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歪みの対処任務1-2

 柊との任務はまだ見習いとして探求していた時以来だ。


 シェルシェール・ラ・メゾンから二日かけてやってきた場所は、人も立ち入らないような廃村だった。


 カラスの真っ黒な眼がいくつも二人を歓迎している。組織の娯楽部屋で何度か、聖羅たちと鑑賞したホラー映画のような場所に背筋と表情が凍り付く。


「微かに歪みの気を感じるね。分かるかな?」

「えっと、すみません」

「まあ、村の様子がこれじゃあ感覚も鈍るよね。大丈夫だよ。そのうち慣れると、分かってくるから」


 手にした村の地図と実際の配置を確認し、「ああ、あそこがそうか」と呟いて歩き出した。アレッタも彼の後ろに続く。もちろん周囲警戒は怠らない。


 ガラス窓も割れた苔と蔦で装飾された一軒家。


 柊は一定のリズムでノックをすると、扉がゆっくりと内側に開き、そこから陰鬱な男の眼が覗いた。


「――ッ!?」


 声にはしなかったものの、あまりの不気味さに眼を見開く。毛穴が一気に拡張し、髪が逆立ったように流れる。


「ああ、すまん。シェルシェール・ラ・メゾンの柊春成だな。俺は、執行会序列第十二位――カレッジ・タイトマンだ。中にもう一人いる。確認しておくが、今日は互いに争い毎は無しだろ?」


 陰鬱とした顔つきに相応しい覇気のない声。


 神の使徒というよりかは悪魔崇拝者にしか見えない彼は、扉を全開にして二人を招き入れた。


 室内は掃除がされていて、埃やゴミの類は見当たらない。ただ、割れた窓ガラスから不気味に冷えた風が流れ込んでくる以外は、普通の部屋だった。


「座ってくれ。もう一人は茶を用意している。そのうち来るだろう」

「此方からも一つ確認してもいいかな。今回、歪みの消失に努めるのは僕等だけ?」

「そのようだな」

「手紙には、そちらが数を揃えて、僕ら魔術師が前線で対応する手筈だったはずだよね」

「……なに?」


 カレッジは怪訝な顔をして柊の言う手紙を手に取って読んだ。


「おかしい。情報が食い違っている」

「それは、どういうことでしょうか」


 アレッタが恐る恐る聞いてみると、カレッジは白の法衣の胸元から手紙を出し、シェルシェール・ラ・メゾンからの手紙を差し出した。柊もそちらを手に分を斜め読みした。


「差出人は僕になっている。確かに、僕は手紙を信仰会の暗部執行会に出したけど、内容がまったく異なっている。こんなの、僕は書いていない」


 内容はシェルシェール・ラ・メゾンが数を揃え、執行会から二名の派遣と記されていた。それも柊の手書きで。


「俺達を騙そう、というお前たちのやり方ではないのか?」

「カレッジ殿は執行会の中でも良識的な信徒と噂を聞いています。もし騙し討ちを仕掛けるなら、二人だけで来るはずがない。それに、この手紙だってそうだ。僕等は執行会が数を揃えると信じて来た。此方も数を揃えれば、戦争になりかねないよ」

「……確かにそうだ」


 カレッジと柊が手紙の食い違いに頭を捻らせていると、厨房と思しき場所から少女が一人、人数分のカップを小刻みに揺らしながら盆を手に姿を現した。


「お、お待たせ、しましたぁ。あああ、揺れる! こぼれそう! 表面張力!」


 カップには並々に注がれた赤茶色の液体が、縁から少し膨らんでプルップルとしている。これが表面張力か、と感心しているアレッタの眼の前に置かれた盆。中身は奇跡的に零れていなかった。


「ああ、神の試練を乗り越えました! カレッジ先輩、ほぉめてっ!」

「勝手に茶運びを神の試練にするな」


 といいつつも、アレッタより少し年下に見える茶髪の少女の頭を撫でた。


「今回、歪みの消失に協力していただくシェルシェール・ラ・メゾン統括者の柊春成さんだ。それと」

「Aランクのアレッタ・フォルトバインです」

「魔術四家のフォルトバインか。よろしく」


 手を差し出したカレッジに応えようと手を差し出すと、突如割り込んできた少女の手ががっちりとアレッタの手を握りしめた。


「綺麗だね! すごい、お人形さんみたい。へぇ、いいなぁ。銀髪だぁ! 現実にいるんだね。しかもサラサラ」


 握手したままぴょこぴょこと嬉しそうに跳ねる茶髪の少女。


 雰囲気的には久世香織に似ている。


「よさないか。神は俺達を見ている」

「はぁい。あ、私は信仰会所属執行会序列第二十三位――フォークス・マリオントです!」

「あ、アレッタ・フォルトバインです」


 数年前の自分だったら思いっきり距離を空けている。


 今は握手くらいなら許せるようになった。


 少女から伝わる温かな体温を他所に、男性陣二人は表情を難しくしている。


「第三者の関与を視野に入れた方がいい」

「歪みの消失を快く思わない存在、ということだね」

「両組織の中に」

「細工した者が?」

「可能性の話だ」


 瞬間に空気の流れが変わった。


 その変化を俊敏に感じ取ったカレッジと柊が扉に背を預け、割れた窓ガラスから周囲の様子を窺う。


 キョトンとするアレッタだったが、異常事態が起きたことを二人の顔色から読み取り、魔力を全身に流し込む。


 フォークスは能天気にも、何が起きたのかな、という様子だ。


「歪みの濃度が増したな」

「こんなことはありえない。成長は緩慢なはずだよ」

「それは、これまでの常識だ。生物が適正に沿って進化をするように、歪みもなんらかの対策として進化しているのかもしれんな」


 柊は即時展開できる魔術式をいくつも頭に浮かべていた。いかなる展開にも対応できるように。


 カレッジは何処から取り出したのか、錫杖の先端に取り付けられた鉱石を赤く灯らせた。


「なにか、向かって――逃げるんだッ!!」

こんばんは、上月です



明日は予定がありますので、次回の投稿は11日の21時を予定しております。

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