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普遍花1-7

 何も起きない。何も居ない。


 その不気味な静寂はどうしてか世界全体を浸しているようにも感じられた。とても嫌な空気が重く肺に取り込まれていく。


 エイヴィーが導き出した次なる、何かしらの儀式が行われる場所はここで間違いはなさそうだった。


 ハミエルもエイヴィーも周囲警戒をしつつ園内を探索するなか、アレッタは園外へと、なんとなく視線を巡らせた。


「人通りも、車も走っていない?」


 大都市でそんなことがありえるはずもなく、ビル等の明かりも周囲一帯が消えていた。


「ビンゴだったようだね。儀式の日にちがだね」

「どんな力を使って、こんなことができるの?」


 悪魔使いは未知数だ。


 人払いか、もしくは眠らせたか、はたまた空間を切り取ったのか。可能性を考えればいくらでも思い浮かぶ。しかし、いま重要なのは。儀式の祭場の中心部に自分たちがいると言うこと。きっと悪魔使いは自分たちの存在に気が付いている。気が付いているから姿を現さないのか。だとしたら奇襲の機会を伺っていると予想しておくべきだ。


「ハミエルさん、エイヴィーさん。バラバラにならない方がいいです」

「その選択は賛成だよ。迎撃の準備だけは怠る選択はナッシングだ、ハミエル」


 三人は一箇所に集合して互いに背中を合わせて周囲警戒に挑む。


 何も起きない。何も居ない。


 緊張のなか時間だけが過ぎていく。


「上空への可能性を考慮しないとは、頭が回る魔術師にしてはお粗末な飾りだ」


 それは頭上から。


 空気の振動をピリピリと肌で感じた三人は、ほぼ反射的、動物の危機感察知能力西多賀って三方面へと跳んだ。


 背後で轟音と暴風。視界は土煙で遮られ、バランスを崩したアレッタは吹き付ける風に揉まれながら地面をゴロゴロと転がった。


「エイヴィーさん! ハミエルさん!」


 口を開けば口内に土が入り込むもお構いなしに、大きな声で二人の名を呼んだ。


「問題ないよ」

「僕もです!」


 かろうじて二人の声が聞こえ、アレッタは流していた魔力に干渉して詠唱を終える。


 足下の地面が隆起して、アレッタの魔術しょうしゅうに応じた、強大化し硬化した植物たちが生えてきた。


 植物たちが荒々しく踊り土煙が霧散した。


 少し離れたところに二人の姿を認識。次に自分たちがいた場所の真上へと紫色の瞳を向けた。


「あなたが、悪魔使い!」


 山羊のかぶり物を頭に付けた人物がわずかに頷いた。


「お前か。同士たちを屠った魔術師。滅するべき悪の手先は」


 芝居がかった口調。


 悪役を演じているかのような雰囲気で両手を広げた山羊頭は、天を仰ぎ見て吠えた。


「世界は歪むぞ。世界構成に亀裂が生まれている。将来、システムは暴走し、幾万の創世と終世を繰り返しつつ、嘆きの円環を延々を求め続ける」


 何を言っているのか。


 一種の宗教に嵌まって頭がおかしくなった狂人のような妄言。彼の言葉を遮ったのはエイヴィーだった。


「自分の知識を相手が知っていて当然と前提とし、話すのは止めたまえ。誰もついて行けていない状況を認識し、わかるように話したらどうかな。それが最善の選択だ」


 見上げるエイヴィーを見下ろす山羊頭は頷いた。


「我々の住むこの世界は、ある人物が見続けている夢なのだ。この世界も、何処かの世界も、文明、文化が根本から異なる世界をいくつも、数えきれぬだけを生み出した諸悪の根源、アダム・ノスト・イヴリゲン。魔術師であれば、いいやこちら側の世界に精通する物であれば誰もが知る名だ。しかし、誰もが知らぬ人物でもある。違わないか、アレッタ・フォルトバインさん」


 前半の夢云々についてはよく分からないが、後半のアダムという存在の記憶維持については正直に頷けた。


「あれはシステムだ。ありとあらゆる世界が始まる以前の、始まりの本当の世界。それを常世の時代という。そこは神々とそれを信仰する人間という上下関係完結している箱庭だ。アダムはその在り方に適応できなかった人間が造り出し、人間の尊厳と繁栄を願って造り出した人類の守護者であり、アダムが人間のために作り上げた箱庭ユメの管理ならびに外敵からの防衛システムだ」


 アダム・ノスト・イヴリゲン。


 存在を認識し記憶し続けることのできない魔術師。


 アダムと面と向き合った時だけ彼女の姿を思い出せる。


 しかし以前、魔法使いの一件で別時代だったか別世界のアダムだったかと協力した時の彼女は、居間でもその姿をよく覚えている。しかし一定の姿に定まるまでの彼女は、男であり女でもあり、子供でもあり老人でもあり、赤子でもあって胎児でもあった。いくつもの影が重なって安定していないようにも見えた。


 個人が無い。


 本当の自分の姿が思い出せないと言っていたと思う。


 もし彼の話が本当だったと仮定した場合、いくつも世界を創世している際に、自分という個人を世界に適合できる容姿を造りあげていたとしたら、あの時の重なり合う影の説明にもいちおうは頷ける。


 アダムの記憶を維持できない理由が、存在そのものが膨大すぎて人間の脳では保存容量が不足しているからか。


 荒唐無稽な話だ。


 だが、アダム・ノスト・イヴリゲンという存在自体が常識の枠組みに収まらないのは多くの魔術師がその身をもって体験している。


 悪魔使いとはいったい。

こんばんは、上月です



次回の投稿は14日21時を予定しております

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