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悲しみを越えるべく1-6

 とても大きな姿動揺に膨大な力の波動。


 どんな者とも比較しようがない圧倒的な存在感。


 魔法使い、執行会、世界の歪み、悪魔使いのこれまでのどれよりとも比較ができない程だ。いや、一人だけ例外がいた。


 その存在を認識して記憶に留められない魔術の祖、アダム・ノスト・イヴリゲン。


 なぜかこの時だけは、アダムという存在が記憶へと蘇った。


「――馬鹿ッ!」


 聖羅の罵声が傍で聞こえたと同時に身体が引っ張られた。


 アレッタが立っていた場所が粉砕された。


 振り下ろされた拳。


 地響きが鳴る。


 衝撃が空気を揺らし三半規管に影響を与えた。


 誰もがまともに立っていられずに膝をつく。吐き気と気怠さが四人を襲う。どうやら脳にもダメージが及んだらしい。魔術を展開するには術者の集中力が必要不可欠だが、いまの最悪の状態では魔力を流すのが限界だ。


「これがもし、仕事なら、AAランク規模ですよ」

「ああ、まったくだ。だが、私は順応したぞ。ほら」


 聖羅はどうだ、と見せつけるようにフラフラとだが立ち上がった。


「確かにまだ頭がクラクラするが、魔術が仕えないほどではないな」


 聖羅は詠唱を済ませ、いち早く、オキニウスが動くより先に空間距離感の一切を無視した不可視の執刀を繰り広げた。


 初めにオキニウスの腱を切った。次いで両腕の三角筋、上腕二頭筋を骨から削ぎ取り、同時に頸動脈、心臓の上行動脈、脳神経をズタズタに引き裂いてみせた。


 瞬く間に皮膚の下が赤く染まっていき、前のめりに倒れたオキニウスだが、四人が危険視するに見合う再生能力を見せつけた。


「これくらいは、想定内だよ」


 聖羅はオキニウスの足下の空間を切り開くと、大きな穴が広がり、その穴の中は空間と光が捩れた異空間となっている。足場を失ったオキニウスは下半身をその穴に落とすが、両腕で穴の縁を掴んで抵抗を見せる。もちろん聖羅はオキニウスが腕を伸ばした瞬間から筋肉や腱を執刀していく。


 再生と執行が拮抗しているように見えた者は誰一人居ない。


 もとより傷を負っていないように見えているからだ。


「どういう事?」


 アレッタは疑問の解決に知識を寄せ集める。


 先ほどは確かに損傷を見せた。だが、いまはどうだ。聖羅の執刀で傷一つつかなくなっている。どういった理屈が働いているのかを見極めなければならない。アレッタはまだ魔術を展開できるほどには回復していない。攻撃の手段である聖羅も押し切れていない。聖羅にはこのまま攻撃を続けてもらい、その間になんとしてでも打開の策を考える。


 アレッタの背後では幹久と香織が突っ伏していた。


 どうやら意識を失っているようだ。


 観察はオキニウス単体だけでなく、この空間全体へと行き渡らせる。空間にこのカラクリの種が植え付けてあるかも知れない。しかし、この広い空間は薄暗く、細部に至るまでよく確認はできそうにない。魔術が仕えるように鳴れば、この部屋全体に植物を張り巡らせられるのに、と奥歯を噛みしめた。


 その間にも状況は傾いた。


 聖羅が吹き飛ばされて地面を転がっていく。転がりながらも執刀の手を緩めず、なんとしてでも注意をアレッタたちに向かせないように努めてくれている。アレッタが最も信頼する親友の努力に応えるべく、ここは無理をしなければならない、と魔力を全身に流して詠唱を済ませた。


 植物がソロソロとうねりながら幾つもある通路から広間に集まってきて、壁を伝い、天井を覆い、支柱の一本一本に螺旋状に巻き付いていく。


 探索。


「……見つけた」


 アレッタは確信の笑みを浮かべた。


 広間頭上、ちょうど玉座の上に描かれた魔術陣。


 その模様に見覚えはない、対処の検討も付かないが、共通する対処、一部でも消せれば効力が無効かされるか削ぐことが可能となる。


 すぐさま植物たち総動員で魔術陣の消失に取りかからせる。


「我の領域を汚すなァ! アダムのガキ共ォォォォォォ!」


 大きな拳を頭上に突き上げると、硬化され巨大化した蔦が粉々に粉砕された。

こんばんは、上月です



次回の投稿は1月3日です。


『柊の楽園に芽吹く銀の花』の完結も間近です。

最後まで是非ともお付き合いください!

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