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普遍花1-13

ありとあらゆるものが捲れ、反転する、世界の裏側を暴く彼女、アダム・ノスト・イヴリゲンの数多のうちの顔の一つ。


 世界真理とは何か。世界を知って識る過程を経て、己の世界に抱く違和感や不思議を解明し、己に世界という形を会わせるか、世界に己に形を合わせて自身と世界を合致させる。


 アダムの魔術の根幹にある理論は、いたってシンプルなものかもしれない。


 とはいってもそれはこの少女の魔術理論であって、他のアダムの理論とは異なる。


 世界の景色が捲れ、剥がれ、裏返る。


「懸命に抗って踊る貴女の姿は素敵よ。皮膚が捲れ、内臓が捲れ返る。とても痛いのよ」


 無邪気に笑む彼女はただ立って世界を捲っていく。


 アレッタは植物を動員させて彼女を拘束、打撃を加えようとするが、世界の連続的繋がりによる一枚の用紙せかいを不連続な異空間を返してあらゆる攻撃は彼女に届かない。


「アレッタ統括者。貴女の中の怪物、私に紹介してくださらない? 会ってみたいの。会ったことないわ、貴女のような実験的過程で産まれた怪物を」

「私は怪物ではありません、人間です!」

「事実は否定しても事実でしかないのに。まあ、いいでしょう。私は見たいと言ったのですから、見せていただきます」


 アレッタの内部に潜む異形の正体。


「捕らえたわ、アレッタ。安心して」


 アレッタの胸元が捲れ始める。


 内蔵の断面の奥に続く赤黒い渦巻く空間。


 痛みは無いが、いざ自分の身体の内部が露わにされると恐怖は相当のものだ。その空間は拍動して渦巻く早さが段々と緩慢になっていき、一つの眼がぎょろぎょろと外界を覗き見る。


「貴女の飼っているソレは本当に異形?」


 アダムが好奇心を強めて、細めて笑む眼はアレッタの中のソレをまじまじと観察している。自分でも初めて現実世界で見たその存在に気味の悪さを隠しきれない。


 あわあわとは表情に出さずとも、冷や汗や心拍はコントロール出来ずに早く、多量に危機感を抱いていた。


「アレッタ・フォルトバイン。俺の肉体の一部を移植されたもう一人の俺」


 前とは雰囲気の異なる声。


「私では貴方の正体を探れないわ。とても残念。だって、あなた異形でも悪魔でも無いんだもの。私の知識が持ち合わせない存在ね。バトンタッチをした方が賢明な選択かな」


 薄緑色の少女の影が周囲の空間を伴って、もはや誰が誰だか分からないくらいに人の形を重ねながら、別の人間へと姿を変えた。


「これはまた特異な生物と同調し融合してしまっている」


 丸眼鏡を掛けた東洋人だ。


 アジアの平均的な身長や体型をした、悪く言えば地味で、よく言えば無害そうな青年が指を顎に当てながらふむふむと頷いて、その空間から覗く目玉とまじまじと視線を同じ高さで合わせている。


「アレッタ君。キミの中に巣くうこれは、神様だ。異形でも悪魔でもなんでもない、れっきとした人が崇め、奉り、長い年月を生きていた神。でも、こいつはこの時代のこの世界の神ではないね。さてはて、どこから迷い込んだのか。それとも誰が連れてきたのか」


 丸眼鏡の奥にある眼を神から外してアレッタを見上げた。


「摘出したいなら、するけど。正直、こいつの血肉から成っているキミの身体の保証は出来ない。どうする? 宿主が死ねばコイツも死ぬから、このままにしておけば、コイツは無理矢理にでもキミを生かそうとするはずだ。それはきっと辛く、地獄より辛い生になるはずだ」


 アレッタは考えようとしたが、これは期待してもいいのではという考えに至り思考を止めた。


「このままで構いません。私を生かそうするのなら好都合です。生きていれば、数多くの同胞を守れますから」

「ご自愛もない言葉だね」


 アダムは呆れたように笑った。


「まあ、いいさ」

「勝手に話を進めるなよ。俺は別のお前に用がある。この時代のアダムを出せ」

「ご指名ありがとうと言ってあげたいけど、この時代のアダムは出てくるつもりがないみたいだ」

「なら引きずり出す!」


 アレッタの胸の中の空間から腕が伸び、アダムを捕らえようとするが、アダムは飄々と風に運ばれる花弁のように捕まることなく回避行動を続けていく。


「アレッタお前の力を借りるぞ!」

「え、ちょっと!」


 魔力が勝手に全身を流れだし、詠唱による魔術展開もなく植物たちが猛り狂う。


 刺突や殴打の単純な物理的な連撃でさえ難なく躱し、植物配合による新種の毒物散布に包まれるも、くしゃみをする程度で効果も無い。


「あのアダム様はいったい……」


 アダムは回避行動をしつつ、アレッタに一足で距離を詰めて笑った。


「まったくあの娘も余計なことをして、全部自分に丸投げなんて酷いな」


 アレッタの胸から伸びる巨大な腕に手刀を振り下ろすと、神の腕は難なく地面に落ちた。


 しかし。


「あああぁぁぁぁぁぁ!?」


 アレッタの全身をこれまでにない、いいや、かつて影の異形に身体を食われかけていたときに近い痛みが奔る。


 白目を剥き、痙攣するアレッタに意識はない。


 かろうじて立っているのは、アレッタの身体を乗っ取っている神の意識によるもの。


 アレッタの失った意識の中の自我は夢を見始めていた。

こんばんは、上月です



次回の投稿は25日の21時を予定しております!

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