疑わしき依頼1-15
勝算なんてない。
アレッタは成長の魔術理論の恩恵を受けた一帯の植物による殴打や刺突、植物同士を配合させて生産した新種の毒素を使い、赤い靄に効果的な系統を見極めるべく奮闘していた。
もちろん聖羅も勝算を未だに導き出せていない。
今、目の前のアレについて分かる情報は数少ない。
人型の赤い靄。一切の物理や魔術等の神秘も効果が無い。数千数万の命を一瞬で滅する一撃。まったく攻略に関して有用な情報は無かった。
だがしかし、あの靄はアレッタの一言に反応を示したのを聖羅とアレッタは見逃さなかった。
アダム・ノスト。イヴリゲン。
世界に溶けた魔術の創始者の名を、アレッタはもう一度口にした。
靄は喜びを表現するように靄を濃くさせた。
「アダムは何処に行った。あの靄に対抗しうる力はアダムくらいだ! いないなら、探してこい。ここは私が全力で相手をする」
「ですが……、いいえ、そうですね。聖羅なら二、三十分は余裕でしょう?」
「クク、無茶を言ってくれる。だが、お前がそこまで期待してくれているのなら、私は応えねばならんな。そうだろう?」
「ええ、私は最高のサポートをします。必ず、アダム様を連れてきます」
「行け」
アレッタは植物たちにそれらしき人物の目撃情報を片っ端から聞きながら、森の中を走る。あっちに行った。こっちに吹き飛んだ。違う違う、こっちじゃない。アレッタはあっちへこっちへ、走り続けてようやくそれらしき人物を見つけ出すことが出来た。多い茂る木々の奥からは爆発や雷鳴が立て続けに聞こえてくる。聖羅が魔術だけで無く魔術式をも片っ端から試しているに違いない。音の規模からして一撃一撃に相当の魔力と集中力を注ぎ込んでいることがわかった。あんな無茶な戦い方では、流石の聖羅も魔力はもちろん心身の疲労に尽きてしまう。
聖羅は必死なのだ。
あの常識外れな攻撃をまた食らえば、跪いて身動きの取れない者は逃げる統べなく消滅させられる。だから聖羅は消耗なんていうリスクを忘れて、相手に隙を与えてなるものか、と足掻いているんだ。
早く帰らねば。
「アダム様! 起きてください。早く、貴女の助力を必要とする人達の為に、起きてください!」
自分の知っているアダムであれば、こんな無様な姿は晒さないはずだ。この少女はいつかの時代のアダムだと言っていた。まだ人として、世界真理の探究を歩んでいた頃の未熟な魔術師。
泥塗れになった顔を手で拭ってやり、肩を掴んで思いっきり揺らした。脳震盪を起こしている可能性もあったが、今はそんなこともいっていられない。早く目を覚まして貰わねば、多くの命が、世界そのものが壊されてしまうのだから。
「助けてください! 私は貴女を連れて戻ると親友に約束したのです。アダム様も自分の役割を思い出して、起きてください!」
必死な声かけに、アダムは薄めを開けてかすれた声で言った。
「世界に申請をしました。了承まで、あと五分。時間が惜しいのは私も、同じなんです。アレッタ様、どうか、私を戦場まで連れて行ってください。身体の損傷が激しく、今の私では、満足に動くこともかないません」
アレッタはアダムの身体を起こし、腕を自分の首へと回して、ゆっくりと歩く。
植物たちは道を示すように二人のために道を空けた。
「こんな時に聞くタイミングではないのですが、お聞かせ頂いてもいいですか?」
「真理へ至ったこと意外であれば、何でもお聞きください」
「名門魔術はどうして日本の家系が多いのですか。それと、各名家が掲げる、正道の津ヶ原、外道の稲神、邪道の久世、無道のフォルトバイン。これにはどういった意味があるのですか」
なるほど、とアダムは誰かへ確認をしたように頷いた。
「四家四道思想にはしっかりと役割があります。正道は常に正しく模範となる思考で規律を諭す者。外道は正道から外れ、常識に捕らわれない発想で支える者。邪道は、自ら進んで手を汚す手法を躊躇いなく行使する実行者。無道はどの道も歩めず、どの道も歩める共感者」
アダムは息を吐いて、続けた。
「なぜ、名門が日本家系に多いのかは、その姓にあります」
こんばんは、上月です
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