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赤の奇跡1-1

 何事もなく忙しない日常が続いている。


 アレッタはAAランクの魔術師として数々の危険な任務をこなしながら、魔術理論と自分の成長を比較しながら魔術研磨に励んでいるおかげで、最近は幹久や香織、聖羅たちと過ごす時間を作れずにいた。


 今日も一日の業務を終えるとすでに日付が変わっていて、また数時間後には今日の仕事を片付けていかねばならない。はっきり言って激務だった。アレッタは現在、統括者見習いとして三統括が請け負う比較的簡単な仕事を回して貰っているのだが、それでもこうして日付が変わってしまう。


 仮眠を取らなければ。


 アレッタは部屋に取り付けられているシャワーで身体を綺麗にして、そのままベッドに倒れ込んだ。いつもすぐに眠りに落ちてしまう。瞬く間に朝になる。起床して簡単な朝食を作り一日のスケジュールを確認する。


「……はあ。今日は依頼の日でしたね。運転はキルツェハイドさんにお願いしてあるので、その間に書類を片付けて、依頼内容にもう一度目を通して……あれ?」


 視線が天井を向いたかと思うと、身体から力が抜け落ちた。後のことはどうなったかは覚えていない。再び目を覚ますと天井を見上げていたが、自分が横になっている場所は自室の床ではなく、フカフカのベッドだった。枕と掛け布団からはジャスミンの香りがほんのりとする。


「まったく、そんなに私と任務に行くのが嫌でしたか?」


 声のする方へ視線を向けると、ベッドの縁に腰掛ける赤髪の女性、ヨゼフィーネが呆れた表情でアレッタを見ていた。


「ヨゼフィーネ、さん?」

「過労よ。しばらくは業務を休みなさい」

「ですが、私は……あっ、今日の仕事!」


 跳ね起きるアレッタの肩に両手を添えて、そのままベッドへアレッタを寝かせたヨゼフィーネは、大きな溜息をついた。


「任務には柊殿と聖羅に行ってもらったわ。サボり魔とちょうどいい暇人が居たから、お願いしたの。だから、今はゆっくりと身体を休めていなさい」

「すみません」

「謝るのは私の方よ。一応、この組織の医師も兼ねている私が、貴女の状態に気づけなかったのは、確実に私の落ち度。無理をさせすぎたわ。ごめんなさい」


 そう言うと、ヨゼフィーネは簡易キッチンへ向かい、お湯を沸かし始めた。


 ここはヨゼフィーネの部屋らしい。アレッタはしばらく黙って天井を見上げていた。こうしてゆっくり過ごすのはいつぶりだろうか。


「これ、飲みなさい」


 ティーカップには粘度の高い深緑色の液体が、プルプルと揺れている。これを飲めというのだから、アレッタは口元を真一文字に引き延ばして、あからさまに遠慮したいという表情をした。


「な、なんでしょうか、これ」

「疲労軽減、ビタミンA、ビタミンC、その他多くの栄養を濃縮した、薬草を配合したお茶よ。確かに味は不味いけど」

「良薬口に苦し、ですか?」

「日本の諺ね。そう、その通り。アレッタ、あなた鏡は見た?」


 言われて思い返すがここ最近は鏡を見た覚えは無い。


「少しやつれているわ。まだ若いのに、髪だって毛先がパサパサになっているし、栄養不足の証拠。だから、これを飲みなさい」

「は、はい」


 手渡されたカップの中身に視線を落とし、恐る恐る一口。


「うぅ、うぇ。苦いです」

「あ、そうだ。少し待っていなさい」


 ヨゼフィーネは戸棚から瓶を手に戻ってきた。黄色い粘性の液体が入っている。蜂蜜だった。それも擦りリンゴ入りの美味しい奴だ。それをスプーン一杯すくって、アレッタの薬茶に落としてかき混ぜた。


「これで苦みが抑えられたはずよ」


 もう一口。


「あっ、これなら飲めそう。リンゴの酸味と蜂蜜の甘みが苦みを抑えてくれてますね」


 まだ多少の苦みは残るが、これくらいなら粉薬と大差ないので、一気にジュース感覚で飲み干した。


「最低でも今日一日はゆっくりしていなさいよ。私との任務はまた別の機会に」

「あ、明日で! 明日受注できるものは何かありますか?」

「明日? ここ最近の貴女は働き過ぎ。最低一日とは言ったけどね、私としては三日は栄養のある食事と休息を取ってほしいのだけれど?」

「大丈夫です。一日だけ休息を頂ければ。それに一番の働き過ぎはヨゼフィーネさんですよ」

「そう……、そうかもしれないわね。クラウス殿と柊殿が職務怠慢で私に全てしわ寄せが来るんだから、たまったものじゃないわ」

「ですね」


 ヨゼフィーネにお願いして、明日受注できる仕事を探してもらうことになった。

こんばんは、上月です



次回の投稿は30日の21時を予定しております!

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