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悲しみを越えるべく1-4

 招集を受けた。


 これは久世香織の緊急招集。


 アレッタは溜まっていく仕事を一度放置し、久しぶりに自分の部屋から出た。どれほど業務に没頭していただろうか。最後に外出したのは、二ヶ月も前のことだった。信仰会暗部に釘を刺すために稲神聖羅と共に信仰会本部へと抗議に行った時以来だ。


 執行会の過激な魔術師狩り。


 もともと魔術師と信仰者は敵対する関係にあるのだから、そういった衝突は避けられない。しかし戦闘に特化していない魔術師や、最初から抵抗の意思をもたない者にまで手を下すのは看過できないと抗議をした。


 これ以上、無抵抗な者にまで危害を加えるのであれば、世界中の魔術組織総出で戦争を起こすと脅迫めいた言葉を冷たく言い放った。そんなアレッタの対応に執行会の一人が、停戦協定を持ち出してきた。基本的に危害を加えてくるのは執行会なのだから協定も何もあったものではなかったが、アレッタが承諾するだけで大切な同胞を守れるなら、と二つ返事でサインをした。


 それ以降、執行会による魔術師の被害は出てはいない。


 こう簡単に停戦が結べるなら、執行会はどうして過激に魔術師たちを襲っていたのか。


 お陰でアレッタは書類作業に取り組むことが出来た。


 遅れた業務はアレッタとクラウスでこなさねばならなかった。


「そろそろAAランクも数を増やさなければならないなぁ」


 クラウスはぼやいたが、アレッタやクラウスの意思だけでAAランクを授けることはできない。数名の候補はいるが、AAランクに相応しいとは思えなかった。


 考え事をしていたアレッタは香織の元気な声で我に返った。


「アレッタちゃん。ようやく来たね! 幹君も聖羅も揃ったことだし、出発しますか」

「香織さん。出発とは、何処へ行くの? まだ業務が残っているから、そう遠くへは……」

「だぁいじょうぶ。だって、敷地から出ないから」


 では、何処へ行くのか。


 何度もこれから向かう場所を聞いても、香織は答えない。黙って着いてくればいいと言いたげに歩幅が広くなっていく。


「おい、ここは」


 聖羅が初めにその場所に立ち止まって非難するように言った。


「そう! 化け物が出ると噂の地下への階段だよ」

「香織さん!」


 アレッタは責める口調と視線を香織に向けたが、あっけらかんと聞き流す香織は言った。


「二人とも強くなりたいんだよね。見て、この扉の下の床。ここだけ埃が薄いでしょ? どういう意味か分かるよね?」

「誰か、開けたの?」


 幹久は眉を潜めた。


「正解! でもね、帰って来てないんだ。入ったのは六人。そのうち二人は戦闘に特化した魔術理論を持つBランク」

「なるほどなァ。こいつは見て見ぬ振りはできないな。アレッタ、どうする?」


 この場所は立ち入りを禁止されている。


 開けられないように徹底した封鎖を施してしまえば一番簡単だが、好奇心旺盛が取り柄の魔術師はそれを壊して侵入してしまう可能性がある。特に若く怖いもの知らずな魔術師が危険だ。ならば、早々に原因を取り除いて安全地帯にしてしまった方がいいのかもしれない。そもそも多くの魔術師が生活する城に、こういった立ち入りを禁止する場所があること事態が危険だ。


「わかりました。潜って原因を探り、対処しましょう」

「ほぅ。昔と考え方が変わったなァ。規律絶対だったお前は、私たちを止める役目だったろうに」

「今の私は統括者です。魔術師達が安全安心して探求するために最大の努力をします」

「クク、いいぞ。どんな化け物が待っているか楽しみだ。お前が引き籠もっている間に、私はさらに世界を執刀したぞ」

「僕は戦えないんだから、守ってくれるんだよね!?」

「幹君、かっこわるぅい」

「うぅ」


 そんなやりとりが久しく感じたアレッタは可笑しかった。


「良い笑顔だな。お前の部屋を覗くと、いつもここが固そうだったぞ」


 そう言った聖羅はアレッタの眉間を指で押した。


「もう!」


 恥ずかしかった。


「では、行きましょうか」


 足を踏み入れた六人が無事でいてくれることを願いながら、一同は螺旋階段を一列に降りていった。

こんばんは、上月です。



『柊の楽園に咲く銀の花』も後半です。

この作品でしばらく世界真理シリーズは中断して、別ジャンルの小説を投降していきます。

魔術も魔法もでてこない普通のミステリー小説となりますが、もしよろしければ是非とも読んでください。投稿日はまだ未定ですが、活動報告でまたお報せいたします。


次の投稿日は20日の21時を予定しております。

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