聖羅との危険な旅1-6
また大きな部屋に出た。
何もないただの空間。展示室になるであろう、部屋の隅には機材が追いやられていて、真新しい匂いがした。
「さて、と。地図はないから感頼りになるわけだが、どの扉から行く?」
「えっ……?」
珍しく落ち着きなく右往左往する聖羅に疑問を抱きつつ、見渡すと部屋の至る場所に両開きのドアがあり、不気味と誘導灯に照らされている。
自分たちが入ってきた扉だけは両開きではなく普通の扉だった。きっと物置かなにかを用途にして作られたものだろう。それよりも、あの悪魔使いはどうして自分たちを閉じ込めたのか。あの悪魔の実力であれば、自分たち二人を殺すことくらい容易であったはずだ。それを閉じ込めておく必要性がわからない。
「おい、聞いてるのか? どの扉を選ぶんだよ」
聖羅の呆れた声に我に返るも、簡単に返すことは出来ない。
罠の可能性もある。自分たちを生かしておいた理由も必ずあるはずだ。なにせ、こんな簡単に拘束を解いてしまったのだから。
「お前の悪いところだな。優柔不断は時として命を散らすぞ。いいか、確かに考えるのは大事だ。だが、即決しなけりゃいけない時だってある。それが今この時だ。あの悪魔使いは私たちが足掻く様子を楽しむ魂胆だ。楽しみ抜いた後に殺す。妙な自信に浮かされた馬鹿のやることだよ。私たちは監視されている」
「え、ど、どうして分かるの」
「よく周りを見てみろ」
「周り……、あ、監視カメラ」
「正解だ。あのカメラ、私たちの動きを追って、わずかに動いた」
「妙な聖羅の動きは監視カメラを確かめるため?」
「当たり前だ、馬鹿者。私が意味も無くうろうろと不審行動をとるものか!」
「ふふ、安心したわ。頭がおかしくなってしまったのかと」
「クク、言ってくれるな。だが、私も安心したよ」
「……ん?」
聖羅は歪めたいつもの表情で喉を鳴らして笑い、悪党らしいギラついた、されど美しい赤茶色の瞳は一つの扉を見据えた。
「正解はあの扉だ」
「根拠はあるようね」
「ああ、扉の足下をよく見てみろ。うっすらと積もった埃に足跡がついてるだろ」
薄暗い場所でそんなこと言われてもそんなものを見つけられないが、言われてみれば確かにそんな跡があるようにも見えた。
「奴の誤算か、あえてのヒントかは知らんが、迂回した足跡も見て取れる以上、あの扉で間違いは無いだろう」
聖羅はずんずんと歩いて扉を蹴り開けた。
そうとう苛立っているのだろう。あのプライドの高い聖羅を相手に、こんな舐めた仕打ちをされたのだから当然だ。アレッタ自身にも、最近は統括者としてのプライドが確立された。そんな真新しいプライドを傷つけられたのだ、お前では誰も守れないと言われたような、生殺与奪はこちらにあるという高慢な相手に、聖羅ほどではないが、一矢報いたい思いがふつふつと湧いていた。
聖羅が立ち止まって振り返った。
とても美しい、とても危険で、とても刺激的な笑みを浮かべて。
「守るぞ。これ以上の同胞を失わせない。舐められたままというのも癪だしな」
「ええ、もちろん!」
以前に何度か見た笑み。
一糸纏わぬ、着飾らない笑みだ。
ニィと笑うのではなく、自然で、温かみのある笑顔だ。
どうしてこういう場でこんな優しく微笑めるのだろうか。
聖羅は直ぐにその表情を消し、赤茶の長い髪を舞わせながら、また歩き出した。
こんばんは、上月です
次回からしばらく毎週日曜日の21時投稿に切り替えます。