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赤の奇跡1-2

 アレッタの評価は統括者を初め、多くの魔術師たちからも期待を集めていた。


 しかし、ついには過労で倒れ、大切な仕事を聖羅とクラウスに任せてしまったのが悔しく、もう少し自分の体調管理も視野に入れて働かなければならないな、とベッドの上で反省した。


 翌朝には気分は晴れ、身体が驚くほど軽かった。一日の休息でここまで快調になれたのは間違いなくヨゼフィーネの薬のお陰だろう。


 さっそく身支度を調えてヨゼフィーネの部屋へと向かった。


「どうぞ」


 ノックをすると中からヨゼフィーネの声が迎え、ゆっくりと扉を開けて半分だけ顔を覗かせた。


「おはようございます。ヨゼフィーネ様、お仕事の方はどうでしょうか?」

「心配しなくても見つけておいたわ。探せばいくらでも仕事は見つかるのよ。世界最大の魔術組織ですからね。そんな場所に立っていないで、お入りなさい。仕事の打ち合わせをするわ」

「はい! 失礼します」


 ソファーに腰掛けるよう促され、おとなしく腰を落ち着かせて待っていると、数枚の資料を手にヨゼフィーネが対面に座った。


「依頼ランクで言えば、AAランク相当。本来は稲神聖羅とクラウス殿もしくは柊殿に回すはずだった仕事よ」

「危険、なんですね」

「危険のない仕事なんてないわ。たとえDランク内容であっても、現場で予想外のアクシデントだってあり得るの。これまでに予期しない執行会や植えた狼といった他勢力の介入で命を落とした者も多いわ」

「そう、ですね」

「これだけは忘れないで。忘れた者から死が寄り添ってくる。魔術師はあくまでも世界真理を探究する学者。執行会や飢えた狼、魔法使いのように戦闘特化の存在ではありません。個ではとても弱いの。稲神家や久世家のような例外はあるけれど、あの家の出でさえ、結局は学者。死ぬときは死ぬ」

「……はい。大丈夫です」

「本当に貴女は高潔ね。自分の立場をおごらず、常に向上心と初心を忘れない姿勢。とても素敵よ」

「あわ、わわ」

「ふふ、可愛い。さて、打ち合わせといってもやることはただ一つ。ある悪魔使いの殺害」

「悪魔使い……?」


 初めて聞く言葉にアレッタは首を傾げた。


 魔術師は弱い分、悪魔と契約して相応の代価を支払って協力関係を築く。


「使役悪魔とは違うのですか?」

「魔術師が召喚する悪魔は利害の一致による協力関係にあるの。まあ、悪魔と契約していないアレッタには、いまいちピンとこないかもしれないわね。悪魔使いは何らかの手段を用いて悪魔を従属させる者、かしらね」

「悪魔使いについてはなんとなく理解はしました。ですが、悪魔使いなんてこれまで聞いたこともないのですが、勢力として確立しているのですか?」

「このまま質問と回答を繰り返していたら時間に間に合わなくなる。私の車で続きを話しましょう」


 ヨゼフィーネは歩きながら読むように、と数枚の資料をアレッタに手渡し、スーツの上から愛用の白衣を纏う。魔術師は対物理、対神秘の魔術式を特殊な糸で黒のロングコートの内側に刺繍するのだが、彼女が黒コートを着たところを一度も見たことが無い。白衣に刺繍を仕込んでいるのかもしれないが、どうして彼女は白衣を着ているのだろうか。彼女はこの組織の医師も兼任しているので、そのせいかもしれない。


 古城の裏手には数百数千という車やバイクが停められており、これら全てはシェルシェール・ラ・メゾンに在籍し、現在古城で世界真理探究に勤しんでいる魔術師たちのもの。これだけの大人数が生活できる巨大な組織もそうあるものでもない。


 裏手口直ぐ傍からランク順に並んでいる。ヨゼフィーネの車は赤いオープンカーだった。隣に並ぶフォルクスワーゲンの初期型はクラウスのもの。柊は車を持っていないので、その隣には新車のレクサスが斜め駐車してある。とても迷惑な停め方だ。他人都合なんてお構いなしの自分勝手を貫く姿勢は、そう、稲神聖羅のものだ。


「あと数センチでクラウス様の車にぶつかってしまいます」

「ふふ、そうね。でも、クラウス殿も気にしていないみたいよ。むしろ、これを挑戦と受け取ったみたいで、ぶつけないように自分の運転技術を見せつけようとしているのよ」


 何事も楽しく挑む(いきる)。クラウスの生き方だ。中年も過ぎたからこそ余生を思い残すことのないように、あらゆる未知へ挑戦し続ける。笑って過ごし、笑って逝く。彼らしいとても真っ直ぐで穏やかな人生観。いつか、自分もそんな風に年を取りたいと思っている。


 アレッタは助手席に乗り、シートベルトを締めた。

こんばんは、上月です



次回の投稿は8月2日の21時を予定しております!

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