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聖羅の用事1-11

 これは規格外だ。


 人が抗える次元の話ではない。噂に聞く魔法使いという存在の恐ろしさに身震いが止まらない。こんな出鱈目が許されるはずがない。これが神秘だというのなら、自分が学び、研磨を続ける魔術とはなんなのか。


 地に伏せるアレッタは口内を満たす土の味を吐き出した。


 服も顔も泥だらけで、キルツェハイドはぐったりと切り株にもたれかかっている。先程からピクリとも動かない彼の安否が気になる。



「これが魔法です。アニメやゲームのように炎や雷を自在に扱うと思ったのかな?」


 目先には魔法使いの靴がある。視線だけを動かして見上げると、柊と似て異なる柔和で線の細い顔をした男が自分を見下ろしている。まるで虫けらを見るような眼だ。


「それくらい、知っています。ただ」

「ただ、実力が違い過ぎた? ええ、そうだろうね。魔法使いと魔術師じゃあ、そもそもの桁が違うんだよ。そんな程度で世界を識ろうなんて、思い上がりもいいところだよ」


 こんな相手を柊は倒したのか。


 多くの魔術師どうほうを失って得た勝利。


 たかが見習いが奮闘したところで端から結果は見えていたのだ。


 こんな実力では誰も守れない。


 稲神聖羅が力に固執し、焦燥する気持ちを、アレッタは今、強く感じていた。


 このままでは聖羅もキルツェハイドも殺されてしまう。


 それだけは避けたかった。何としてでも、自分の命を散らしてでも、二人だけは助けたいという意地が働くも、宇宙法則にしたがった神秘の一撃を受けて身体を動かせないでいた。


「滑稽だよ、魔術師。本当に無様だ。同胞がキミ達のような人間に倒されたなんて信じがたいよ、本当に」


 打開策は無い。圧倒的な実力差に見出す希望さえも芽吹かない。一つでも何かしらのヒントがあれば、そこから幾重もの可能性を展開させるところだが、個の魔法使いには一切の弱みも無ければ、欠点の一つもない。


 亜麻色の髪を弄る青年は小さく溜息をついた。さもつまらなそうに、下らない無駄な時間を過ごした時の陰鬱なソレに似た時の感じだ。


 柊ならばきっと打開策を導き出せるはずだ。


 世界最大の魔術組織シェルシェール・ラ・メゾンの統括者を務める彼ならば、上手く対応して生き延びるに違いない。今の自分には到底成せない活路を歩むに違いない。


 思考が常人とかけ離れている聖羅でさえこの様だ。


 凡人の域を努力で少し逸れただけの自分に策が思いつくはずもない。


 だが、そんな事は関係ない。


 頭で導き出せないなら、最後は身体で導き出すしかない。


「殺させません! 誰も、私も含めて!」


 草花に愛される少女の号に従う周囲の植物達。


 この地形はアレッタにとって最適の本領を発揮するには十分な場所だった。周囲一帯は自然豊かな山の中。


 この最大の恩恵を受けてなお、魔法使いにかすり傷一つさえ付けられない。植物達の殴打や刺突は暗黒正四角形体に阻まれ、中に隠れる青年はやれやれと欠伸をかみ殺す。


「満足したかい? 小さく、弱い魔術師さん」


 暗黒正四角形体から羽のように巨大な黒い刃物が生まれ、まるでコマのように回転し始める。


 アレッタの魔術で強度を増した植物達は無残にも切り刻まれていく。


 命を刈り取る黒の刃はアレッタの目前まで迫って伸び、ああ、これはもう駄目だと諦めかけた。結局自分は何も成せないまま終わるのだ。悔し涙で視界がぼやけ、刃物との距離感を失った。


 刃が首を飛ばすまで数センチ。


「阿呆だな。クク……お前は強情な堅物だろうに。こんな簡単に全てを諦めてしまうのか?」


 耳元で鉄同士がぶつかるような音が連続して弾き合い、火花が閉じた瞼にチカチカと閃光する。


 目を開ける。


 右肩に手を添えてアレッタに身を預け、左手で持つナイフの切っ先を暗黒正四角形体に向けられていた。魔術の刃と魔法の刃が反発し合い拮抗していた。


「……聖羅?」

「コイツは私達が束になっても、敵う相手じゃあない。勝つ算段ではなく、生きる算段なら思いついた。しかしこの策を成功させるにはお前の魔術が不可欠だ。やれるか?」


 疲労と魔力消耗でいつもの活力のない赤茶色の瞳が、まっすぐとアレッタの瞳と視線を合わせる。


 友人にやれるか、と問われればこう答える。


「やります!」

「クク、良い返事だ。私も身体に力が入るってもんだよ。私が合図する。そうしたらありったけの植物を私達とアイツの間に壁として展開させ続けろ。この山全ての植物を使う覚悟で壁を維持し続けろ。いいな?」


 聖羅の魔力はもう枯渇しているはずだ。


 それでも拮抗する為の執刀魔術を生み出し続ける。これは稲神聖羅の大事な人を守りたいという強い固執によって成せる無茶。


「ええい! 切り刻むのは私の専売特許だ! 魔法風情が思い上がるなよッ!」


 聖羅はナイフを強く一閃させた。


 すると奇跡は起きる。


 宇宙理論から作り出された黒の刃が砕け散った。


 だが、すぐに次なる刃が生えようとしたところで視界は塞がれる。


 アレッタが周囲の植物を幾重にも絡ませて壁を作ったからだ。


 植物の壁を切り刻む音が聞こえるが出来る限り太い大木を密集させ蔦などで固定し補強する。その間に聖羅はふらつきながらもキルツェハイドの腕を自分の首に回し、アレッタにも手伝うよう促した。


 少女二人係で大人を担ぎ、草花の魔術で壁を作りつつその場を逃げ出した。


 しばらく歩いたが追撃は無い。


 不気味なほど静かな山も数時間を歩き続けて麓の町まで戻ってこれた。


 植物達の道案内が無ければ脱出するのにどれほど時間を費やしただろうか。そもそも、脱出することも叶わずに遭難に合っていたに違いない。


 小さな町の診療所で二日間休息してから、キルツェハイドの運転する車でシェルシェール・ラ・メゾンまで帰宅した。


 当然だが、柊とヨゼフィーネから説教と罰則をたんまりと頂いた。


 真面目に怒っている風を魅せる柊だが、根が甘く優しい男なので頑張って怒ってます感が否めない。聖羅は悪びれる風でも無く、言葉巧みに二人を言い負かして説教だけを打ち切らせた。その分の罰則が重くなったのは彼女のせいだ。


 聖羅はあの日の事を詳しくは語ろうとはしなかった。

こんばんは上月です。



今回で聖羅の用事は終わります。


次回からは蕾編となり、敵対組織との衝突を経て、自身の在り方の成長を促していく物語となっております。

仕事の繁忙期も落ち着きを見せて、最近は帰りが早くなってきたので、そろそろ月、木、日の週3ペースの更新が出来そうです。


次回の投稿は26日の21時を予定しております


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