聖羅と探求する失踪事件の謎1-2
「わぁ……凄い、大きいですね」
大きな街の中央に立つ今風な白い外観の校舎。
広々とした校庭には部活動で精を出す女生徒たち。案内係に付いて歩いていると、多くの視線をアレッタは感じた。それは何処へ行っても感じるものだからもう慣れてはいた。銀髪に紫色の瞳はとても珍しい。それに付け加えてアレッタの容姿は、人形師が緻密な計算の上で形作ったような美しさだ。目立つのは致し方ない。
さらに言うと隣を面倒くさそうに歩く稲神聖羅も、特徴的な赤茶色の髪と瞳をした、東洋の神秘と称される美人顔だ。
そんな目立つ色合いと顔立ちを持つ二人が並んで歩けば、それはもう目立たない方がどうかしている。
周囲からはヒソヒソと噂話が立つ。
「クク、まるで王族にでもなった気分だよ。こいつ等、私達の容姿を羨ましがっているぞ。化粧をしても私達には遠く及ばない奴等だ」
「だ、黙って歩いてください!」
煽る聖羅の発言を止め、アレッタは俯き気味になって目の前の案内役と聖羅との距離感を測る。
「ここですよ。校長先生のお客人だとお聞きしていたので、てっきり学院関係の役員かと思っておりましたが、まさかこんな綺麗な子供達だとは驚きました」
そう言って案内役の女性が校舎二階にある着飾らない木製扉を叩いた。
室内からはゆったりとした声で「どうぞ」とだけ応答があり、案内役の女性が扉を開けては、アレッタと聖羅を中へと通した。
扉が背後でゆっくりと閉まる。女性の足音が遠くなったのを耳にしてから校長が口を開けた。
「無事に到着されて良かったわ。私はオルグイユ女学校の校長を務めさせていただいております、クレール・アランと言います。学生さんからは親しみを込められてアランママンと呼ばれております」
おっとりとした三十代くらいの細身の女性。
カールした豊かな茶髪が掛かる目元には小さな泪ほくろがある。そして、なによりアレッタと聖羅の視線を釘付けにしてしまったもの。二つの豊かな胸が衣服を左右に引っ張っていた。少し力んだだけでボタンが飛び散るのではないかという程の質量。
圧倒的乳。
「緊張されていますのね。大丈夫ですよ。ここに滞在する者は皆が家族なのですから、貴方達もお母さんに甘えるように接していいのですよ?」
「あ、いえ……その」
「おい、その乳はいつからデカくなったんだ?」
ド直球で失礼な質問にもアランは気を悪くしたそぶりを見せず、人差し指を顎に這わせた。
「そうねぇ。大きくなり始めたのはちょうど貴方たちと同じ年齢の頃だった気がするわ」
「…………」
「…………」
知らぬが仏という諺を柊から習ったことがあった。
まさにそれは今のようなときに使う言葉なのだろう。聖羅に余計な事をどうして聞いたのかと問い詰めたかったが、隣に立つ聖羅も珍しく敗者のように表情を失っていた。むしろ意識が在るのかどうか疑わしい。
そして、アランは悪意無く。
「私は小さい方が良かったのですけど、勝手にどんどん大きく育ってしまったの。困った者よね」
貧乳を通り越して無乳の二人の自尊心を砕くどころか、磨り潰して粉と化す止めの一言を吐いた。
ああ、世界はまさに貧富の差なのですね。
このまま任務を放り出して帰りたい。これ以上惨めな思いをするくらいなら、部屋でコツコツと世界真理の探究に精を出しながら泣き崩れたかった。
「さあ、立っていては疲れてしまうでしょう? ソファーに掛けてちょうだい。いま、美味しい焼き菓子を食べながらお仕事のお話をしましょう」
「あ、ああ……」
「……そ、そうですね」
二人は重い足取りでソファーに向かって腰を落ち着かせた。
とてもフカフカとしていて一定の所まで沈むと、弾力のある反発が心地よい座り心地を生み出していた。このまま座っていたくなる自堕落な魔性を孕んでいる。
生地にアーモンドとその上からキャラメルを塗って焼いたフロランタンが、焼き立ての甘く香ばしい匂いを漂わせながら、アランと共に簡易キッチンから顔を出した。
「少し前に焼き上がったところなの。うふふ、これ美味しいのよね。さあ、遠慮なくいっぱい食べてちょうだい」
「いただきます」
「うむ……ほぅ」
聖羅はさっそく一つ手に取って咀嚼する。
「悪くないな。菓子は日本が一番だと思っていたが、これもなかなか」
アランはその感想を聞いただけで満足顔で微笑んだ。
「あ、あの。お仕事というのは、依頼書に書かれていた内容で間違いはありませんか?」
まず初めに依頼主との依頼の相違点の確認作業から始める。
「……ええ、間違いはありません。ただ、人の身体だけが消えるなんて事、そんなことが本当に起こり得るの?」
「それは、これから調べてみます。失踪した場所とその時の詳しい状況を教えていただけますか?」
答えに至るにはまずは情報が必要だ。
アランは記憶を探るように視線を少し落とし、ポツポツと語り始めた。
「そうね。初めに失踪した女性とは快活で気持ちの良い挨拶をする子だったの。学業も部活も交友関係も何一つ問題ない子だったわ。だから彼女の衣服だけがプールサイドで見つかって、警察の協力も得て教師も総出で彼女の行方を捜したの。だけど」
「見つからなかったんだろう?」
「ええ。二人目、三人目、四人目と失踪が続き、学内に警察を配してもらった結果が」
「その警察の方も制服だけ残して、ですね」
失踪場所はバラバラだった。
プールサイド。女子寮の食堂。二年生の教室。屋上。何一つ共通した点が見つからない。失踪した女生徒たちもこれといった交友関係があったわけでもなく、無差別に姿を消した。
アランは離していて辛くなったのだろう。
俯いて涙を膝に落して肩を小さく震わせていた。
「ごめんなさいね。どの子も良い子だったから……無事だと、いいのだけれど」
「衣服を剥かれて失踪したんだ。無事でいる可能性がどれほどある」
「稲神さんッ‼」
「余計な希望は持たない方がいい。最悪の結果が受け入れられずに壊れるだけだ」
「稲神さんは、本当に人の気持ちが分からない方ですね!」
「お前は何て言葉を掛けるつもりだったんだ? まさか、大丈夫です、きっと皆さんは見つかりますよ、なんて約束も出来ない一時の安い言葉をかけるつもりだったか?」
アレッタは聖羅に平手を頬に見舞った。
「け、喧嘩は駄目よっ」
「見つかります! 絶対に。私達……私が見つけます」
「ありがとう、アレッタさん。でも、そうね。稲神さんの言う通りかもしれないわね。現実を直視したくないから……」
「そんなことはありません! 大丈夫ですからっ!」
アレッタが必死にアランを慰める姿を見て、聖羅は付き合ってられん、と最後のフロランタンを口に放り込んだ。
「校舎を見回らせてもらう。表に生きる警察が見つけられなかった裏側が見つかるかもしれないからな」
「私は敷地内を見回って来ます。アラン校長もお辛いかもしれませんが、何か他に思い出したことがあれば教えてください。今は少しの手掛かりも欲しいですので」
「ええ、気を付けて。もうすぐ暗くなるから」
アレッタと聖羅は校長室を出てから睨み合った。
「お前も、何か見つけたら私に報せろよ」
「ええ、分かっています。稲神さんは他の方たちにご迷惑をかけないようにしてください」
それだけ交わして二人は別れた。
こんばんは、上月です
今日の投稿で夏季休暇明けまでお休みします。
次話投稿は8月16日の22時を予定しております




