聖羅との危険な旅1-2
飛ばした。
国道を外れた田舎道を、真っ直ぐ直線に走り続けた。国境までの道のりで何度も襲い来る睡魔と戦うために、出発前に作った紅茶を水筒に入れておいて良かった。聖羅が何度も運転を代われと煩かったが、そこは断固として拒否して車を走らせ続けた。
これはヨゼフィーネの形見だ。
聖羅にハンドルを握らせて、万が一のことがあればヨゼフィーネの墓前で何度も頭を下げ続けるだろう。それになにより、アレッタはこの車を運転することに高揚感を確かに感じていた。
「ようやく付いたわね。どこのお店で食べたり呑んだりしたいの?」
「さぁ、特にこだわりの店なんてないからなぁ。どこでもいいだろう」
「だったら別にドイツから取り寄せたソーセージとビールでもいいじゃない。この休暇でやりたいことが色々あったのに」
「クク、お前は馬鹿だなぁ。まあ、それくらいがお前にはちょうどいいよ。というより、だ。アレッタお前、話し方変わったな」
「ええ、貴女だけにはね」
「ほう、それはどういった意味合いが込められているのか、気になるじゃあないか」
そうだ。
もう自分は甘えている立場では無い。一人の統括者として独り立ちしなければならないのだ。口では聖羅だけとは言ったが、実際は他の者達とも今とは口調は違えど、誰に対しても下手に出る立場を切り捨てた。対等。それがアレッタの他人に対する接し方。これが、成長したアレッタの見出した接し方。顔色伺いをしていたり、他人と百二十センチの距離を空けていた頃が懐かしい。
そんな懐かしむ時間さえ、多忙に身を揉まれて作れなかった。
「聖羅、まさか……」
「ん、なんだ?」
「いいえ、何でもないわ。気にしないで」
聖羅に限ってそんな気が回るはずも無い。
聖羅が仕事を手伝ってくれなければ、きっと今も書類や他組織との連携に追われていた。聖羅が誘ってくれなければ、色々とやることがあると言っても、それはシェルシェール・ラ・メゾン内、もしくは国内の街で済ませられる程度だ。こうして国境を越えた旅行なんて来ることもなかったはずだ。
「まあ、羽を伸ばそうじゃあないか。クク、女二人旅だぞ。グルメ、ショッピング、観光。ああ、そうだなぁ。あそこにも行きたいぞ。軍事博物館」
「どうして、そんな場所に? まあ、いいけど。そうね。楽しみましょ、女二人旅を」
聖羅はニッと笑った。
アレッタも眼を細めて口元を少し持ち上げた。
しかし、直ぐにこの場にそぐわない考えがよぎった。
「聖羅は……」
「んぁ?」
「居なくならないわよね?」
こんな発言は不適切だ。楽しい時間に歪みを生む一石。波紋が車内に広がっている感覚。
聖羅は助手席の窓へ顔を向け黙り込んでしまった。
謝ろうかと思ったが、そのタイミングを崩したのは聖羅だった。
「私が居なくなったら、誰がお前達を守るんだ? 幹久、香織、アレッタ。お前達は私の親友だ。掛け替えのない、確かな輝きだぞ。それに、だ。私は魔術師として、世界真理に至る前に死んでやるつもりはないぞ。そもそも、私は天だ。実力も十分だ。こんな私を誰が殺せる?」
反論できるならしてみろ、といった挑発的な笑みだ。
「たぶん……、いいえ、きっと貴女を倒せるのは、私だけ。だから、聖羅は死なないわ。そうでしょう? だって、私は聖羅の親友で、私は聖羅に守ってもらえるんだもの」
すました顔で返すと、聖羅は吹き出した。
「クク、ククク、言ってくれるなぁ。ああ、楽しいぞ。お前は本当に変わった。これを成長と言わずに何と言う。愉快だ。実に実に愉快爽快だぁ! よし、今日は呑みまくるぞ!」
興が乗った聖羅には敵わない。
だから首肯した。これは彼女の勢いに流されただけではない。聖羅とただ一人の親友として呑んでみたかった。いつもは頭の片隅に仕事が巣くっていて、飲み会の最中でも仕事のことを考えていた。だから今日くらいは。
「潰れたら、介助してあげるわ」
「私は酒に強いぞ?」
都市をあてもなく走らせた。
こんばんは、上月です
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