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聖羅の用事1-9

 天才と言えど道には迷う。


 深い山の中を途方もなく歩いたところで体力だけが失われていく。ましてや戦闘行為で疲弊し、空腹状態の聖羅の足はもう歩くことを拒絶してしまった。


 頭や肩が岩のように重く感じる。溜息を吐くだけで視界が二重三重とブレてさらに方向感覚が失われる。


「ああ、もう! どうして私がこんな目に会っている‼」


 募る苛立ちを発散させようと叫ぶが、自分の声だけが木霊して木々の闇に消えていく。こんなことなら、飢えた狼の二人にでも案内させていれば良かった、と今更になって後悔するが既に時遅し。既に元居た木造家屋への道も忘れてしまった。


 似通った景色だけが延々と続く。このまま何処かも分からない場所で野垂れ死んで、狼や熊の餌となる自分の未来図が鮮明に描き出された。


「いやいやいやいや。ふざけるなよ。私がこんな場所で死ぬはずが無いだろうが! ええい、面倒だ!」


 昏睡している間に回復した魔力を少し使い、魔術を展開する。


 ナイフを投げやりに一閃させ、数キロ先までの木を切断した。視界が開ければまだ気分もマシになるだろう。意外とこのまま木を切り倒していけば、出口へたどり着くのではないか、という根拠も無い期待が浮上する。


 実際、まっすぐ歩いているようでいて同じ場所をグルグルと歩いていただけなのかもしれない。こうして切り倒して進めば、自分がまっすぐ歩いているのか、道を逸れているのかくらいの判断材料にはなる。


 だが、回復した魔力が何処まで持つかは分からない。


 飢えた狼も目を覚まし、あの程度の拘束を抜け出すのに時間はかからないはずだ。追いつかれれば殺され、脱出できなければ野垂れ死ぬ。


 言う事を聞かない張った足に喝を入れて前へ前へと進んで行く。


 何度目かの魔術で視界を開かせた時だった。


「誰だ? お前」


 案山子かと見間違うように静かに立ち尽くし、空を眺めている人影があった。


「――魔法使いか‼」


 その人物は魔法使い特有の亜麻色の髪をしていた。


 こんな深い山の中で他人に合うはずもない。ましてその人物は登山には不向きな軽装だった。


「そういう貴女は、なるほど……魔術師だね。止めておいた方がいいよ。疲弊しきっている貴女では、僕には勝てません」

「舐めてくれるなよ、優男」


 聖羅は無理やり不敵な笑みを浮かべ、敵意と殺意を魔法使いに叩きつけた。


 こんなことをして何の意味があるのか。勢い任せは身を滅ぼすと知っているはずなのに、どうしてか自分より強い相手だと認知してしまうと、どうしようもなく歯向かいたくなる。


 魔法使いは聖羅に一切の敵意を向けず、静かに向き直る。


「クク、お得意の魔法があれば、私の魔術なんて封殺できると?」

「封殺? いえ、そんな生温くはありません。貴女諸共に抹消できます」

「優男が綺麗な笑み浮かべて言ってくれるじゃあないか」

「事実ですので。ですから、無意味な抵抗は考えるべきじゃないと思いますよ」


 気に食わない。


 ここまで来るのにだいぶ魔力を消費した。残りかすを絞っても残り三回か四回くらいが限度。


「宇宙法則だか、なんだか知らんが、世界の一部である以上は執刀させてむらうぞ!」


 ナイフを勢いよく振るった。


 数千数万の不可視なる斬撃が魔法使いの青年へと迫る。


超次元的隔離空間アナスティロシー


 青年は呟く。


 青年周囲に黒の正四角形空間が生まれた。青年はその四角形体の中。数万もの斬撃は正四角形体を執刀しようとしたが、その全てが弾かれ、近くの木々を切り倒した。


「聞いたことがありますよ。切り刻むことに長けた、期待の魔術師がいるって。なるほど、貴女の事でしたか。距離、空間を無視したナイフの刃も、魔法の箱には届かないようだ」

「はぁ? 私が披露しているからだ。万全の状態であれば、そんなもの……」

「そんなもの。なんです?」


 黒い正四角形体から無数の巨大な腕が生えた。


 拳を強く握りしめた腕が蛇のように宙を滑って聖羅を殴りつけ、上空へと打ち上げた。


「がはッ!」


 潰された臓器に折れた肋骨は刺さらなかったが、既に意識を失った聖羅の敗北は確定した。

こんばんは、上月です。



明けましておめでとうございます。

令和二年の初投稿となります。これからも宜しくお願いいたします。


次回の投稿は1月12日の21時を予定しております!


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