悲しみを越えるべく1-5
階段を降りると広い空間に出た。
円形の広場には幾つもの通路が伸びており、音の反響からとてつもない広範囲に地下迷宮が伸びていることが知れた。
「ね、ねえ。先に入っていった、魔術師達はどっちにいったんだろう」
「えぇ……何処だろう。幹君、なんとか知れない?」
「無理だよぉ。僕の魔術は探索じゃないもん。この場合、キルツェハイドさんがいてくれたら、広範囲に通信魔術を張れたんだろうけど、ここにいる僕等の魔術では捜索は……、いや、待って。アレッタさんなら」
植物を成長させ、数多く伸びる通路から探させれば、安全に彼らの行方を追える。
「なるほど。確かに、私の植物たちなら……」
アレッタはさっそく植物を、親衛隊風の正装から雑草の束を取り出した。
魔力の放出から詠唱の読み上げまでを数秒足らずで済ませた。この短時間での魔術展開速度と魔術構成力はAAランクだった、ヨゼフィーネや柊でも到達できなかった領域だ。もちろんクラウスも。それほどまでにアレッタは成長した。その成長速度は植物のようであり、いつまでも咲き続ける花のよう。
雑草はみるみる太く固く長くなっていく。
意思を持った動きは蛇のように。
全ての通路へと伸びていった。
このまま植物たちが行方不明者を見つけてくれるまで待っていれば良いが、万が一の場合もあるという意見のアレッタと聖羅。万が一の場合が自分たちの場合にも起こったらという意見の幹久。香織はうんうんと両者の意見を頷いているだけ。たぶん何も考えてはいない。
「ええい、幹久! お前は名門の正道だろうが。こんな場所で竦んでどうする。そんなんじゃあ、探求半ばで死ぬぞ」
「だ、だから! 僕には自衛の手段が二人みたいにないんだよぉ。魔術式だって、そこまで得意じゃないし」
「私が守ってやる! だから頷け、いいな?」
「う、うん」
意見は纏まった。
ならば、植物たちとは別に自分たちの足でも捜索を始める。聖羅が何の迷いもなく一本の道を選んで先頭を歩き始めた。
「聖羅?」
アレッタは聖羅の隣に並び、香織と幹久はその後に続く。
「地面を見てみろよ。分かりづらいが足跡だ。ずいぶんとこの地下空間は長い間、人の手が入っていないようだなァ。クク、こいつは楽しみだ。案外、あの都市伝説は真実かもしれんぞ」
妙に気合いが入っている聖羅に、アレッタは小さく溜息をついた。
「何事もない。これが一番、最適な結果よ」
それにしてもこの迷宮は何処まで続くのか。
分岐が多すぎる。どの道も同じ造りで自分がどこに居るのか分からなくなる。そんな道をずっと、もう一時間近く経っただろうか。そんなときだった。捜索に向かわせていた雑草が、全て、同時に死に絶えた。
「……え」
無限の生命力をアレッタから供給されているはずの、植物たちが呆気なく、死んだ。
「おい、コイツはどういうことだ?」
急に聖羅が足を止めた。
背後の幹久と香織が彼女の背にぶつかる。
「いったぁい。もう! 聖羅、どうして止まったのぉ!」
香織が聖羅の肩越しに正面を見たときだった。
「あ……」
入口に似た広い空間に出た。
しかし、その空間の中心には玉座のような椅子が置かれ、巨漢が堂々と腰掛けている。その足下には、遠目から見ても死んでいることが確認できる数人の死体が積まれていた。
「新たな獲物か。ほうほう、空腹ではないが、いいだろう。我、異界の悪魔オキニウスが相手をしてやる」
こんばんは、上月です
『世界真理と魔術式』では不老不死であり、外道となっていた稲神聖羅。
この悪魔王との遭遇こそ、聖羅が人道を踏み外し、歪んだ最強を探求していく一歩となります。
次回の投稿は27日21時を予定しております