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普遍花1-5

 場所はロンドンからグラスゴーへ。


 移動はエイヴィーが使い魔として使役する大鳥の背に乗って空高く。世間でUFOの目撃証言のほとんどが魔術師が使役する悪魔によるものだとエイヴィーは語った。


「人目に付くなんて間抜け、私は侵さないから安心したまえ」


 雲を抜けながら人目につかないような飛行を一時間半ほど。目的の街外れに降りて徒歩で移動した。


「アレッタ君はグラスゴーも初めてかい?」

「はい。イギリス自体が」

「ふむ。ならハミエル、時間まで彼女にこの街の魅力を堪能してもらうとしようか。きみの名所選びの選択が女の子の評価に関わってくるから」

「ぼ、僕が選ぶんですか!? グラスゴーなら、よく旅行に来るエイヴィーの方が……」

「男なら女をリードするべきだと私は思うがね。アレッタ君もそう思わないかい?」

「え、えぇと……あはは」


 曖昧に笑って誤魔化しつつ、仕事の時間までグラスゴーをハミエルに案内してもらうこととなった。


 街の中にも緑が多く、中心部まではバスに乗車して移動する。


 ロンドンのように人通りが多く、まさかこんな場所で何かを企む悪魔使いの存在に危機感を抱きつつ車窓からの景色を眺めていると、エイヴィーがアレッタの頬に人差し指を押し込んだ。


「な、何をしているんですか?」

「今は余計なことは考えるべきじゃないと思ってね。ほら、後ろを見てご覧。ハミエルは必死に観光ガイドをペラペラと捲っていて可愛いね。これは母性がくすぐられてしまう」


 ちょっとだらしないからこそ、一生懸命な姿は女性として放っておけない印象を受けるのかも知れない。本当に何処かの誰かに似ていてほっこりさせられた。


食事を済ませ、美術館を巡り、大聖堂を背にエイヴィーの持っていたカメラで写真を撮った。まるで自分が普通の女の子になったかのような錯覚。他の魔術師もこういった日常を楽しんでいるのだろうか。普通の人のように。普通の人。


 アレッタは頭を軽く振って彼との約束を思い出す。


 自分は人間だ。


「次は何処へ案内してくれるのかな、ハミエルのモテポイントは平均だよ」

「だ、だって! 仕方がないじゃないか。僕だって一回しかグラスゴーに来たことがないんだから」

「エイヴィーさん、ハミエルさんが女性恐怖症になってしまいますよ」


 冗談めかして言うと、エイヴィーは一瞬だけ眼を大きくしてから、誰かさんに似ている笑みを浮かべた。


「アレッタ君がそう言うんじゃ、しかたないなぁ。キミの選択は実に意外だったよ。いい選択だね。うん、良い選択だ。そして、言い笑顔だよ、アレッタ君」


 唐突に褒められたアレッタは言葉を失いあたふたとしてしまう。


「統括者という役職に就いてはいても、可愛らしいお嬢さんだね。ハミエル、どうだ?」

「え、どうって?」

「ここでその選択を逃すのかな?」


 本気で何のことを言っているのか、そんな様子のハミエルにエイヴィーは肩を竦めてもういいと会話を打ち切った。


 ここまで仕事の話は一切無い。


 アレッタは何度も聞こうとしたが、その度にエイヴィーが話題を提供してタイミングを逃していた。


 結局なにも聞けないまま日が暮れてしまった。


 エイヴィーがあらかじめ予約していたホテルに到着する。


 宿泊場はいくつもあるがその中でも一等のものだった。


「ハミエルは一人部屋で、私とアレッタ君が相部屋だ。異論は無いね? 特にハミエル」

「な、ないよ!」

「そうか。なら、四時間後にロビーに集合だ。それまでは身体を休めておくことだね。それが懸命な選択だから。さあ、アレッタ君。私たちの部屋に行こうじゃあないか」


 エレベーターを降りて部屋前でハミエルと別れる。


 室内はとても広く、眺める夜景は一級だった。


「楽しんだかい?」

「え?」

「仕事を忘れて、その休息を全力で満喫する。私の掲げる理念とでもいうべきものかな。私の組織に所属する魔術師達にはこれを徹底しているんだがね、どうだろうか」

「ええ、とても楽しめました。久しく時間を楽しんでいなかったので、こういった、それも私を友人のように接してくれたお二人には感謝しています。私なりに仕事で返させていただきます」

「固いね、固いよ。まるでフランスパンのようで、歯が立たないくらい、キミの真面目っぷりは固いねぇ」


 意味の分からない例えをされて、聖羅と同系統の疲労を覚える。


「さてさて、冗談は置いておこうか。楽しんだ後はお仕事モードへと移行さ」


 アレッタもようやく気を引き締めて、ベッドに腰掛ける彼女の対面にあるソファーに座った。

こんばんは、上月です



次回の投稿は28日の21時を予定しております

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