普遍花1-14
これを夢だと認識したのは、それが断続的で曖昧な
ものだったからだ。
アレッタの正面には赤い人外の生物、異形が向かい合っている。
ツルリとした顔にはネコ科特有の眼が二つ、アレッタの紫色の瞳を見て細めると、輪郭のギリギリまで裂けた口を震わせながら人の言葉を発した。
「よお、アレッタ。こうしてちゃんとした形で会うのは初めてだったな。そうだよな? ああ、そうだったと思う」
人間くさい確認事項を含めた陽気な語り。
「貴方を神だと言っていたけれど、本当に神様なの?」
「ああ、この世界に含有されない、異界では神として扱われるが、別段、俺の世界では神なんて人間のように溢れかえっている。むしろ、人間のほうが珍しい」
「私はどうなるの?」
「生かされる」
「いつまで?」
「永遠だ。老化せず病気にも冒されない健常者だ。誰もが願う理想だが実際は違う。怪我をすれば痛いし、精神が摩耗して死を選択できない。世界の傀儡としてお前は在り続けなければならない。それは俺と適合した呪いであり祝いだ」
生き続けるのは構わない。
「私は成長しなくなるのね」
「肉体的には、だ」
それは内面的、魔術師としての成長は生き続けるかぎり継続していくと捉えた。
「人と死ねた方が幸せだぞ。長生きなんてするべきじゃない。だがもう産まれちまった時点で人生の分岐から剥奪しちまっている」
「長生きできれば、多くの同胞が成長していく様子を見続けられます。それに守り続けられる」
「守護者を演じ続けるわけか。生き地獄を耐え忍びながら魔術師の存続と繁栄を願うか。あいつと同じだな」
「あいつ?」
アレッタは難しい顔をして、神に問う。
「アダム・ノスト・イヴリゲンだ」
そういえば山羊頭の悪魔使いもそんなことを言っていた。
「あいつが人間に造り出されなければ、世界はこうも広がらなかった。生物は繁栄しなかった。あいつも悲しい人生を背負わされて、宇宙誕生の以前から苦痛と苦悩を煮え立たせて飲み干しながら生きてきた」
「アダム様について教えてください」
「俺の口からは詳細を話せない。ここがあいつの範疇であれば検閲に引っかかる」
どういった理屈かを問うつもりはなく、ここがアダムが造り出した世界の一つだということは既に山羊頭から聞いていた。
「アダムは人類の味方なの?」
「正確にはこの世界の人類であって、外部の侵略行為を繰り広げている神と眷属の人間は含まれてはいないな」
アダムの話になるといつもスケールが理解の追いつかないくらいに広がる。それほどまでにアダムという存在を語るには多くの概念やファンタジックな知識を含めなければならないのだ。
「お前は今、不完全な存在だ」
急に話が置き換わり、一瞬だけ呆気にとられたが頷いて彼の話を聞く姿勢を見せた。
「俺と完全に融合していない。つまりは溶けてないから、お前の力になってやれないということだ。このままだと、お前は植物人間になって何も出来ない不老不死者になる。お前の扱う植物の魔術を以ても自分を操作なんてできない。ああ、これは言葉遊びだ」
巫山戯ているのか真面目なのか判断の付かない彼の態度に苛立ちを覚えたが、このままではつまり良くはないということだ。ならば完全に溶けてしまうにはどうすればいい。アレッタが聞くべきはその一点。
「まあ、焦るな」
「焦りますよ」
異形の姿をした神は声のトーンを落として確認した。
「俺と融合するのか?」
「はい。迷いはありません」
アレッタは力強く頷いた。
こんばんは、上月です
次回の投稿は9日の21時に変更します。