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アダム・ノスト・イヴリゲンの陰1-12

 全魔術連組織にアレッタ・フォルトバインの名が知れ渡るのに三日も掛からなかった。


 AAランクと無限の称号を得たアレッタは、無限草花の魔術師という新たな肩書きを拝命された。多くの魔術師が最初から諦めている境地に弱冠十七歳でAAの境地に至った彼女には賞賛の声が上がり、世間では幾つもの型破りな論文や魔術式の発展に多大な貢献をした稀代の天才魔術師、稲神聖羅とその美貌を含めて比較された。俗な言い方をすれば魔術師界のアイドルだ。男性から多くのファンを持つ二人だが、それに比例して多くの敵からも要注意人物として指定されている。


「部屋はこのままでいいのかな? AAランクになったんだし、もっと広い部屋にも住めるんだよ」

「いえ、私はこのままこの部屋を使い続けたいです。というより、十分広いですので」


 巨大な古城には何千人分もの部屋があり、Dランク魔術師は二人部屋で、Cランクから一人部屋になり、ランクが上がるごとに少しずつ室内面積が広がっていく。Aランクだったアレッタの部屋も個人用の浴室やトイレ、簡易キッチンも付いて二十畳もある。あまり家具を置かないアレッタにとって、今のままでも広すぎる状態であるのに、さらに室内が広くなれば逆に居心地が悪い。


 使い慣れたこの部屋に愛着があったこともあり、このままこの部屋を使わせてもらうことにした。


「AAランクとして活躍を期待しているよ。次は統括者としてのステップがあるね。運営管理や連盟とのやりとり、本当に自分の時間が無くなるから嫌になるよ。最近だって三日に一度だよ、あの屋敷に帰れるのも。また丸投げして引き籠もろうかな」

「植物の世話をしていた時の生き生きとしていらした柊先生は、何処へ行かれたのでしょうね」

「庭園に逃げ帰ったよ。ここにいる僕は残留思念みたいなものだな。ははは」

「聖羅もAAランクの試験を受けられるんですよね?」

「うん。そうみたいだ。彼女もアダム創始者が試験監督をするらしいけど、二人して期日を前倒してやるアダム創始者は何を考えているんだろう。相変わらず性別も見た目も思い出せないんだよね。アレッタは覚えてる?」


 アダム・ノスト・イヴリゲン。


 魔術の祖であり、最初の魔術師。


 長い年月を生きていると言われるが、誰もアダムの姿を知らない。いいや、覚えられないと表現したほうが正確だ。確かにアレッタもアダムに二度会っている。夢の中と試験当日。だが、視界からアダムを外した瞬間にその容姿や声に至る全ての情報が記憶から抜け落ちてしまう。まるで、寝ている時に見ていた夢を起床と共に忘却してしまうむず痒さ。


 背景は思い出せても肝心のアダムにはノイズが覆っている。



 この話を聖羅にしたが、いつものように「その歳で痴呆にでもなったかァ?」と馬鹿にはされず、珍しく眉間に皺を寄せて深く考えこんでいた。仮にアレッタ一人の証言であればきっと茶化されていただろうが、唯一、面会を許されている三人の統括者もまた同様であれば話は別だ。いったい、どんな神秘が働いているのか。アレッタには考えても答えどころかヒントにさえ辿り着けないでいる。しかし、アレッタは聖羅ならば、という期待をしていた。世界という分厚い殻に覆われた世界真理に至るべく、外皮せかいを薄く執刀しながら世界を識り、世界真理へと到達する魔術理論を持つ彼女なら、アダムを覆う邪魔なノイズも切り取ってしまうのではないか。


 三人の統括者ですら口々に、頭の回転速度と常識の外側から俯瞰する思考は三人揃っても敵わないと次代の希望を賞賛していた。外道の魔道を歩んできた稲神家が生んだ化け物。ひねくれた魔術師は陰口を囁き合っているのを知っている。もちろん聖羅も知っているが「相手にするだけ時間と労力の無駄だ」と気にした素振りもみせない彼女は、やはり精神的な面でも強かった。自分の欲しいものを兼ね揃えている聖羅に対して、初めて会ってしばらくの間は嫉妬した。それもしばらくの間だけ。彼女と時間を共にするにつれて友情が芽生え、彼女なら、という信頼の形をアレッタの中で大きくしていった。


 今では密かに無乳同士として、どちらが先に大きく実るのかを競っていたりもする。


 こんなことは口が滑っても聖羅には言えないな、と苦笑しながらマッサージを就寝前にしていたりもする。


「じゃあ、僕はそろそろ戻るね。AAランクにはこれまで以上に危険な仕事が舞い込んでくる。しばらくは、手が空いている統括者の誰かが付き添うからそのつもりでいてね」


 柊は嬉しさと心配を混在させた笑みを浮かべて部屋から出て行った。


 残ったアレッタはというと、このあとに行われる昇格パーティーの準備をしなければならない。稲神聖羅、津ヶ原幹久、久世香織、同じ名門魔術家系で同年代の友人たちによるパーティー。


 場所は聖羅の部屋で、二時間後の十九時開始予定だ。


 これと言ってアレッタが用意するものはないが、手ぶらで行くのも気が引けるので、簡易キッチンで料理でもしてみようかとも思っていた。

こんばんは、上月です



今回で蕾の章が終わり、次回から開花の章が始まります。

物語も後半となり、またアレッタも23歳へと成長します。


次回の投稿は25日の21時を予定しております!

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