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疑わしき依頼1-9

 右方部隊の柊は歩きながら星空を眺めていた。


 いつ、どこにいたって普遍に輝く星たち。こんな状況だからこそ、あの小さな無数の光を見上げて、少しでも不安や恐怖を払拭しようとしていた。


 魔法使いは過去に対処をした経験がある。


 だが、そのときは自分を含めて多くの負傷者を出し、多くの人が死んだ。魔法使いと聞けば、あの時の記憶が脳裏にフラッシュバックし、また、あの血生臭く、誰が生き残れるかも分からない地獄を経験しなければならない、と考えるだけで、動悸がしてくる。


 だからこそ、星空を見上げていた。


「柊様、大丈夫ですか?」


 魔術師の一人がずっと上を見上げて歩く柊を心配して、声を掛けた。


「ああ、うん。大丈夫。大丈夫だよ。それにしても、静かだよね。異界化された空間だというのに」

「確かに、そうですね。魔法使いも、化け物共も現れていません」


 予感がしていた。


 これから何かが起こる。それも最悪の部類。これまでの歪みとは比較ならない規模まで成長し、展開した異界だ。想像を逸脱した非常識な脅威が猛威を振るい、執行会と魔術師の大規模連合軍を息吹一つで壊滅させる何かが。そうならないためにも、ヨゼフィーネがありとあらゆる対抗策を練ってくれた。しかし、ヨゼフィーネも人。まだ、未知な神秘の深奥さえ覗いていない探求者だ。彼女の予測を大きく外れた事態だって起こりうる。そうなれば、どうやって対処するかは、各部隊を任された自分たちが指揮を執らねばならない。


「クラウス伯は、なんだかんだで、何事も上手く乗り切るし、ヨゼフィーネ殿も冷静な分析と的確な指示を出せるし、ああ、僕なんて何もできない平凡そのものだ」

「そんな弱音を吐かないでくださいよ。執行会の奴等に馬鹿にされてしまうじゃないですか」

「指揮は彼らに任せた方が良いよね。キミもそう思うだろう?」

「しっかりしてください。今、キルツェハイドさんを呼びますから」


 キルツェハイドが柊の人付き合いの中で、一番信頼している友人だというのは周知されていた。だからこそ、彼を隣に置くことで、少しでもリラックスしてもらおうという彼のアイデア。一度、柊から離れると、代わりに戻ってきたのはキルツェハイド・トールマンだった。


「聞きましたよ。ネガティブちゃんになっているそうじゃないですか。いけませんね。愛しい愛しいお嬢……アレッタ様が離れているからって、拗ねちゃまになられちゃ、こっちとしては命預けてるんですから、しっかりしてもらわないと」

「お酒とか、持ってないよね。ダメなんだ。緊張と恐怖が、ほら、こんなに震えてる」


 柊の手は小刻みに震えている。


手だけでは無い。声も弱々しい。こんな状態で全体指示なんてできるはずもない。キルツェハイドは肩を竦めて、懐から一枚の写真を取り出した。


「うわっ、懐かしい。いつの写真だっけ?」

「もう、十年も前ですよ。柊様が統括者に就任された時の写真です。まさか、俺なんかが三統括者と肩を並べて写真に収まるなんて、夢かと思いましたよ」


 まだ幼さの残る柊が緊張した面持ちで姿勢を伸ばしている。柊だけではない、まだ初々しさの残るヨゼフィーネも口を結んでいて、クラウスも皺が今よりも少ないが、いつも通りのリラックスした様子だ。柊の隣に並ぶキルツェハイドは、どうみても近所のワルにしか見えない。


 懐かしい写真でひと笑いして、目元に涙を浮かべながら、リラックスした表情を見せた。昔なじみの親友であり、魔術師としての先生でもある、日本のひょろっこい男性。柊春成の様子に稲神聖羅を意識した笑い方をしてみた。


「似てたよ。とても、似てた。でも、聖羅のほうがもっと悪役っぽいかな」

「あれは天性のものですよ。にしても、大変なことになっちまいましたねぇ」

「そうだね。できれば、もう二度と起きてはほしくはないと願っていた事態が、今こうして、最悪の状況で起きてしまった。僕は、いいや、僕たち統括者は、将来の魔術師たちの為に、命を代価として支払ってでも、歪みを滅する」

「アレッタ様たちの未来の為、ですね」

「みんなの為、だよ」


 苦笑した柊は息を飲んだ。


 目の前に一人の男性とも女性ともつかない人物が立っていたからだ。見覚えがある。しかし、記憶にない。だが、その人物と視線が合った瞬間、全ての記憶が鮮明に浮かび上がった。


「魔術の創始者、アダム・ノスト・イヴリゲン……!」

こんばんは、上月です



次回の投稿は28日の21時を予定しております!

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