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聖羅の用事1-5

 阿吽の存在とは、片方をどうにかしてしまえば済む。


 ピタリと呼吸のタイミングまで同じ二人だからこそ、息の合った動きを互いに調整し、最適な狩りを意思疎通して行う。身体的能力も相まって二人同時に対処するには困難極まりない。だが、聖羅はこの戦いで彼等の息遣いまで見破り、阿吽の片方に損傷を与えた場合どうなるのか。実験的な好奇心をも満たすために、あえて間合い詰めを許した。


「魔術師、ずる賢い」

「魔術師、弱いはずなのに」


 負傷したのは少女の方。


 これには聖羅の考えがあっての事。いくら二人が阿吽のそんざいでも、基礎的な筋力や運動能力には微々たる程度の差は存在する。聖羅の洞察眼は少年が少女に合わせているように映った。だからこそ少女を狙った。


 少年が傷を負っても、少女が少し無理をすれば補えるが、少女が手傷を折った場合は、少年がさらに実力を制御して少女に合わせるに違いない。阿吽とは、まったく同じであるからこそだ。


 聖羅は恨みがましい視線を向ける二人の狼を嘲笑ってみせた。


「クク、結局は人間様に膝を折る犬っころじゃあないか。飢えた狼というのも、名ばかりだって事かぁ?」

「違う。私達は調律者。世界の均衡、守る」

「お前、他の魔術師と違う」

「ああ、そうだろうな。私は天才だからな。それでだ。私はお前達を殺すことも出来るが、どうしたものか。死にたいか? お前達」


 聖羅は問いかけた。


 飢えた狼たちは威嚇するように歯を剥いて睨み付けるだけ。聖羅という強者の危険度を認識し直した結果だ。下手に動けば殺される。二人は不穏な彼女の殺意に抵抗は止めろと強制させられていた。


「魔術師、どうしてこの山、来た。私達は静かに過ごしてる。たまに、役目を果たす」

「別に来たくて来たわけじゃあないよ。私も役目を果たしに来ただけだ。まあ、お前たちのように積極的じゃないけどなぁ」

「私達、殺す?」

「さあな。お前たちの返答しだいだ」


 二人は顔を見合わせて頷いた。


「死ねない」

「まだ役目ある」

「なら、死んだことにしてやる。そうだなぁ、依頼主に証明が必要だ。その髪を少し切らせろ。私も流石に子供を殺すのは躊躇いがある」


 飢えた狼たちは、どうぞ、と言うように座って後ろを向いた。


 聖羅がナイフで二人の髪を切ろうとした時だった。


「依頼はしっかりと果たしてもらわないと困るぞ。稲神聖羅」

「――誰だ!」


 聖羅は振り返る。


 伐採して転倒する大木の上に一人の男が立っていた。白いローブのような服装。手には金色の錫杖を持った堀の深い男。


「その服装と錫杖。なるほど、執行会のお出ましというわけか。こんな山深い場所にお祈りってわけでもないだろう? 私の名を知っていて、かつ依頼の事を知っている。つまり、この依頼書はお前が出したんだな?」


 執行会が自分宛に依頼を出したのかは見当がつく。稲神の名は裏社会で、魔術界隈だけでなく信仰会にも知れ渡っている。それも絶大な脅威として。そして聖羅はその脅威の家系の中でずば抜けた才能を有している。


 そんな聖羅を野放しにして成長させるわけにはいかない。であれば、脅威には脅威をぶつける。戦闘に特化した飢えた狼とぶつけることで、双方共倒れ、もしくは片方でも倒れてくれれば後から出向いて残った方を狩ればいい。合理的であるが、神の徒には相応しくはない。そんな相応しくはない手段を用いてでも信仰を優先するのが、信仰会暗部である執行会の役目。


「名乗ったらどうだ? お前らの神様ってのは、自己紹介も教義にないか?」

「執行会最高管理職序列第一位、エラブル・アルツカイヒマン」

「大層な名乗りだなぁ」

「俺は名乗った。お前も名乗ったらどうだ、魔術師」

「知ってるくせに。まあ、いい。シェルシェール・ラ・メゾン所属Aランク、稲神聖羅」

「大層だな」


 エラブルは錫杖の先端に付いた鐘を聖羅と飢えた狼の二人に向ける。


 執行会は主に炎を手繰る。その火力は魔術式とは比較できない程のもの。


「負傷したところを狙ったつもりだろうが、疲労以外はほぼ軽傷だぞ」

「十分すぎる軽傷だ。神世の治世繁栄の為、狼諸共にその存在を炭と化すがいい――舞え! 地母なる神の業火を」


 鐘が鈍く鳴る。


 鐘部分から炎が放出され、螺旋を描いては蛇のように地を這い、聖羅たちを取り囲んだ。


「酸素が急速に薄くなっていくな」


 徐々にではなく一気に。


 このままでは一分もしないで酸欠に陥る。そうなってしまえば成す術はない。聖羅はナイフをエラブルに向け、執刀魔術を展開した。


「調査済みだ」


 不可視なる数千の刃は、エラブルの身に届くことはなかった。


「遮った!?」


 空間も距離も無視した刃を遮るなどほぼ不可能。


「神の加護は全ての災厄から守護してくださる」

「論理的じゃないぞ!」

「魔術は論理的じゃなくはないのか?」

「論理的だ」

「…………」


 きっぱりと言い切る聖羅に黙り込むエラブル。


 残り十数秒ほどで決着がつく。焼け焦げた焼死体が三つならぶが、ここは辺境の山奥。人の眼も届かない場所だ。せいぜいが行方不明で処理されるだろう。


 勝ちを確信したと同時に少々落胆した。


 名門魔術四家筆頭の稲神。それも歴代最強と言わしめる魔術師もこの程度。魔術組織を捻り潰すのも容易いのではと思えてしまう。


「神は世界に干渉しない」

「してはいけない」


 炎が裂かれた。


 二人の狼が大鎌を以って俊敏な動きでエラブルに襲い掛かった。

こんばんは上月です



投降が遅れてしまってもうしわけありません。

次回の投稿は15日の21時を予定しております

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