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普遍花1-2

 アレッタは不満を隠そうともせずにロンドンの街を早足で進んでいた。


 銀色の髪と紫色の瞳は何処に行っても注目の視線を浴びる。


 まだ幼い頃には彼らの視線を浴びるのが嫌で、常に俯きながら彼の背後を歩いていた。その彼とも距離を空けて、自分の許容範囲に誰も入れないように。しかし、その距離感を縮められて、もっと縮めたいと願っていたのに、もう彼はいない。


 彼のように、誰かの前を歩いて行ける自分になっているだろうか。


 ふと、アレッタは歩を止めてショーウィンドウに映る自分の姿を確認した。


「あの時より、だいぶ時間が経ちましたね」


 自分の殻に閉じこもり、ジッと外にある全ての外敵を観察していた気弱な姿は、そこに映し出されなかった。友人と呼べる存在ができ、今では多くの魔術師を率いて束ねる、組織の統括者にまで成長した強い意思を抱く一人の魔術師が映っている。


 ここまで成長するのに多くの時間、多くの犠牲、多くの経験を積んで、ようやく今の自分に到達できた。しかし、まだまだ自分は成長しきったわけではなく、成長に終わりはない。


 一つ一つを積み重ねる。


 これも大事な勤めだ。


 召使いの女性へのプレゼントをしたいというクラウス伯からの依頼。


 この先、色んな依頼が舞い込んでくる。


 どのような依頼内容であっても、依頼主にとってはとても大切で、救いの手を求めているのだから、それを振り払ったり、文句を垂れていいはずがない。


 アレッタは店の扉を押し開けた。


 事前に電話で在庫の確認と取り置きを頼んである。


 店内のいる一人の店員を捕まえた。


「ちゃんと取り置きしておきましたよ。ささ、レジの方へ」


 店員がレジ下から商品を取り出してアレッタに確認させた。


 可愛らしいフリルの付いた下着だが、間違ってもアレッタが身に付けるものではないし、自分に似合うとは思えないソレを見て頷いた。


 買い物はスムーズに済ませられた。


 クラウスには一泊して休暇を楽しんでくるように言われた。


 ならばせめて、イギリスに構えるシェルシェール・ラ・メゾンに加盟する魔術組織を訪ねてみようと思った。


 アレッタは魔力の流れを感知して、狭い路地に入っていく。


 質の良い魔力が、焼きたてのパンの香りのように漂ってきて、それはだんだんと濃くなっていく。


「失礼します」


 アンティーク調の店構え。


 店名はリーフ・ロジックと書かれていた。


 扉を押し開くと店内には電車や戦闘機のミニチュアが飾ってあったり吊されていたりしている。男の子が好みそうな内装だった。


「いらっしゃい、貴女は魔術師ですね」


 カウンターから一人の青年が顔を出した。


 黒縁の丸眼鏡を掛けた、ちょっとだらしない服装だが、どこか懐かしい雰囲気に浸ってしまうような容姿。


「私はシェルシェール・ラ・メゾン統括者のアレッタ・フォルトバインと申します。とても雰囲気のいい魔術組織ですね」

「アレッタ様がわざわざ。イギリスにはお仕事ですか?」


 流石に下着を買いに来ただけとはいえない。そもそも依頼内容は守秘義務だ。


「はい。依頼も済ませて時間が余っていたので、一日くらい観光をしていこうと、そしたらとても綺麗な魔力を感知して来てみたら、ここへたどり着きました」

「それはそれは、あっ、ちょっとお待ち頂いて、えっと、そこにある椅子に座っていてください。直ぐにお茶をお出しします」


 慌てた様子で店の奥へと消えた彼に苦笑して、言われたとおり椅子に腰掛ける。小さな四角窓から路地の道が眺められる。あまり人通りのない静かな場所だった。


 しばらくしていると店のドアが開いた。


「久しぶりに来たよ、ハミエル」


 そこには何処かでみた女性。


 茶色の長い髪を揺らす同色のコートを着た女性がアレッタに気付いた。

こんばんは、上月です



次回の投稿は2月1日の21時に変更します

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