聖羅との危険な旅1-3
ホテルで一休みした後、夕方から店を梯子していた。
店ごとにソーセージの味が異なり、これまでの店の味と比較しながら女二人で酒を楽しんでいた時だった。
「お二人……。魔術師、ですよね」
二人の会話に割って入ってきたのは、賑やかな店で浮く暗さを纏った男だった。
「ああ? なんだ、お前は。私たちは休暇を満喫しているんだ。仕事は他を当たってくれ」
不愉快そうに手であしらう聖羅だったが、困っている人を放っておけないアレッタは、彼に頷いて話しを聞く姿勢を見せた。
「おい、止めとけ。休暇中だぞ」
「話を聞くくらいなら」
「お前は聞くだけじゃ済まさないだろうが」
聖羅はビールを追加注文し、男は隣の席から椅子を拝借してきて席を共にした。男はチラチラと聖羅のご機嫌伺いをするので、聖羅はさらに不機嫌になっていく。
「彼女のことは気にしないで、私に話してください」
「ええ……ありがとうございます。実は、その、ですね。私はこういう者でして」
男はヨレたスーツの内ポケットから一枚の名刺を取り出した。
「クラウさんは、魔術組織を運営される方なのですね」
名刺には彼が魔術組織の代表だと記されていて、アレッタは彼の名刺をしまい、代わりに自分の名刺を差し出した。
「シェルシェール・ラ・メゾン……。統括者!? あ、アレッタ・フォルトバイン様!?」
驚愕仰天とした反応を見せた彼に店中が注目した。
「はい。今は休暇を取って、此方の稲神聖羅と共にソーセージ巡りをしています」
「稲神聖羅!? な、なんて、とんでもない人達に声を掛けてしまったんだ」
「後悔するなら、とっとと失せてくれると助かるんだがなぁ。こっちは仕事を忘れたいんだよ」
「構いませんよ。お話しください」
対立する意見に挟まれた男は、肩を丸めて恐る恐る話し始めた。
「実はですね。私はこのドイツで小さな魔術組織を構えておりまして、事務所には私を含めて四人なんですが、先日、依頼が珍しく舞い込んできてですね。三人を向かわせたのですが、その、連絡がですね」
「音信不通か。まあ、何かあっただろうな」
いつの間にか聖羅も話の輪に加わっていた。
「それで、依頼内容はどういったものなんだ? 受注ランクは見合っていたのかぁ?」
「はい、お恥ずかしながらCランク受注可でしたので、内容はですね、軍事博物館に展示されている戦闘機が行方不明になったので、探して欲しいというものです」
「戦闘機なんて馬鹿でかいものが無くなるか? 警備はどうした。防犯カメラは調べたのか?」
「ええ、私共も確認したのですが、ぱっと消えたんです。ええ、それはもう映像からいきなり消えたんです」
「ほぅ、奇術みたいだな。まあ、そんな魔術理論を有した奴もいるだろうな。よし、話は聞いた」
アレッタが感心して聖羅を見る。
なんだかんだ言って、困っている人を見捨てておけないのだ。アレッタはいざ彼に協力をしようとしたところで聖羅はアレッタの期待を裏切った。
「お前はさっさと消えろ。休暇の私は動かんぞ。というよりも、だ。話を聞いたんだから酒を奢れ」
「聖羅!」
顔を染めずにジョッキを煽りながら、ぶつぶつと文句垂れる彼女を説得するのに時間が掛かった。彼女の為に追加での休暇申請を電話で柊に告げ、申し訳なさを払拭するためにアレッタもジョッキを何倍も勢いよく空けた。
「よろしくお願いしますね。稲神様、フォルトバイン様」
男は伝票を手にして支払いを済ませた。
こんばんは、上月です
仕事が繁忙期に入ったので、一週間に一話から二話のペースに切り替ていきます。
次回の投稿は27日21時を予定しております!