聖羅と探求する失踪事件の謎1-4
放課後とはいえ校舎内は未だ多くの学生が残っていた。
友人同士の会話で盛り上がる彼女達の脇を縫うように廊下を歩いていく聖羅は、一度小さな溜息をついた。
「失踪事件が起きているわりには、何事も無いような様相だな」
こいつらには、もしかすると次の標的は自分かもしれないという危機感がないのかもしれない。それくらいに彼女たちの表情には恐怖や動揺という感情が読み取れなかった。
アレッタであればそういった人間の機微な感情を無表情の中からでも読み取れたかもしれないが、生憎と自分にはそういった臆病さは無い。
だが、この言い知れない薄気味悪さは何なのか。
彼女達を見ていると背中がむず痒くなってくる。
「チッ、さっさと終わらせて帰りたいものだよ。まったく、どうし……あ?」
聖羅は一人の学生としっかり目が合った。
地味な丸眼鏡を掛けた茶髪を三つ編みにした女学生。
「おい、なに人をジロジロ見ている?」
「す、すすす、すみません。ただ、私……」
「しっかり喋れ。感情の波が乱れるからどもるんだ。大きく深呼吸でもしてみろ」
歳下の少女に上から目線で指摘され、素直に深呼吸を繰り返す女学生。
「あ、えっと。貴女はこの学院を受験されるのですか?」
「受験だぁ? クク、おいおいこんなお嬢様学校が私のような粗野な女を受け入れると思うか?」
「でも、奇麗……日本人ですよね?」
「よく見分けがついたな。間違われていたら切り刻んでやっていたよ」
「うふふ、面白い方」
「冗談だと思うか?」
「ええ、貴女からは殺気を感じませんでしたから」
「じゃあ、誰から殺気を感じる?」
いきなりの聖羅の質問に瞳をぱちくりとさせる女学生。
質問の意味が分からないという様子に、聖羅は喉を大きく鳴らして笑った。
「ああ、いい。忘れてくれ。ただ、この学校には面白い現象が起きているらしいじゃあないか」
「失踪事件……ですね」
女学生は周囲をさっと見渡して聖羅の手を取る。
「こっち来て」
「――どぅわ!?」
いきなり引っ張られて転びそうになるが、運動神経がそこそこ良い聖羅は態勢を持ち直し、階段を駆け上がらされる。
最上階の奥にひっそりと在る美術室。
聖羅はそこへ連れ込まれ、女学生は誰もいない事を確認して扉を閉めた。
「おいおい、これはアレか? レズな展開でもおっぴろげようとしてないか? クク、私にそんな趣味は無いぞ。非生産性で無意味な情事だ」
「ち、違いますっ! そんなんじゃありません。例の失踪事件についてです。それとレズって言わないでください、百合です! 非生産性の一言で片づけられるような無粋な愛ではありませんので」
「あ……ああ、分かった。分かったから、凄んだ顔を近づけてくれるな。息が当たってくすぐったいんだよ」
聖羅は女学生から飛び退く。
「そういえば、まだ名前を名乗っていませんでした。すみません。私は、タリア・ヒュートン。二年生よ」
「稲神聖羅だ。それで、どうして事件の話をするのに人目を避ける?」
「それは……」
言えぬ事情があるのか、タリアは視線を落として指先をモジモジしはじめた。
「分かった。そこは聞かないでやる。学生の前で事件の件は禁句、なんだな」
「ありがとうございます。えっと、一つ確認させてください。調査、されにきたのですよね?」
「どうしてそう思う?」
「学院長がその、いかがわしくて怪しい組織に手紙を出すところを見たって子がいたので」
「いかがわしい……だと?」
あきらかに不機嫌になる聖羅にタリアは深く頭を下げた。
「ご、ごご、ごめんなさい! ただちょっと魔術組織と聞くと、怪しいというか……その」
「そんな事はどうでもいい。さっさと話せ。時間が勿体ない」
二人の学生と警備課、警察の失踪についての詳細とまではいかないが、情報を得る事ができた。
「ああ、有力な情報も得られたことだし、そろそろ失礼させてもらうよ」
「あっ、私も寮に帰るので、途中まで一緒しませんか?」
タリアは聖羅の後に続き――。
「なぁ――」
聖羅は振り向きざまにナイフを引き抜き、刃をタリアの白い首筋にうっすらと浮かぶ血管に這わせた。
「どうして魔術組織だって分かったんだ?」
「と、友達から聞いただけです! あ、危ないから退けてください!」
「いいや、退かせられないなァ。お前は最初に、いかがわしくて怪しい組織に手紙を出すところを見たって聞いたんだよな? じゃあ、どうしてそこから魔術と結びつく?」
「それは、友達が魔術組織って言ってたのを、自分でいかがわしいと言葉を変えてしまっただけです!」
ダウトだと直感した。
この女学生は最初に記憶のままに延べ、その後にうっかりと自分の意見を述べてしまった。言葉を言い換えるのであれば順序が逆になる。
彼女は冷静だった。
言葉を言い換える順序を間違えるはずもない。であれば、タリアという少女は何かを知っている。
「じゃあ、その友達って誰だ?」
ここでその点について追及するのは得策ではないと判断し、このまま泳がせておこう、と彼女の話の流れに沿う。
「それは……。アニエ・コリンズという子です。失踪した子の一人が彼女の親友なんです。あっ、もしかしたら彼女が犯人かも。だって、失踪した子は転校するってアニエともめていたし、もしかしたらそれを嫌がった彼女が……」
「間違いはないな?」
「ええ、今の時間は体育館にいるはずです。わ、私はこれで失礼します!」
聖羅を突き飛ばすようにして逃げ去ったタリア。
「一応、そのアニエとかいう奴にも話を聞いておくか」
ナイフを手中で回転させながら、上着で隠した腰の鞘へと仕舞った。
こんばんは、上月です
次回の投稿は21日の22時を予定しております!




