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終花1-1

 どれくらい生きてきたか。


 どれくらい死を見てきたか。


 誰もが自分を置いていって先に死んでしまう。


 不老不死の呪いをこの身に宿して流れた月日を計算するのも億劫で、生き続けていくうちに魔術師じぶんの歩むべき道、無道の道筋さえも見えなくなってきていた。


「このまま狂人になってしまえば、これほど苦しむこともないのでしょうね」


 自分が産まれた時代からだいぶ様変わりしてしまった世界。


 シェルシェール・ラ・メゾン本部は倒壊した。


 信仰会も昔よりだいぶ勢力が衰えている。


 こんな世界を誰が望んだというのか。


 そう思っていた矢先に第三次世界大戦が勃発し、日本は大敗して外国勢力によって占拠されたという情報を耳にした。しかしアレッタにとってもうどうでも良かった。


 生きているのが辛い。


 あの頃は生きたいと願っていたのに。


 アレッタは毎日朽ちた花の楽園の手入れをしていた。


 ほとんどが枯れてしまった花たちが再び元気な活力に満ちた色を見せてくれると信じて。この希望を育ててこそ、また自分は変われるのではないだろうか、という淡い期待もあった。


 昔は良かったなんてお年寄り臭いことを考えてしまう辺り、もう自分は自分で思っている以上に高齢なのかもしれない。だが鏡に映る自分の容姿は二十代半ばで時を止めている。


「この世界は、この時代は、もう世界真理なんて求めていられる時世ではないのね」


 最近独り言も増えてきた。


 ずっと一人、これから先、いつか死ねる望み叶うその時まで。


 だが、背後に誰かの気配を感じた。


「だれ?」

「だれとは随分な挨拶だなァ。頭の中が退化してるのか、アレッタ」

「……聖羅。どうしてここに?」


 かつて最強という歪んだ理想を抱いて邪道に墜ちた友がここにいた。


 しかし彼女の狂行はある希望の少女が打ち砕いたおかげで、かつてアレッタが尊敬し、対等の親友として接した女性がここにいる。


「最期に会ったのは、津ヶつがはら透理とうりの墓参りだったから……、クク、百年ぶりくらいじゃないか」


 ケタケタと笑う親友にアレッタも小さく笑った。


「久しぶりに会話する相手が貴女だと、ペースが掴みづらいわね」

「そう言ってくれるなよ。わざわざこんな辺境まで足を運んでやったんだから、昔のように軽口を挟みながら話そうじゃないか」

「日本茶で良ければ淹れてあげるけど?」

「いまの日本は見る姿もないね。だが、茶の味は昔と変わらないのがいい」


 そう言って聖羅はアレッタに続き、植物で覆われた洋館の中に足を入れた。


「それで、ただ近況報告や女子会をやりにきたわけでもないのでしょ?」

「当然だろ。ちょっと日本に渡ってもらいたくてね。なにぶん私一人ではこれに対処しきれん」


 これは珍しいことを言うと思いつつ、聖羅の話に耳を傾けながら茶の準備を進めていく。


「お前はここの籠もっているから、世界情勢なんてものも入ってこないだろうが、シェルシェール・ラ・メゾンが再興された。とはいっても、だ。立ち上げたのは私の一族の馬鹿と、私の弟子とその弟子が成した津ヶつがはら永理えいりだ。名門家系の二人が御旗となって世界中の魔術師に招集をかけている。再び魔術師が自由に世界真理を探究できる時代を作る為にな」

「私に加われというの?」

「そうだ」

「私は旧時代の残滓よ。新時代の魔術師達には不要な存在。もう守ってあげられない」

「そんなことはないだろうが。お前は統括者だ、少なくとも私のな」

「対処できないというのは、再興の件?」

「違う」


 聖羅は真面目な顔で否定した。


 アレッタはその変貌ぶりに手を止めて、キッチン越しに聖羅を見た。


「シェルシェール・ラ・メゾン創設者にして魔術の創始者、アダム・ノスト・イヴリゲンが暴走を始めている」

「……そう。確かに貴女一人では対処できない問題ね。でも、私が加わったところで、あの存在をどうこうできるものでもないわよ」

「世界そのものだからか? それとも、この世界を創造し、我々生命のおやであるからか? ふん、くだらんな。人間の治世は人間が統べ、切り開いていく。それは私たち魔術師が世界真理探究の道筋と同じだろう? こんなところで腐ってくれるな。お前は大輪の花だ。あの柊が丹精込めて育て、多くの人達と関わり栄養ちしきを身に付けて咲いた志向の花だ!」


 ここまで親友に言葉を使わせたのだ。アレッタとしても彼女の誠意や覚悟に対して真摯に向き合って答えなければならない。


 アレッタは何もせずに塞ぎ込み腐ってきた長い年月を思い返す。


 あの頃の熱い気持ちが灯ったのを感覚した。


「もう一人の、シェルシェール・ラ・メゾンを立ち上げた稲神の名前は何というのですか?」

稲神いながみ沙羅さらだ。探求者の(シェルシェール・ラ・)メゾンの最高責任者にして、歴代稲神の凡人だ。クク、私たち大先輩が魔術師のなんたるかを教え込んでやろうじゃないか」


 アレッタは笑う。


「ふふ。そうね、ええ、かつての魔術師たちがどれほど輝いていたか、どれほど己が道に魂を燃やしていたかを、この先も何世代先の時代まで語り継いでいきましょう」

こんばんは、上月です



もうすぐ終わります。

次回の投稿は17日の21時に変更します

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