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聖羅と探求する失踪事件の謎1-14

 意識を取り戻したアレッタは我が目を疑った。


 視線だけを動かして周囲を把握した。


 邪魔な足場として伸びた草木は切り刻まれ、地面にはアランが苦悶に悶えながら痙攣している。部屋中から聞こえる靴音はアニエのものだと理解し、詠唱を小さく咳き込みなが早口に呟く。


 意識を失う前と後ではアニエの様子がだいぶ変わっていたことに驚きつつも、魔術による奇襲を仕掛けるタイミングを見計らう。大丈夫と言い聞かせても心臓の高鳴りは収まる事を知らず、呼吸が次第に乱れてくる。それでも務めて冷静でいられるように自己暗示を課す。


「おもしろいの決めた。お前のお腹の中、全て取り出して、落とした首を入れてかくれんぼだ! もーいーかい。まーだだよー。もーいーよ。みーつけた! って遊ぼうよ! ねぇ、だから、死ねよ! 死んでよ! 私を気持ちよくさせるくらいの真っ赤な血を見せてよぉぉぉおおお!」


 仕掛けるタイミングは今。


「そんなの、面白くありません!」


 今やこの戦場はアニエと聖羅のものだと意識に刷り込まれていたのだろう。


 アレッタの発言に聖羅は驚きに肩を小さく持ち上げ、仕掛けるタイミングを外されたアニエは勢い余って壁に激突した。


「捕まえました!」


 再び植物が窓からシュルシュルと伸びて、頭部の衝突で覚束ない足取りのアニエを絡めとる。両足を閉じて巻き付いた蔦はアニエを遠心力を乗せて壁に叩きつける。これはアレッタが指示をしたものではない。彼等も生物。意思を持っている以上、感情があり、相応の仕返しをしてやりたいと勝手に荒れ狂う。


 鋭利に硬化させた枝先がアニエの脳や心臓と言った急所を穿つ。


 穿ったアニエの名部から生命力を吸収し始める植物は、拍動をしながら太ましく育っていく。


「聖羅、大丈夫ですか?」

「ああ、なんとか。にしても、これはなかなかにショッキングな光景だ。植物が人……悪魔を喰らっていやがる。ピチピチの女子高生も老婆のようじゃあないか」


 蓄えた生命力は枯渇し、アニエの肌はカサカサとなり、皮膚がひび割れて肉が落ち始める。


 こんな幕引きは望んでいなかった。


 アニエ・コリンズを安らかに眠らせたかった。だが、この植物達が纏う色は激烈なまでの赤。底尽きない怒りの情。自分が何かを願ったところで止まりはしない。


 その間にもアニエの身体はどんどんと崩れていき、生命の活動を停止した。


 魂が抜けた死体は窓から流れる風によってとうとう形を完全に崩した。サラサラとした粒が逃げるように飛ばされていった。


「後は、コイツだけだな」

「待ってください。アランさんには生きて責任を取ってもらいます」

「は? お前は正気か? コイツは危険人物だ。更生の余地なんて余地なんかないだろうが」

「アニエさんの望みです」

「アニエだと?」


 ナイフの切っ先をアランに向けた聖羅の動きが止まる。


「アランさんにこの事件を引き起こさせた人がいます。その人は魔術師、のようです」

「なんだって!? おい、その情報は何処からだ」

「意識を失ってるとき、アニエさんの魂に会いました。黒い闇。底なしの奈落。生への虚無。アニエさんは、その魔術師の印象らしいです。事件は解決しました。さっそくシェルシェール・ラ・メゾンに帰って……聖羅?」

「それ、信じろって? クク、お前の夢が都合よく作り出した、としか思えんぞ。組織の誰がお前の話を信じる? ああ、あのお前にべったりな柊なら信じるかもしれんな」

「本当です! 聖羅、信じてください」

「確証がない。寝言は寝て言え。コイツには面倒を掛けさせられた。野放しにしていてもあの異常性癖の持ち主だ。更生なんて無理な話。ならば、ここで殺した方が世のため人の為だろう?」

「聖羅……」


 言い返す言葉がもうない。


 あったとしてもそれは力無き無意味な発音だ。確かに自分の言っている事を信じろと言う方がどうかしている。でも、だからといってここでアニエを殺すのも間違っている気がする。


 自分には聖羅は止められない。


 彼女の方が実力は上だから。


 うな垂れるアレッタに聖羅は溜息をついた。


「お前は、馬鹿が付くほど真面目だ。そして、甘すぎる。お前もあいつもいつかは、その甘さが命取りになる。ちゃんと自覚はあるんだろうな?」

「……はい。そう思います」

「時には、自分だけではなく誰かを巻き込む事にもなる。お前は、その甘さで自分以外の誰かが死んで責任が持てるか?」

「…………」


 返答が出来ない。


「私は仲間を危険に晒す要素は非情になってでも徹底的に排除する。こういう奴がその要素だ」


 ナイフの先にはうずくまるアランの姿。


「お前には出来ないだろうな。脅威を残すのであれば、またそれが襲い掛かって来てでも簡単に払えるくらい強くなれ」

「私は聖羅みたいに強くはありません。植物達だって本当は誰かを傷付けたくはないんです」


 床に散らばる蔦や根を悲し気に見下ろした。


 彼等はこの先も大きく成長するはずだった。それを自分が断ってしまった。


「泣くなよ。弱いなら実戦経験を積め。魔術式なら植物を傷付けずに戦えるだろ。まあ、何事も経験だ。今回は私が身の危険に晒されてやる。こいつを運搬中に何かあったらお前が対処しろ。いいな?」

「聖羅も甘いですね」


 確かにそうかもしれない、と聖羅も思った。


 本来であれば殺して終わり。不安材料を持ち帰らずに、明日からの探求の事だけを考えながら帰ろうと思っていた。それが、アレッタの堪える涙に心動かされてしまったのだから、自分もとんだ甘ちゃんだ、と内心で苦笑した。


「何をボサッとしてる。早くあの口煩い運転手を呼べ。コイツを車に運ばせるぞ」

「はい! 直ぐに連絡をします」


 稲神聖羅との初めての共同任務は無事に終わった。


 聖羅の魔術で、アランの傷口を切り取るという常識外れの大業に唖然としたり、車内でのトゥーリエの延々と続くテンションの高い話に、三名はぐったりとさせられていた。怪我人であるアランに気遣いの言葉を掛けるも、視線だけを此方に向けるだけで反応を示さない。


「後の報告はお前に任せる。私は疲れた。帰ったら直ぐに寝るから、起こしてくれるな」

「お疲れ様でした。あとは私が全て済ませておきますので、ゆっくり休んでください。それと、本当にありがとうございました」

「お前は隣の奴にだけ意識を向けてろ」


 今回の収穫は多くあった。


 その中での一番の収穫は、聖羅と距離を縮められたことだ。

こんばんは、上月です



今回で失踪事件の話が終わりです。

次回の投稿は28日までには投稿します

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