普遍花1-17
西洋竜の鱗をいくつもの植物を絡めさせた切っ先で
穿つことに成功した。
代わりにアレッタの右腕が荒れ狂った爪によって切り落とされ、吹き出す血が植物たちに付着していく。主人を傷つけられた植物はさらなる成長を見せる。アレッタは痛みを感じていないように笑って、植物を次々と手繰ってアダムを責め立てる。
容赦はしない。過激に。荒々しく。
アレッタの思考はアダムの打倒という単一思考に切り替わっていた。余計なことは考えない。考えるだけ無駄だから。世界を相手に一人の人間が策を弄するだけ徒労だ。だから穿つ。だから打つ。
西洋竜の身体の深い場所まで根は伸び、砂漠で枯渇している生物が水を煽るように、その巨体から栄養を吸収していく様は、悍ましい捕食者だ。
「そう。それでいいの。貴女はもっと美しく咲く。私という壁にぶつかって、首を折るような弱々しい花ではダメ。もっと強く、もっと美しく、大輪を咲かせなさい」
「アダム様の為? でも、私は魔術師達を守る役目を担っています。アダム様も魔術師なら、私はどんな手段を使ってでも守ります」
「守るだけの力がないと、外世界の侵略者には勝てない」
だからこうして全力で貴女に挑んでいる。
「それと、この子を倒しても意味は無い」
西洋竜が陽炎で揺れながら消えた。
同時に空間が歪み、中から岩で身体を覆った巨人が現れた。
「アダム様の魔術はいったい……」
「幻想的な夢」
「幻想的な……夢?」
「そう。私が望んだ、こういう生物がいたら素敵。そういった意思を汲み取って、幻獣を創り出す。それが私の魔実」
この世に存在しない生物を創り出すもの。
いまの西洋竜を相手にするにも苦労した。それが簡単に引っ込んで新しい幻獣が召喚される。これでは此方の消費負けだ。
幻獣を無視して彼女を打倒する方がまだ現実的だと判断し、いくつかの植物たちを自分に付け、残りは見るからに剛力な巨人の対応に回す。
アレッタが走り、植物たちが班分けして二手に分かれる。
アダムはその様子をジッと眺めている。
「考えは良い。でも成功率をもっと考慮して作案するべき」
アレッタの植物がアダムを拘束しようと彼女に巻き付いた。
アダムの魔実は召喚するものであって、彼女自身にはなんらの影響を与えない。こうして拘束してしまえば、と考えた時に彼女自身に異変が起きた。
アダムが陽炎のように揺れた。
一瞬だけ姿を消して拘束は解ける。
直ぐに元いた場所にアダムが、男性が現れた。
「また別の世界の」
「違う。これはこの世界の俺だ」
「はい?」
「見ろ。巨人は消えていない。これは俺の魔実だ」
意味が分からない。
確かにアダムの魔実は現在もまだ展開されている。しかしこの世界のアダムは先ほどの女性であって、この男性ではないはずだ。
「この世界のアダム・ノスト・イヴリゲンという存在に、特定の姿が無い。俺とあの女が二人で一人のアダムだ。そういう事だ」
「よく分かりません。先ほどのアダム様は何処へ?」
「ここです」
男性の背後からすっと女性のアダムが現れた。
この二人に共通しているのは淡々としていることくらいだ。
「さあ」
「始めましょう」
「本気の、お前を成長させる為の」
「魔術講義を」
二人のアダムが笑う。
とても人間味を感じない笑み。
こんばんは、上月です
次回の投降は30日の21時を予定しております!