脅威に抗う為の脅威1-2
信仰会や飢えた狼、魔法使いと言った存在との衝突による被害は甚大だった。
主に信仰会は最近活動的で、戦闘に不向きな魔術師であろうと容赦なく、執行という処刑をして回っていると聞く。
純粋に世界に抱いた疑問や謎を探究しているだけなのに、どうしてそんな目に会わなければならないのか。アレッタの胸中には怒りが芽生えていた。無念に、無残に散らされた向上心と探求心を追い求める者達。
一度、彼等と顔を合わせて問い詰めたい思いだった。
「つまり、我々も魔術式という神秘に力を入れ、信仰会や狼共に立ち向かうべきだと言っているのです」
代表の一人に追随して怒りをぶちまける者達。
彼等の感情任せの打開策を三人の統括者は是としない。
ただし否とも切り捨てない。
黙して彼等の言葉の底にある真意を見定めている。
「私はコイツ等の意見に賛成だ。このまま早急に手を打たねば、同胞が悪戯に、悪意によって殺されるぞ。アレッタ、お前はどうなんだ。さっきから黙っていないで発言したらどうだ」
「私は……」
真理探究とは、崇高な成長の過程を経てたどり着けると信じている。
このまま多くの魔術師たちが魔術式ばかりに専念し、魔術が疎かになった場合、その先に訪れるのは多くの命を散らせる戦争。銃器の代わりに神秘を以って殺し合う未来が訪れてしまう。しかし、このまま何もしなければ魔術師達は殺され続ける。
「確かに最低限の抵抗力は必要でしょう。ただし、殺すことに特化し、突き詰め続ければ、私達は魔術師としての尊厳と誇りを失います」
「で、お前が芽吹かせた答えは何だ」
「信仰会との会談を開き、その場で不用意な殺傷行為を控えて頂くと約束させます」
「クク、甘ちゃんめ。神様大好き異常集団の濁った眼には、私達はただの悪魔程度にしか映っていないだろう。それこそ無駄な時間浪費に加え大きなリスクを負うことになる」
聖羅は短く溜息を吐いた。
「このタイミングで会談を持ちかけるという事は、困ってます、止めてください、と泣きを晒しているんだよ。何故、実力行使で抗わないのか。つまり、魔術師共は執行会に対抗できる力が残っていないと見られ、余計に魔術師狩りが悪化する可能性がある」
「違います。私達はあくまで同じ人として、余計な血を流す必要はないと訴えかける為の会談で」
「そんなのは言い訳だと取られる」
「…………」
「ただし、アレッタの言う情に訴える為のものではなく、警告の為として開くのであれば多少は効果があるかもなァ」
「警告ですか?」
「簡単な事だ。私がこれから執行会の首を二十ほど切り落としてくる。それを会議の場でお披露目し、これ以上のオイタは身を滅ぼすと脅してやればいいんだ。私が抑止力となってやる。私もそろそろ堪忍袋の緒が切れそうでね。このまま黙っていてやるつもりはないんだよ」
自分が脅威として抑止力となる。
それはつまり、執行会側からすれば第一級危険人物人認定され、命を狙われる日々を過ごさなければならなくなる。聖羅が友人を守りたいという意思は昔から変わっていない。いや、昔より熱烈に過激に、アランと悪魔に敗北し、魔法使い相手に逃走したあの日から、聖羅の魔術はより研磨された。
柊曰く、殺し合いをさせたらクラウスでないと止められない。
そんな友人の成長を頼もしく思う反面で、やはりどこか不安にさせられた。
このまま聖羅は力を求め、憑かれ、どこか遠くに行ってしまうような気がしてならない。
「稲神さん。そんな事でもしたら、全面戦争になりかねない。あくまで僕等は世界の裏側で、表社会に悟られずに世界を探究するんだよ」
「向こうはお構いなしだろうが」
「聖羅。落ち着きなさい。貴女の同胞に対する想いはしっかりと伝わっています。私達が動きます。そうでしょう、柊、クラウス伯」
「儂も老体なんだがなぁ。若者の為に骨を折るとしよう」
「動くのは構わないけど、稲神さんの言ったようにただの会談では効果の見込みは薄いと思うけど」
「そう。ただの会談では、ね。聖羅の言ったように脅します。私のやり方で」
ヨゼフィーネの鋭い視線に揺らめく何かを見た。
それは確固とした怒り。
それは容赦のない意思。
「柊先生……」
アレッタは会談中に襲撃を受けないか不安だった。向こうは戦闘のプロ集団。こちらも護衛を付けたところで、正面衝突となった場合は不利に立たされる。
「大丈夫。策を二つ三つだけでなく四つ五つも隠しておくのが魔術師の戦い方だよ」
柊の言葉に聖羅は喉を鳴らした。
「今の私であれば、一つで十分だがな」
各々の代表達も会談を開く際は逃げ道の確保をしておくと告げた。
残る問題は飢えた狼だが、奴らは神出鬼没で行動原理が判明していない。聖羅は当然知っていた。だが、しかしそれを鵜呑みにしてはいないので喋りはしなかった。
あれは自然災厄であるので対策の使用が無い。
いつでも、どこでも、死を振り撒く、死に飢えた狼たち。
共通認識されている存在についての話は進展しなかった。
連盟会議は二時間ほどでお開きとなった。
一人、また一人と頭を垂れて退出していく。
聖羅は頬肘をつきながらつまらなそうに、魔術師達を見送っていき、ある人物、エイヴィー・モーリスの背中だけは感じ入るものがあるような目付きで視線を向けていた。
「あれは中々に才能があるぞ」
こんばんは、上月です
次回の投稿は30日の21時を予定しております!




