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脅威に抗う為の脅威1-3

 金色の巨大シャンデリアが吊るされた防音壁に囲まれた大ホール。


 普段は立食パーティや社交界ダンスで賑わいを見せるこの場も、今は張り詰めた空気に無言の威圧が賑わせている。


 大ホールに見合わない円卓で向かい合う八人の男女。


 片方は純白の法衣に身を包んだ者達。


 片方は純黒のコートに身を包んだ者達。


 その比率は四対四。


 テーブルの上には誰も手を付けないお飾りとしての料理たち。


「キミ達が呼び出したのだろう。沈黙もいい加減にしたまえ。我々にはこんな場所で、こんな輩共と無言の時間を過ごせるほど暇ではないのだがね」


 純白側の最高齢の男は顔中の皺を眉間に寄せて睨み付けた。


「怖いなぁ。神様の使徒ってのは、そんな怒りっぽくていいのかい?」


 純黒側の最高齢であるクラウスは両掌をわざとらしく見せておどけた反応。


 この場に集った者達は魔術組織と信仰組織の最高位に君臨する代表者。


 魔術師側には統括者のクラウス、ヨゼフィーネ、柊、そしてアレッタ。


 信仰会側には管理役職第一位のエラブル・アルツカイヒマンという男と、老人と若い女性と男性。


「俺はエラブル・アルツカイヒマン。信仰会暗部執行会最高管理職第一位だ。つまり、この場での信仰会側での責任者だな」

「大層な名乗りね」


 ヨゼフィーネが冷たく切り捨てた。


「大層な名乗り、か。たしか、数年前に稲神聖羅にも言われた記憶があるぞ」


 彼の発言に魔術師側は怪訝な表情を一瞬だけ浮かべた。


 稲神聖羅からはそのような報告を聞いた覚えがないからだ。


 だが、そんな事は今は関係がないと切り捨てたのは、やはりヨゼフィーネだ。


「私達も、殺戮狂信者と無駄な顔合わせをする為に呼びつけた訳ではありませんので。魔術師には僅かな無駄な時間もありません。単刀直入に言います。魔術師狩りの件について、です」


 赤い髪から覗く視線が一層に鋭くなる。


 それに答えたのはまたエラブルだ。


「我々は職務を全うしているだけだが、ああ、何か問題でも?」


 ヨゼフィーネは眼を見開き、そのままテーブルに乗り付けて相手の顔を殴り付けそうな勢いで立ち上がった。椅子が倒れ、大きな音が響く。


「ヨゼフィーネ殿。まあ、落ち着こうじゃないか」


 クラウスがゆったりとした声で諫め、渋々と言った様子で椅子を立て直して座った。


「精が出ますな。えっと、ああ、エラブル殿だったね。いやはや、五十も後半になるとボケてきて敵いませんな」

「それで世界を識ろうなんて、魔術師の真理探究というのも存外浅いものだね。我々の信仰程の価値も無いとは思わんか?」


 信仰会側の最高齢は鼻を鳴らして同席する若い信徒に振る。


「え、ええ、まったくその通りです」

「そう……ですね」


 無理やり言わされている感が否めない。


 そんな彼等の微妙な反応も気にした風でも無く、高齢の信者はエラブルに向き直った。


「さっさと切り上げて、我等は職務と信仰に励みましょう」

「まあ、待て。ビュッシー・ヘリエントス。キミは場を搔き乱したいのか?」


 エラブルの言葉にたじろいだ。


「いや、ですが……ですよ。神の世界を識ろうとする不届きものに、耳を貸す必要はないと」

「まだ、人の世だ。この隅まで不浄で満たされた世界が神の時代だと? ビュッシー、キミは一体この世界をどう見ている? 神世界に、目の前の黒ずくめ達は存在しない」


 神以外は滅ぶべきという高慢な思想にアレッタは異を唱えた。


「神様は、みんなに平等ではないのですか?」

「平等とは何かね? 人類史始まって今日まで平等は存在したか? 性差、肌の色、貧困、エトセトラ。長い年月は常に不平等で塗り固められている。だがしかし、比較される貧しき悪性因子が取り除かれた時こそ、真の平等は訪れる。キミ達はただ、消失すればいい」

「生の冒涜です! 誰だって平等に生きる権利はあります。あなた方は、信じる理念や思想の為にそれさえも踏みにじる気ですか! まるで神にでもなった気で――ッ!?」


 アレッタは吐き出すべき言葉がつっかえた。


 誰もが一人に視線を向けた。


 エラブルが悪魔のような形相で机に拳を叩き下ろしたからだ。


「神にでもなった気、だと? 我々、敬虔な信徒に向かって神にでもなった気か、と言ったか」

「貴方たちがしようとしていることは、人間の範疇を逸脱しています」

「神の意志を遂行しようとしているだけだ。魔術師狩り? お前は、目障りにも視界を飛び回る蚊を叩き潰さないのか?」

「――ふざけな」

「アレッタ。抑えて」


 それは柊の声。


 激高する彼女を唯一、一声で沈められる人物だ。


 悔しそうに押し黙ったアレッタを一瞥してから、エラブルに視線を向ける。


「不平等が蔓延るのは仕方がない。だって、人という不完全な生物が時代を作っているんだからね。何もかもが不完全で満ち溢れているんだよ、世界というのはね。人が作り出せるものに完全な物はない。不完全な人が完全な一形態を作れるはずがないんだ。だから、僕ら魔術師は、その不完全が生んだ世界に対する、疑問や不満といった果て無き答えを探究して解明しようとするんだ」

「何が言いたい。えぇと、柊春成だったかな」

「エラブル殿に問うけど、人は完全かな?」

「何を馬鹿な。人は不完全であり、ありとあらゆる欲に染まる現状が証拠だ」

「そう。人は不完全なんだよ。僕と気が合いそうだね」

「だから、何が言いたい!」


 柊らしからぬ喋り方に魔術師側は怪訝な視線を彼に向けている。そんな視線も意に介していないかのように喋り続ける彼が抱いている感情。


 それは怒り。


 人間の活動動力としての好奇心に次ぐ感情だ。


「神とはね、エラブル殿。人が作りあげた概念だよ」

こんばんは、上月です



次回の投稿は2月2日の21時を予定しております!

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