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聖羅との危険な旅1-1

 めまぐるしい日々が続いた。


 統括者見習いだった頃も忙しかったか、いまはその比ではない。一日が二十四時間では足りないくらいに忙殺され、彼女を失って半年が過ぎていた。


 自分の誕生日さえも気付けば一ヶ月前のことだ。


 アレッタ・フォルトバインは二十四歳になっていた。


 そしてようやく、多忙の仕事をクラウスや柊と協力して片付けた。もちろん彼らだけではなく、他の魔術師達にも手伝ってもらった。


「今日から私が一週間の休暇、私の次にクラウス様、最後に柊先生」


 どうやら、彼と共にゆっくり過ごせる時間はなさそうだ。


 柊は仕事を屋敷に持ち帰って、花園の世話をしながらだったので、まだ息抜きができていたが、クラウスもいい歳なので、あまり無理はさせられない。そのことを彼に直接伝えたところ、笑いながらまだまだ現役だと返された。


 立派な木製机に置かれた黒電話を取り、内線番号を押す。


 数コールのあとに、聞き慣れた彼女の声を聞いた。


「統括者様のお仕事は片付いたのか?」

「ええ、聖羅にも色々手伝わせたわね。お礼として食事にでもどう?」

「クク、ブラック企業も真っ白な企業に思えるくらいの労働を任されたからなぁ。存分に労わせてやっても良いぞ」


 溜まりに溜まっていく書類を、誰より効率的に片付けたのは稲神聖羅だった。彼女の協力なくして今の自由時間は無い。嫌々で仕事を進めていくうちはどうなるかと思ったが、柊と自分の仕事量より多くをこなした彼女には頭が上がらない。だからこそ、こうして食事の誘いをしたのだ。


「ドイツに行くぞ」

「……え?」

「その歳で耳が遠く立ったかぁ? ドイツだドイツ。本場のソーセージとビールをたらふく腹に押し込めなければ、私の疲労は癒えんぞ」

「はぁ……、わかったわ。私の休暇は明日から一週間。明日の朝からでいいわね」

「何を馬鹿なことを言っているんだ、お前は。今からに決まっているだろうが」

「えっ、私はいま仕事を終えたところなのよ!?」

「だからなんだ。今から行かなきゃ楽しみが逃げるだろうが」


 ソーセージもビールも逃げはしない。


 結局、聖羅に押し切られてしまい直ぐに荷物を纏めにかかる。


 鞄に衣服を詰め込みながら聖羅に対する愚痴をこぼしつつ、次いで鏡面に立って身だしなみを整える。


 ドレッサーには赤い花のキーホルダーが付いた車の鍵を握る。これはヨゼフィーネの車の鍵だ。彼女が亡くなり、車を競りに出そうとしたクラウスにお願いして譲り受けた。どれだけ忙しくても車の拭き上げだけは欠かさなかった。ヨゼフィーネも毎日入念に手入れをしたから、自分の意思で受け継いだからには、彼女の流儀に倣おうと決めていた。


 赤いスポーツカーの前には聖羅が身軽な装備で立っていた。


「遅いぞ。いつまで待たせるつもりだった?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべる彼女の挨拶がわりだ。


「聖羅、あなたは本当に荷物はそれだけなの?」

「ああ、問題はないな。必要なモノは現地で手に入れれば良い」


 やり手編集者のような服装の聖羅は助手席に乗り込み、アレッタは荷物をしまってから運転席に乗る。黒いハンドルは重くエンジンを掛けると、さらにその重みが増した。


 聖羅はそんなにソーセージとビールを楽しみにしているのか、ご機嫌そうに窓の外を眺めていた。

こんばんは、上月です



次回の投稿は18日21時を予定しております!

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