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極花1-5

 稲神聖羅はもう別人だ。


 あの頃の共に世界真理を探究した稲神聖羅はもういない。


 アレッタを含めて五名のAAランク魔術師たちで徹底的に殺し、燃やして灰にしたのだから。では、いま目の前にいる稲神聖羅は何者か。


「ほぉら、考える前にまずは魔術を扱えよ。ああ、あれか、私相手じゃあやりにくいかァ? だが、安心しろよ。お前がやりにくかろうが私には一切の関係がないんだからなァ!」


 稲神聖羅から滲み出した紫色の魔力はまさに彼女のものだった。


 誰かが化けているわけでも、夢をみているわけでもない。


 まぎれもなく彼女は、魔術史上最強で真理に最も近い魔術師だ。


 「歪んでいる。全てが歪んでいる。私以外のモノ全てが歪んで見えて仕方がない。全ての繋がりを断つ銀の残影を持ち、私は全てを切り裂き搔き乱そう――超越歪曲(アム・テルリオンダ・)執刀理論(カルフェツェード)


 聖羅と同時に。


「大地に芽吹く成長の粋。いかなる時代であろうと諦める心知らず、いついかなる瞬間に咲く事待ち続ける。健やかなる土壌から覗く芽に希望の陽光と知識の雨を――咲かせよ世界真理の大輪を」


 アレッタも純白の魔力を放出して魔術を展開していた。


 聖羅の不可視の刃。


 アレッタの成長する植物。


 発動は同時。


 しかし、撃に転じるまでのラグが双方で差として生じた。


 その結果がアレッタの脇腹を、衣服を赤く染めていた。


「遅いな。お前もなかなかの殺傷力を持つ魔術理論だが、私の執刀りろんとでは比較して劣る」


 銀の腹に紫色の文字を浮かび上がらせたナイフの切っ先をアレッタに向けて続ける。


「その理由を説明してみろよ。シェルシェール・ラ・メゾン統括者、アレッタ・フォルトバイン!」

「そう……ね。例えるなら聖羅は、腕の良い執刀医で、私は子供達の成長を促す教師かしらね」

「ああ、クク、いいねぇ。いいぞ、面白い。それで?」

「成長させるには時間を掛けなければならないの。だから、すぐに緊急を要する執刀医に速度では劣ってしまう、といったところかしら?」

「まあ、いいだろう。だが、もっと根本的で現実的な理由があるだろォ?」


 聖羅は勝ち誇ったように眼を細めて口をめいいっぱい歪めて釣り上げた。


「そもそもの実力だよ」

「確かにいつも私は貴女の背中を追っていました。ええ、認めましょう。稲神聖羅は私より強く、凜々しく、私が憧れた存在よ」

「に、くらべてお前は誰かを守る、だなどとのたまうから強者になれんのだ。自分が一番だ。他人は踏み台にしかならん。最強という頂には左右に他人はいらないんだよ」

「貴女も似たようなことを言っていたでしょう?」

「昔の弱かった人間の頃の話だ」

「弱かった? ふふ、貴女こそ面白い冗談を言うわね、聖羅」

「なんだと?」

「今の貴女より昔の貴女の方が何倍も強かったわ!」


 聖羅の足下の土が隆起して植物の根が天へと生え出た。その太さは大の大人が三人で手を繋ぎ合ってようやく囲める程のもので、舌打ちをした聖羅に向かってその切っ先が頭上から注ぐ。


「地に還りなさい、聖羅の亡霊ッ!」


 爆音と土が爆ぜて聴覚と視覚が一瞬だけ機能を失った。


 舞う土が口内に入り込んで袖で眼を拭き取り、聖羅がいた場所を睨み付けるように見た。


「クク、ククク、痛いじゃあないかァ? 親友を痛めつけてくれるな。殺るなら一撃で殺る気概で来いよ」


 晴れる視界。


 聖羅の裂けた衣服の袖から一筋の血が白い腕を伝っているのみ。彼女を穿つ為に成長させた根は上空で折り曲がった所で細かく執刀されていた。


「油断はするものじゃあないな。クク、最強を頂戴する私がこの程度で傷を負うなんてあっちゃいかんだろ。なぁ、そうだろう。アレッタ?」


 瞬間、生えた根っこが木っ端微塵に散った。


「あの硬度の植物たちを」

「こんにゃくかプリン程度の無粋極まる土臭い根っこをみじん切りにしたくらいで驚くなよ。底が知れるぞ、統括者」


 完全に馬鹿にした口調。


「単発の攻撃とは舐めてくれたものだよ、本当になァ!」


 聖羅がナイフを振るう。


 不可視の刃が一瞬だけ知覚できた。


 しかし、知覚できた時には全身を数千万もの切り傷を作っていた。だが、そのすべてが薄皮を切る程度のもの。稲神聖羅があえてそのすべてを外した。


「なんの真似ですか! 私を殺せたかもしれないというのに」

「殺せた? お前は死なんだろうが、私と同じ化け物なんだからなァ」


 アレッタは直ぐに成長を自身に促して傷を修復させた。


 まだ数分の戦闘だというのに華の楽園はもうボロボロだった。


 聖羅の放った今の執刀は、アレッタを傷つけるのが目的では無く、周囲おもいでを破壊するためのものだと知った。


「お前も過去なんどつまらんモノに囚われるな。この場所を守りながら戦って私を殺せるつもりか? ずいぶんと馬鹿にしてくれたものだよな。私がその枷を断ち切ってやる。私の執刀で何もかも、そして最期にはお前との縁もなァ、クク」

こんばんは、上月です。


聖羅がこうなってしまった理由は『世界真理と魔術式』を読んでいただければわかります。


次回の投稿は8月1日の21時を予定しています。

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