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普遍花1-15

 意識が戻る。どれくらいの時間が経ったのかと疑問に思うが、思う前に身体が後方に大きく跳んだ。


 いま立っていた場所にアダムの腕が伸びて空を掴んだ。


 アダムは一瞬だけ不可解そうな表情をしたが、理解をしたように頷くと微笑んで、空を掴んだ手でグーパーを繰り返した。


「そうか。成ったんだね」

「成った……? はい。神と一つに」

「この時代のアダムじゃない僕は全力を出すことは出来ない。でも、それでもアダムだからね。キミの身体慣らしには不足じゃないと思うよ」


 アダムは地面に手を付き、一言、短い呼吸のような声で発した。


「これ、僕のマジツ」


 大小さまざまな楕円が何重にも広がり緑色に発光し、目に優しい光は天井まで伸びた。まるで領域。この世とは隔絶するような光の壁の中にアダムは足を踏み入れた。


「遠慮はいらないよ。神と一つになって、人間の限界を超越した、キミの成長を僕で試すんだ」


 実感はない。


 ないからこれから試す。


 己の不快場所で神がしたり顔で笑っているような気配があった。神はこの時代のアダムを引きずり出したいと言っていた。いまの自分であれば出来ると確信しているのだろうか。彼のマジツがどういったものかはわからない。わからないものには迂闊に触れるべきでない。


 慎重すぎるのも問題だ。


 このままでは何も始まらない。


 聖羅なら直ぐにもメスを入れて知識として取り入れてしまうだろう。彼女に憧れ、彼女の背を追い求め、追いつきたいと願った。生まれながらにしての天才と称される稲神聖羅。アレッタは踏みとどまることを止めて、一歩前に進むことにした。


「……これは」


 自分の中に流れる魔力量に驚いた。


 魔力は血管と同じように管の中を流れるイメージだ。アレッタが驚いたのはそのパイプの太さ。今までのものより格段に太い。その結果、流せる量が増し魔力詰まりの心配も無い。それどころか、魔術を扱いながら魔術式だって扱えるほどに膨大な魔力運搬が自分の中で行われていることを感覚した。


 植物たちはより大きく、より固く、より賢く、より美しく成長を遂げていく。


 蔓の殴打。


 アレッタは表情を強ばらせた。


 何が起きたのか。


 突風を受け、轟音が響き、地面が大きく揺れ、土煙が舞っている。


 視界には何も映らなかった。


 土煙が晴れると地は割れ、その深度もそうとうなものだった。


 蔓がアレッタを守護するように優しく周囲にとぐろを巻き、先端をアレッタに向けた。


「あなたがやったの?」


 首肯した。


 魔術によって成長させた植物とも意思疎通ができるようになっている。


 アレッタの眼には蔓の周りにオレンジ色のオーラを見た。


 喜んでいる。


 アレッタも喜びに頬が緩む。


 目に見えて実力が格段に跳ね上がっている。この力さえあれば魔術師たちと他勢力から守れる。そして追いつきたい彼女を追い越せる。


 魔術勢力最大戦力とされるクラウスにさえも勝てるのでは、と考えたところで首を強く振るった。魔術師は力で上下関係を決めるものではなく、個々人が己の疑問や謎とする世界真理を有する価値観を以て到達する学者だ。我が身に有り余る力に酔い潰れるところであったと反省しつつ、いまだに健在のアダムを注視する。


「破壊力は抜群だね。キミが考えた通り、稲神聖羅やクラウスをも圧倒するかもしれない。でも、僕はアダムだ。アダム・ノスト・イヴリゲン。僕等を超えてこそ真に超越と言えるし、言ってしまえば僕等を超えたら、世界を超えたことになる。キミの疑問に抱く真理も見えてくるかも知れない」

「ですがその壁は、まだまだ私のような若輩には高すぎるようです。ですが登りがいのあるその壁、私は登りきって見せます」

「良い子だね。無道のフォルトバイン。歩くことで成長し、共に歩く者にも成長を促す自他共栄の理論はとても素晴らしく美しい。人間が人間らしくってやつだね」

「断崖でも私たちは手に手を取って登ります」

「僕の胸に染みる言葉だ。どうやら、僕のお役目はご免らしい。この世界のアダムがキミに興味を抱いたらしい。もうちょっとキミの成長の道程となっていたかったけど、この世界の主役が退けというのなら従うしかない。いいものを見せて貰ったよ、アレッタ・フォルトバイン統括者」


 アダムは微笑むとまた幾重にも影が重なり、解けて消えて新たな姿が形成された。

こんばんは、上月です



次回の投稿は16日の21時を予定しています

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