、カレッジの奇跡を眼にした途端に元気いっぱいになった。


「どうして、こうなったんでしょう」


 アレッタの言葉に場の全員が周囲を見渡す。


 どうやら吹き飛ばされたのはアレッタ達が潜んでいた民家だけ。これは自然災害ではなく、意図的な災害だということが判明するも、その犯人は誰か、なんて考える必要も無い。


「歪みの防衛反応、かな」

「ここまでの威力ともなれば、小規模では済まない。中の下くらいか?」

「カレッジ殿。僕ら四人で対処できると思う?」

「正直言えば、不可能だ」

「だよね。大規模でも互いに数百人規模の人を揃えて、半壊以上の打撃を被ってるからね」

「やってみましょうよ! このまま逃げたらどんどん大きくなるんですよね。なら、ここは私達が対処するしかないです! 神様もそう言ってますよ、きっと」

「手厳しい試練だな」


 カレッジが疲れた笑みを浮かべ、柊も苦笑した。


「確かに彼女の言う通りだね。増援を呼んでいる暇も無いし、ここにいるメンバーでなんとかしなきゃね。はぁ、骨が折れそうだ」

「だ、大丈夫ですか!? 柊先生、何処の骨が……ん?」


 慌てふためくアレッタを三人が声を大にして笑った。


 どうして笑われているのか理解できないアレッタは、ただただ小首を傾げて三人の顔を見まわす。


「大丈夫だ。あの一撃以降、気配はない」

「一撃離脱って奴ですね! 卑怯ですよ。見つけしだい執行しちゃいましょう」

「そういえば、歪みってどんな形をしているんですか?」

「歪みは、いろんな形をしているんだよ。魔法陣みたいな分かりやすいのから、変哲もない石だったり、動物だったり」


 歪みと言われているくらいだから、陽炎のように空間が歪んでいるのかと思っていた。


 これは探すのが難しいかもしれないのでは、と気が遠くなりかけたところで、カレッジが補足説明をした。


「見つける方法だが、歪みの周囲は異界化され、異形共が現世に雪崩れ込んでくる。それに、防衛反応が強いのだから、その際に、何から発せられたかを見極めれば問題は無い」

「僕ら魔術師の場合は、気で分かるよ。さっきの嫌な気配は感じた?」

「あ、はい。なんとなく空気が濁っているような」


 民家が吹き飛ばされた時に説明が難しい何かがそれを察知した。


「さて、ゆっくりしている時間も惜しいし、探しに行こうか」


 全員が頷き合い、深い木々の中を歩き始めた。

こんばんは、上月です



次回の投稿は14日の22時を予定しております!

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