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疑わしき依頼1-14

 あの非常識な外的存在に抗うには相応の対価を必要とする。


 少しでも出し惜しめば、微々たる希望の光も差さない。やるならば徹底的に、自分にとって掛け替えのない代物を秤に掛ける。自分の命一つでどれほどの等価を得られるか。


 多くの犠牲が瞬きの間に消し飛ばされた。


 自分には責任がある。


「私の命をさっさと持って行きなさいよ! 早く、この命の輝きの等価を寄越しなさい!」


 ヨゼフィーネは声を荒げ、命を猛らせて、今を燃焼して生きる。


 これが最期。


 意外と早い現世との別れを惜しむ余裕なんかない。今はただ、これ以上の犠牲を生む前に、等価交換を済ませて、残す者達に僅かな可能性の希望キレツを裂いてやりたかった。


「なんてことを……」


 彼女の可能性を秤に差し出す堂々たる姿勢。魔術陣がヨゼフィーネと赤い靄の中心に広がっていく。


「莫迦な真似はするなァ!」


 自慢の一張羅を泥塗れにしたクラウスが激高しながら、ヨゼフィーネの腹に拳をめり込ませる。短い悲鳴を上げ、忌々しそうにヨゼフィーネがクラウスを睨み上げるが、彼女の意識は途切れ、クラウスの腕に力なくもたれかかった。


「まだ年若いお前さんが、命を軽々しく投げ出すな。その役目はこの老いた身一つで十分だと言うのになぁ」


 赤い靄はただ立ち尽くす。一歩も動かずに。何かをするでもなく、ただただ人間を観察しているようであり、彼らを見てさえいない気配もある。


 赤い靄は誰かを待っているのか。


 先ほどの広域で圧倒的な破壊の一撃を放たない。


 アレッタは考える。一体なぜ、靄はもう一度あの破壊の神秘を使わないのか。さっきまであって今はないもの。いいや、居ない人。そう、ただ一人いた。


「アダム様を待っている?」


 赤い靄が微かに揺らいだ。


 初めて他人がそこにいることに気が付いたように。


 アレッタは靄が自分を見ている気がした。


「うぅっ……」


 息苦しい。アレを前に対峙していることが恐れ多い。無意識が屈服し、アレッタは周囲の不可解な面持ちの視線を受けながらも膝を折った。


 跪いた。


 あれは人が対峙してはいけないもの。世界に溶けたアダム・ノスト・イヴリゲン相手でさえここまでの畏敬と畏怖の念を抱かなかった。そして、赤い靄が視線を周囲に向けると、誰も彼もがアレッタに倣い膝を折っていく。


 誰もが刃向かう意思を、意志に関係なく手折られていく。


「どうして、だ」

「巫山戯た真似をしてくれるじゃあないか。神の御前を演出して見せたいのかァ? あいにくだが、神なんて信じてもいなければ、敬ってやるつもりもないぞ」


 稲神聖羅だけ膝を屈してはいなかった。しかし、膝は震えている。心が挫けそうになっている。それでも最強を追い求める探求者は、何が何でも抗ってやるという意思を掲げ続けていた。


 聖羅はベルトに差したナイフを引き抜き、魔力を放出し、自分が歩むべき魔道げどうの魔術を展開した。


 不可視の刃が数千数万と数を増やし、無駄だと分かっていても、魔力が尽きるその瞬間まで挑み続けてやる、という姿勢はアレッタを熱くした。


 これは負けていられない。


 アレッタの畏怖畏敬は稲神聖羅の輝きに霞むと、急に身体が軽くなった。


「私も共に抗いますよ、聖羅」

「何度だって私が守ってやる。だから、二度とあんな程度に膝を折ってくれるな」

「ふふ、貴女が守ってくれるなら、私は貴女を支え続けます。いつまでも、ずっと」

「クク、愛の告白かァ?」

「ち、違います! 友愛です!」

「バッカ、どっちにしろ恥ずかしいだろうが。だが、お前らしい馬鹿真面目で素直な愛情だよ。」


 身動きの取れない大勢は、二人の少女に全てを託さざるを得ない不甲斐なさと、絶対に脅威を払い除けて欲しいという願いが一つになっていた。


「華麗に踊ってやろうじゃないか。無作法だが魅せてやるよ。なあ、そうだろう、アレッタ?」

「はい! 私は作法も身につけていますので、聖羅より綺麗に踊る自信はあります」

「クク、言ってくれる。なら私が採点してやろう。醜態をさらして恥をかかないよう、せいぜい過激に魅せてみろ」


 アレッタも魔術を披露した。


 大地が揺れ、地中から触手のように根が這い出し、草花も太く大きく成長し、主演をより一層に目立たせる端役に徹しながらも、最大限の役をこなそうと、躍起になっている。


「いくぞ!」

「いきます!」

こんばんは、上月です



次回の投稿は16日の21時を予定しております

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