聖羅との危険な旅1-5
聖羅とアレッタが二人がかりで挑んだ結果がこの様だ。
暗い部屋。だんだんと濃厚になっていく血のニオイ。紐状のもので身体の自由を押さえ込まれ、脱しようと魔術式や魔術を試みるも、どうしてか魔力が上手く全身に行き渡らない。
「聖羅……」
「ああ、分かってるよ。まったく、どういった理屈が作用しているんだか……なぁ」
聖羅の諦観じみた溜息はアレッタを一層不安にさせた。
「それにしても、あいつだ」
「あの悪魔は、人間が対抗できる相手ではありませんね」
「悪魔なんかじゃあない。柊のことだ。あいつの場合は死ぬぞ。私たちは戦闘に特化した魔術だったのと、二人がかりだったのが幸いだった。閉じるだけのあの魔術、アレはぶち壊してくるぞ」
「え、ええ……。そうね。でも、柊先生ならきっと、必ずあの悪魔を倒し、私たちを助けてくれます」
「クク、いつまでたってもおんぶに抱っこだなぁ。この危機を自分で脱して、忌々しい悪魔もろともあの根暗野郎を執刀してやる、くらいの事を言ってのけたらどうだ」
「あまり喋らないで。傷に障るわ」
「退屈なんだよ、私は。不老不死なら無茶も出来るんだがなぁ。クク、死なない人生ってのはどんなだろうな」
「死なない、ではなく。死ねない、の間違いでしょう?」
聖羅はかもしれんな、と笑った。
「なんにせよ、だ。このまま囚われの姫に収まってやるつもりはないぞ。お前はどうだ? ずっとこうして王子様のお迎えを待つか?」
聖羅への返答は決まっている。
「私も待つだけの姫なんて柄じゃありません」
「クク、それでこそ統括者様だ」
姫ではなく統括者。
その役割を忘れてはいけないし、そのための努力を続ける。
しかし、問題は魔術も魔術式も扱えないこの上京での脱出をどうするべきか。
「よし、抜けられた」
「……え?」
自分を縛る紐状のものに温かな手が触れた。それが聖羅の手であることはそのぬくもりからわかった。
「ど、どうやって?」
「縛りが甘いんだよ。なぁに、ちょっと汗をかいて潤滑油代わりにしてやったんだ」
そう言った聖羅の手は確かに濡れているようであった。
確かに縛りが甘かったのだろう。ものの数十秒で紐はほどけた。
「生憎だが、魔術媒体は私の手にはない。奴が預かっているんだろう。アレッタ、お前はどうだ? 植物はこの近くにありそうか?」
「この周囲には植物の生命力は感じられない。でも、何処かにはきっとあるはず。博物館敷地内のどこかにはある」
博物館を破壊した植物たちが伐採されていなければまだ可能性はある。
「まずはこの部屋から出るとするか。その後のことはその状況に応じて行動すればいい」
「まったく、聖羅は本当に行き当たりばったりね」
「それでどうにかなるんだよ、私の場合はな」
「それでこそ、私の親友よ」
「当然だ。最強を探求するのに、これくらいの障害を障害だと思えているようでは、誰も守れん。知らない悪魔だ。ならば、奴の薄皮一枚一枚をゆっくり執刀して、全てを知り尽くしてやる。お前はどうだ? アレを知って成長をして見せるくらいの気概はあるか?」
「それこそ、当然よ。統括者として魔術師に敵意を持つ者を放置はしておけない」
「なら、行くぞ」
聖羅はアレッタの手を握った。
暗がりの場所をなんの迷いも無く聖羅は歩いて行く。
「ビンゴだな」
聖羅はノブを回して扉を押し開けた。
こんばんは、上月です。
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